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狭い潜水艦

潜水艦というだけあって、通路は狭いものだった。しかも何かのパイプやらバルブやらが剥き出しで、区画を越えるのにはいちいちハッチをまたがなくてはならない。


「まずはこちら、発令所です。艦長にはこちらに詰めていただきますが、実際の指揮は私が執りますのでご安心を」


 やっぱり狭い。それでもデスク型のパネルが据えられていたり。

 天井から伸びているのは、あれは潜望鏡だな?

 とにかくここまでの案内で、窓がひとつも無いことに気づく。



「潜水艦ですから」



 副長乙姫の返事は簡単だった。


「外の様子を知りたいときは、こちらをどうぞ」



 バイクのヘルメットのようなものを渡される。

 被ってみた。

 透明なシールドをおろすと、潜水艦全体を後ろから眺める視点で映像が写った。

 背景は星の海である。




「現在の状況は半身航行。甲板と艦橋だけ通常空間に出して、船体は亜空間に隠蔽した航海方法をとってます」




 ヘルメットの中で視線を動かすと、映像の視点が変わった。


「甲板の上に何かあるね? あれは何?」


「14センチ砲ですね? 乙姫の主砲です。あの主砲のエネルギーを艦長に提供していただくのです」


 なるほどなるほど。


「ところで」


 僕はヘルメットを脱いで周囲の乗組員を見回す。


「全員キミと同じ顔なんだね?」


「はい、全員そろって潜水艦乙姫ですから」



 確かに美少女の顔立ちなんだけど、同じ顔だと見分けがつかん。



「一応砲雷科が赤いセーラー服、船務航海科が黄色のセーラー服機関科が青、主計科が緑色になってますが……私は違う服装にしましょうか?」


「そうしてくれ……それと、髪型も工夫してもらえると助かる……」


 そんなことを言っていると、警報が鳴り響いた。カーンカーンカーン!

 艦内放送が入る。



「総員対艦戦闘ヨーイ!」

「乙姫、潜行開始。潜行深度浮き深度!」



 副長の乙姫が指示を出した。

 ヘルメットの景色は、星の海から急にウニョウニョとした亜空間の景色に変わった。

 もう何も見えないのと同じだから、ヘルメットのシールドを上げる。



「乙姫はレーダーや望遠カメラを浮きに入れて牽いていて、潜行中でも通常空間の様子がわかるんです」



 それで潜水艦全体の姿が見えたのか。



「副長、敵駆逐艦が一隻。距離は九十宇宙キロ、上方十度。右三十度。十宇宙ノットで接近中です」

「主砲発射準備、十五宇宙キロまで引きつけるわ」




 はて? 僕の乏しい知識では、駆逐艦とは潜水艦の天敵なのでは?



「いままでは確かにそうでした。ですが乙姫の主砲と艦長がいてくだされば」



 美少女の決意の表情というのは、さらに美しい。



「駆逐艦ごときには、負けません!」



 ちょっと失礼しますね、と言って乙姫はコードを引っ張ってきた。

 それを僕のヘルメットに接続する。

 だけど、正面から腕を回して後頭部に接続するもんだから……近い近い、顔が近い!




「お? すげぇな艦長! 主砲にエネルギーがどんどん流れ込んでくるぜ!」



 砲雷長が興奮したように言う。

 まさか顔を近づけられて、僕のスケベ心が増したとか?



「副長、このエネルギーはもう14センチ砲の威力じゃないぜ! 駆逐艦なんて消えてなくなるぞ!」



 そんなにすごいのか? 僕の下心。お恥ずかしい……。

 すると乙姫は僕の目の前で潜望鏡にとりついた。

 少し前屈み、つまり僕にお尻を突き出して。



 いかん! 見てはいかんぞ、伊藤麻実也!

 乙姫はいま真剣に戦ってるんだ。

 そのむむむ無防備なお尻を眺めるなんて、紳士のすることじゃない!



 未練タラタラで視線を逸らす。

 だけど今度は肩幅に開いた長い脚! あし脚あし!

 というか何かに取り組んでいる女の子の後ろ姿っていうのは、無防備というか隙だらけっていうか……。




「艦長、間もなく規定の距離です」


「乙姫浮上、即座に砲撃を開始します!」




 ここは戦闘を拝見しておこう。

 シールドをおろすとまたもや宇宙の光景。

 だけど、蛍光オレンジの丸印。

 どうやら敵の位置を示しているみたいだけど、乙姫の主砲はすでにそちらへ向けられていた。



「いつでもいけるぜ副長!」

「14センチ砲、三連射! ヨーイ……てーーっ!」



 ボッ……ボッ……ボッ……。

 一秒間に一発のピッチだろうか。主砲が三回光弾を放った。



「五秒前……三……ニ……一……着弾」



 蛍光色の丸の中で三回、なにかが光った。

 そして大きく爆発した。




「目標、完全に沈黙、撃沈です」



 やった、という小さな声を聞いた。

 それは乙姫のものか、他の乗組員のものか。



「ご協力ありがとうございました、麻実也艦長。おかげで潜水艦乙姫、乗組員ともども無事でした」



 そうだ、これは戦争だった。

 僕がいなければもしかしたら乙姫たちは、天敵の駆逐艦にヤラれていたかもしれないんだ。




 敵を殺したという罪悪感に捕らわれそうになったけど、例えアンドロイドとはいえ目の前で微笑む乙姫を失いたくはないと強く思う。



「へへっ艦長、すごい威力の砲撃だったぜ」


 砲雷長が肩をどやしつけてくる。


「一体どんな欲望が湧いてたのかな?」


「へ? なんのことかな」


 すっとぼけてみるけど、砲雷長のニヤニヤはとまらない。


「見てたぞ、副長のお尻眺めて鼻の下のばしてたの」


「いや、それは……!」


「どうされました、艦長?」


「いや、待って乙姫! 違うんだ!」


「?」


 乙姫は小首をかしげる。

その仕草がまたたまらない。

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