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攻撃開始


七日かけて、占領地スカを通過。そこから五時間ほどで敵の最前線基地アリ。僕たちはまだその先へ向かう。


帝国本星と最前線の中間地点。


そこで輸送船団を迎え撃つのだ。




「そうすれば本星からも前線基地からも、援軍が到着しにくいですから」




そう微笑む乙姫は、髪型を変えていた。もみあげから髪の束をひと房ずつ垂らしたポニーテール。


そして前髪はさりげなく真ん中で分けた、いわゆる姫カットである。


髪型で負けられませんとはいっていたけれど、まさかほんとうに勝負を仕掛けてくるとは……。


なんの勝負だかはわからないけど。




「でもさすがに前髪をM字スタイルにはしなかったんだね」




「ささささすがにおでこを見せるのは、ちょっと……」




乙姫は顔を赤くして額を隠すけど、その恥ずかしいと恥ずかしくないの基準が、僕にはわからない。


だったらそんな冒険しなくてもいいのになぁ〜と砲雷長は笑うが、僕もその意見に一票だ。


で、帝国の輸送船団が現れるまで、僕たちはこの海域で待機ということになる。




亜空間に船体を潜らせて、レーダーと望遠カメラをしこんだ観測ブイだけを通常空間に残して、つながったケーブルから外部の情報を監視していた。


乗組員の乙姫アンドロイドたちもリラックスしている。


士官たちは発令所のディスプレイデスクでカードゲームに興じ、一般船員たちもアンドロイド用嗜好品のドリンクを口にしている。




海域到着から八時間。


艦内に警報が鳴り響いた。


本星方向より、帝国側の軽巡洋艦一隻と駆逐艦四隻が接近中。距離は100宇宙キロ。


およそ九十分後に主砲の射程距離に入るとのこと。




乙姫は観測ブイから、敵艦隊の天井方向を調べる。


海上の船とは違い、宇宙空間には上も下も無い。


だから敵はどちらに天井を向けて航行してもいいのだ。




そして乙姫が天井方向を調べたのは、人間の意識が左右には向きやすいが、上下には向きにくいと知っていたからだ。


カメラでも敵の姿をとらえた。


乙姫はまずデコイを切り離す。


デコイは敵の右側に移動した。


乙姫本体は左側へと移動させる。




「艦長、コイツらはまだ本命じゃありません。ただの露払いです」




黄色いセーラー服の船務長が教えてくれた。


本命の輸送船団十隻はその後方五十宇宙キロからついてきている。


こちらも四隻の駆逐艦に囲まれていた。




「軽巡たちが亜空間に沈めたソナーを引っぱって潜水艦探索。航路の安全を確保して、輸送船団が通過するのさ」




「そうすると僕たちもソナーにつかまるのかな?」




「それがソナーの射程範囲は三十宇宙キロ。しかもしょっちゅう探索できるものでもなく、ココ! という方角に打たないと潜水艦は見つけられないのさ」




「雲をつかむような話だねぇ」




「でもね艦長、潜水艦が音をだしていれば、ココ! という方角がバレちゃうんだ」




ということで、船務長は口の前で人差し指を立てた。


僕たちの前を、露払い艦隊が過ぎてゆく。


とはいっても、ニ十宇宙キロは離れているけれど。




乙姫はすでに彼らの進行方向に艦首を向けていた。


そしていよいよ、輸送船団本隊が接近してくる。


ヘルメットの中に、乙姫の声が聞こえてきた。




「魚雷全弾装填。艦首、甲板方向へ三度修正」




アンドロイド同士の無音通話だ。


これで音を立てることなく会話ができる。


絞りに絞った操舵ノズルから推進力を吹き出して、潜水艦乙姫は角度を修正する。




「デコイ突入。十秒間後に魚雷音を発射せよ」




船務長の「了解、デコイ突入します」の返事が聞こえる。


デコイが動き出した。船団護衛の駆逐艦四隻のうち、二隻がデコイに向かって舵を切る。


露払いたちは、まだ舵を切らなかったが、ソナーを発射したようだ。


デコイの正確な位置を割り出すつもりらしい。




そして輸送船団本隊は、デコイを避ける左舷に舵を切った。


僕たちの目の前を通過する形が。


「魚雷一番、発射。艦首甲板方向へ五度修正。魚雷三番発射。艦首甲板方向へ五度、左舷へ二度修正。魚雷五番発射。船体左舷へ二十五度修正。主砲へエネルギー注入、三十秒後に半身浮上します」




戦争といえば炸裂する砲弾に銃声。


兵士たちの悲痛な叫び声を連想しがちだけど、潜水艦乙姫の戦闘は、まったくの別物だ。


戦闘情報局からの情報から敵の未来位置を冷静に予測。


的確なタイミングで射撃をおこない、当然のように命中させる。




汗臭さとか血なまぐさいというのとは、まったく無縁な闘いだった。



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