麻実也艦長の出撃
敵が対潜水艦装備を充実させているということは、敵である帝国にとってアルファ海軍の潜水艦がよほど脅威であったという証拠だ。
「はい、その通りです麻実也艦長。つい先日まではムシル泊地から出撃した多数の潜水艦隊が大戦果を上げていたのです!」
しかし。
「帝国軍は金にものをいわせて対潜装備を充実させ、一戦大敗を喫してしまいました」
それが今ココ、ということだ。
帝国の対潜装備を逆手に取り、デコイや通信妨害、あるいは水探妨害の装備を完備し、ひと泡吹かせてやろうというところだ。
「ちなみにこれらの装備を研究開発されたのは、技官カナザワ博士です♪」
僕の欲望を主砲のエネルギーに変換してみたりアンチ対潜装備を研究したり、とんでもない男である。
乙姫は「天才ですね〜〜♪」と喜んでいるが、僕からすれば紙一重な人間にしか見えない。
もちろん、紙一重で向こう側の人だ。
「それで艦長、入港はいつになるんでしょうか?」
「帰って来るのかい? 入港日時は……」
緑を基調としたセーラー服で、一本三つ編みに眼鏡を装備した主計長が手を挙げた。
僕は指示書をめくる。
「戦果を上げ次第寄港すべし、ってあるね」
「それってつまり……」
「戦果を上げるまで帰ってくるなってことですね♪」
副長乙姫はニッコリするが、それも酷い話だ。
事実、砲雷長などは「か〜〜っ、またかよ〜〜……」などと早くもズンダレている。
ここは艦長として、みんなの士気を高めなければならないだろう。
「逆に言うと戦果をあげたら帰ってもいいんだ。みんな、帰還上陸のために頑張ろうじゃないか」
「「「「お〜〜……」」」」
砲雷長、船務長、機関長、主計長。
みんな力無く応えてくれた。
「それでは艦長、出港用意の号令をお願いします」
「うん、総員配置。出港用意」
「出港用意、かかります!」
全員が持ち場につく。
艦内に出港用意の放送がかかり、潜水艦乙姫はしずしずと海の上を走り出した。
海上航行すること三十分。泊地指定の座標に到着。
ここから亜空間航行に移る。
といっても、艦内でそれを感じることはできない。
亜空間航行に移行するとかいっても、艦首を下げて潜行する訳ではない。
普通に航行していたら亜空間でした、というだけだ。
「これが水上艦……というか通常宇宙艦でしたら、華やかな出発になるのですけど……」
盛り上がりに欠ける船出を、乙姫は恥じているようだった。
少し困り顔で肩をショボンと落としている。
「いやいや、大気圏離脱とか突入とか、変なイベントがあると僕の身が保たないから。これくらいで丁度いいよ」
「ほかの艦種でしたら、お見送りなども華やかなのですが、潜水艦は海の忍者ですので……」
海の忍者という部分で頬がニヤけていた。
その部分は、乙姫にとって誉れなのだろう。
「そういえば乙姫、ウチの潜水艦が大戦果を上げたって言ってたけど、どんな戦法を取ったんだい?」
「はい、艦隊を組んで輸送船団を取り囲み、魚雷、魚雷、また魚雷でと、ごめんなさいというまでシメあげました」
ンなことしてれば反撃が酷いのもうなずける。
「ということは今回も潜水艦隊を編成するのかな?」
「いえ、乙姫単艦の作戦です。その方が敵から見つかりにくいですし、コストパフォーマンスも安価で済みますので」
目標とする補給艦隊も小規模なものだと乙姫は微笑む。
本当に大丈夫なのだろうかとは思ったが、戦闘に関してズブの素人の僕には何も言えなかった。