パープリン大将と、僕。 せこい奴。
「私Wじゃないですよ」
三吉が、がっかりして広げたスポーツ新聞を丸めた。
「このレースで負けたら死のうとおもっているんですよ」
男は、堰を切ったように、一気に話し出した。女、仕事、田舎、止まらない、切々と自分の運のなさを嘆いた、何から何まで嫌になった、こうなったらさっさと死にたいと、見ず知らずの大将に口説いた、大将は男の愚痴が一区切りするのを待って、じろりと三吉に目配りした。
三吉が慣れた口調で話し出した。
「次のレースで、最低人気の単勝を100万買ってきてくれ、あんたに運があるなら当たるだろう。当たったら全部あんたに、やるよ、運だめしだ。どうだい、やるか、と大将が、おっしゃってらっしゃる、ありがてい話だろ、エ、エ。」
次の瞬間大将は、座っている男の膝に100万の札束を放り投げた。その札束を両手で握り、「最低人気7番です」と震える声で、やっと言った。三吉が「さあ行くぞ、勝負だ。」と気合を付けた。大将は新聞を覗き込んでいる。男と三吉は馬券売り場に向かった。
レースは始まったスタートから7番は最後方を走り4コーナーを回り直線に入っても伸びず最後方のままゴールに入った。男は、一言も発せず、最後方を走る7番を見ていた。三吉がおどけて言った「はい、ドボーン」
呆然と見ている男に、大将は100万の札束を差し出した。「またですか」男が口にすると、三吉が「ありがてえと思えよ」と間髪入れずに男を励ました。次のレース最低人気は2番だった。男は新聞と掲示板のオッズを確認して、馬券を買いに向かった。レースが始まったスタートこそ互角に出たが2番はずるずると後方に下がり、見せ場も無くゴールした。男の表情は何かさばさばした、諦め悟ったように見えた。大将がバックから100万の札束をだして、男に渡した。「やめましょう、無理だ」男は大将に札束を返そうとした、三吉が間に入り、「大将に、恥かかせんのか、黙って買ってきな」男は諦めたように、馬券売り場に向かった、このレースの最低人気は、5番だった、小柄な馬で見栄えのしない鞍上の騎手が大きく見えてそれがまた弱さを増幅していた。レースが始まった意外なことに5番はスタート良くトップに立つと、そのまま加速し大逃げを打った、3コーナー、直線に入ってもまだ足色が落ちない、三吉が叫んだ「そのまま、そのまま」男の表情が青ざめてきた、そのままゴール、1着5番。配当は100万も買われれば落ちる。それでも50倍は下らないだろう。5千万にはなるはずだ。ゴール寸前に男が消えた。喜んだ三吉が男に抱き着こうとすると、男はい無い。男を探しに行った三吉が、血相を変えて戻ってきた。「野郎、飲みやがった」
どうも、前のレースとこのレースの馬券を買ってないらしい、「大将、すみません」三吉の泣きが入った。大将は「パープリン」と一言うと、三吉の肩をポンと叩き、ニヤリとして競馬新聞に目をやった。