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激戦区への案内状

行きは良い良い帰りは怖い。




なんていうのはウソ。


帝国本星スカル海域へ侵入する際に巨大レーダーを破壊した僕たちは大量の駆逐艦を呼び寄せてしまった。


おかげで現在はスカル海域を離脱するのにも細心の注意を払い、行き交う駆逐艦の目をかいくぐり、侵入とは別ルートで脱出しなければならなかった。




つまり、行きが怖けりゃ帰りはもっと怖いというやつだ。


そんな思いをして、占領地スカ海域。


ようやく戦果をムシル泊地へ送信できる。




御苦労というねぎらいの言葉とともに、座標を指定される。


そこで潜水艦用の母艦が待っているというのだ。


そこで補給をすませ、次の指示書を受け取るべし、というのである。




「一戦終えてまた一戦。みんな大変だねぇ」




「大変なのは麻実也艦長の方では?」




乙姫がマグに注がれたコーヒーを渡してくれた。




「僕は慣れてるよ。地球では完全週休二日制とかうたってたのに、僕の仕事はまったくの無視。土日の連休なんていただいた試しが無いよ」




連休どころか日曜出勤が当然というような状況だったのだ。


船の操縦を任せられるだけ、潜水艦での生活の方が楽かもしれない。




「……どれだけメンタルが強いんですか、麻実也艦長って」




「僕ひとりが特別って訳じゃないさ。地球の日本人、とくに零細企業に勤めるプロレタリアの大半はそうだよ。みんなウンザリしながら働いている」




「すごいんですね、みなさん。乙姫は感動してしまいます!」


「ダメだよ乙姫、そんなこと言ったら。君たちで例えるならアップデートもメンテも無しに働かされて、故障したら捨てられるようなものなんだから」


「……なんとおそろしい」




僕の労働環境に、乙姫は本気で顔を青くしていた。




しばらくすると、駆逐艦に護衛された潜水艦母艦が見えてきた。


乙姫に操縦を任せて、僕は整備と補給品のチェックリストに目を通す。


母艦は倉庫のようなドックのような形をしていた。




そこに乙姫と桜姫がドックイン。


母艦の整備員たちがとりついて、メンテ作業にかかった。


乙姫乗組員たちも補給品の運搬に駆り出される。


僕と乙姫は下船して母艦の艦長に挨拶しにゆく。




「わざわざご足労いただき、ありがとうございます」


頭を下げると、嗄れた声で返事があった。


「よくやったね、まだ若いのに。大戦果だったじゃないか」




顔を上げると少将の階級章をつけた老婆がいた。


「なんでも艦長、あんた異星人だって言うじゃないか。惑星アルファのためにご足労と言いたいのはこっちの方だよ」




するとライゾウたちも入室してきた。


「おやおや、こっちの艦長はもっと若いみたいだねぇ」


ライゾウは見た目が十一か十二。まだ中学生にはなっていないように見える。




「そうそう、ムシル泊地の鬼司令官から、次の指示書を預かっているよ」


少将は封書を渡してくれた。


許可をとって、その場で開封する。


ライゾウも背伸びして覗き込んできた。




『第二十一潜水艦隊はワイマール海域へ遠征。惑星Gへ物資を運搬する輸送艦隊を撃滅すべきこと』




そしてその作戦の手続き、作戦終了の手続きが記載されていた。


「読んだかい?」


「はい、読みました」


返事をしたのは乙姫である。




少将は指示書をシュレッダーで粉々に引き裂いた。


「出撃時刻は明朝08:00(マルヤーマルマル)! のんびりさせてやれないのは心苦しいけど、これも戦争だからね、カンベンしとくれよ」


「いえ、補給の物品とメンテナンス、感謝いたします。後方の支援あってこその前線ですので」




そうだ、魚雷を満載して帰り道の燃料まで準備してくれるのだ。


アルファ海軍というのは、大変にありがたい組織である。


学校教育で僕が刷り込まれた軍隊や戦争とは大違いである。




発令所を出ると、乙姫と桜姫が大きく肩をおとした。


「どうしたんだい、桜姫?」


ライゾウに先に声をかけられてしまった。




「はい、ライゾウ艦長。じつは惑星Gというのは、いま一番熱い激戦区なんですよ」


「帝国側もここが天王山とばかり、月刊空母や月刊戦艦を大量投入してきて、それはもう大騒ぎってやつなんです」


乙姫も暗い顔をしていた。




具体的にはどれほどの数なのか? あえてそこは訊かなかった。


月刊空母とか月刊戦艦というフレーズが、すべてを表していたからだ。




ライゾウ以外の三人で暗い気分に落ち込んでいると、騒がしい集団にでくわした。


なにやら揉めているようだ。




「やめてください、砲雷長!」


「えぇい、放しやがれ! 俺は潜水艦乗りってのに一言言ってやるんだ!」


「ですから、砲雷長の船を沈めたのは敵であって、彼らじゃないんですから!」


「おう! 潜水艦!」




ガタイのいい大男が突っかかってきた。


「俺はこの母艦の砲雷長で、ハマーってんだ。過去に二回、潜水艦に船を沈められている」


それはお気の毒に。


ハマー砲雷長は中尉の階級章をつけていた。




「だから俺は潜水艦ってのが大っ嫌いなんだ! コソコソ隠れて見えないとこから魚雷撃ちやがって。男なら大砲で勝負しろってんだ!」


「無茶言わんでください、砲雷長!」


「あ、艦長さん方、このオヤジの言うことは気にしないでくださいね! ただの大砲バカですから」


「ただの大砲バカたぁなんだっ、軍曹! 俺ぁすっげぇ大砲バカなんだよ!」


いや、ホンモノの大砲バカだと思います。




「だからなぁ、俺ぁお前たち潜水艦が大っ嫌いなんだ!」


それは先ほど聞きました。


「……って、なんでそんなショボくれてんだよ、潜水艦?」


「ですから砲雷長、かれらはこれから……惑星G……ヒソヒソヒソ……」




「なにっ! お前らあんな火の玉みたいなとこに飛び込むのかよ! ……いや、済まねぇこと言ったな。忘れてくれ」


いえ、忘れられないでしょうね、貴方のバカっぷりは。


というか威勢のいい男が黙り込んでしまうような激戦区なのだろう。惑星Gというのは。


その事実がますます僕たちを落ち込ませてくれた。



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