61・惨劇の後
ルーンに案内されて着いたのは、川が合流して出来た湖であった。シャロンはルーンを陸に残し、白風を地面に置いて、制服を着たまま湖の中へと入っていった。
水の冷たさを感じると共に、髪や制服に付いた血も流れていった。
シャロンは仰向けになりながら、ヨハンに念話で語り掛けた。
『ヨハン聞こえるか?』
『うん。聞こえるよ…』
シャロンは少し考えた後、伝えることにした。
『俺…人を殺した…』
『…うん…僕も感じたよ…』
『不思議なんだよな…あれだけの人間を殺したのに、恐怖とか罪悪感とかを感じないんだ…これって俺が異常なのか? それともやっぱり神がこの体を作った際に、この世界の倫理観に合わせたのか?』
『…多分後者だと…僕は思う…』
ヨハンは少し考えてから言った。恐らくヨハンなりの気遣いなのだろう。
『…ありがとなヨハン…さて、大分血も落ちたし、そろそろ戻るわ。血塗れの体じゃヨハンが汚れるだろ』
『僕は別に構わないけど…』
『俺は嫌だよ! 俺自身がベトベトしているし、ヨハンの純白の体が赤く染まるだろ?』
『そうだね…良かった…何時ものシャロンだ…』
ヨハンの安心した声を聴くと、シャロンは念話を切った。そしてシャロンは湖から上がった。
「髪の血は大分落ちたけど、服の方は染み込んで駄目だな…これヒナタに給料から引かれて、新しいの買わされるのかな?」
そう呟きながら、シャロンは白風を腰に差して、ルーンに道案内を頼むと、仲間達が待つ森の外へと向かった。
※ ※
森の外へ出ると、既にポール達四人がパートナーのドラゴンの背に乗っていた。
「あっ…シャロン」
ポールがシャロンの存在に気づいて呟いた。
「何だ、もう帰還の準備してたのか」
「あ、うん…」
「水浴びしてて遅くなった。悪かったな」
「い、いいよ。気にしないで…そういえばシャロン、服の一部が切り裂かれているけど、大丈夫なの?」
「ああ此れか…別に平気だ」
実際には傷を負ったシャロンであったが、ユニークスキル・『痛覚無効』と『自動回復』により、治っていたのであった。
シャロンは何時も通りの口調で言ったが、返事をするポールは、何処かぎこちなかった。
「じゃあ帰るか。リードルさんの話では、後始末は上級騎士の人達がやってくれるみたいだし」
「うん…そうだね…」
「……」
他の四人からの気まずさを感じながらも、シャロンはヨハンに飛び乗った。そして五体のドラゴンは飛び上がった。
※ ※
「そうなんか…盗賊はシャロン一人で倒したんか…」
「はい」
シャロンが答えた。エルセラに戻った五人はドラゴン達と別れ、団長室でヒナタに報告をしていた。
「それで、シャロンだけ制服が血で汚れてるんか?」
「それなんですが、団長。新しい制服って貰えますか?」
「うんまあええよ。任務で汚れたんやし」
そう言うとヒナタは、部屋のクローゼットを開けて、其処から新品の男性用の制服を取り出し、シャロンに渡した。
「風呂も入ってきや。あとの報告はポール達から聞いておくから」
「ありがとうございます」
そう言うとシャロンは、団長室から出て行った。
感想・ブックマーク登録・レビュー・ポイント評価・質問等ありましたら、何でもどうぞ