315・竜騎士と自衛隊の邂逅、そして通じない言葉
「とりあえず着陸させようか…尤も会話が成立するか分からないが…」
アベルはアメリカに居た頃、大学で日本文化を学んでいた為、少しなら日本語を話せる事が出来るが、此処は異世界であり、この世界の言葉を話している(アベルには前世と変わらない様に聞こえる)ので、会話が成立するのか不安だった。
「ってか自衛官なら、海外派遣とかの経験があるから、英語でも話せるか…」
「アベル!」
「!」
背後から声がしたので振り返ると、アティスに乗ったレイナが居た。
「レイナ。どうしたんだ?」
「心配だから来たんだよ。他の竜騎士は待機してもらってる」
「そうか…」
「それでアベル。あの…ヘリコプター…だっけ? 何か中に人間が居るけど…どうするの?」
「とりあえず着陸してもらうさ」
そう言うとアベルは、ОH‐1の方に振り向いて、指で下を示した。
「これで分かるか…?」
無線が無い為、ダメ元でのハンドシグナルを行うと、ОH‐1のパイロットは通じたのか、機体を降下し始めた。どうやら着陸する様である。
「よし。通じたな…レイナ、アティス。とりあえず最初は話し合いをするから、刺激する様な事はするなよ」
「分かった」
「うん」
二人の承諾を得ると、アベルはゲイルに着陸する様に指示をした。
※ ※
ОH‐1は草原に着陸し、ゲイルとアティスはОH‐1から少し離れた位置に着陸した。ゲイルから降りたアベルは、念の為に腰のホルスターのベレッタの安全装置を外して、更にAK47を持ち、同じくアティスから降りたレイナを従えて、ОH‐1の方へと向かった。
ОH‐1に近づいて行くと、コックピットのハッチが開いて、中から二人のパイロットが降りてきた。パイロット達はアベルの顔を見て驚いた様子を見せていた。
アベルは立ち止まって、こう叫んだ。
「俺はエルセラ竜騎士団のアベル・ヴァレンタイン! お前らは何者だ?」
「僕はエルセラ竜騎士団のレイナ!」
勿論アベルは相手の正体を知っていたが、異世界の存在が自衛隊を知っているのはありえないと考えて、名乗りながらあえてこう尋ねた。レイナもアベルに続いて名乗る。
パイロット二人は驚いた顔で顔を見合わせて、アベルの方を向いて敬礼をして答えた。
「…陸上自衛隊の加納二尉です」
「同じく、清水三尉です」
と、アベルにも分かる言葉で答えてきた。
「『…良かった。会話は出来るな…』お前達は何処から来た?」
アベルが加納と清水に尋ねる。その質問に加納が答える。
「我々は日本という国の、自衛隊という組織の者で、演習中に何時の間にか、仲間達と共に此処から少し離れた草原に飛ばされていました」
「『飛ばされた…? 俺やシャロンの様に、死んだわけじゃないのか…?』お前達以外にも、他にも大勢仲間が居るのか?」
「はい。我々は指揮官の命令を受けて、偵察飛行を行っている途中でした」
と、加納より下の階級の、清水という自衛官が答えた。
「…なら其処迄案内してもらおう。此処はエルセラの国内だ。他国の軍勢が勝手な行動をしてもらっては困るからな!」
それっぽくアベルは言う。それは本心でもあるが、どれ程の自衛隊が此処に現れたのか、個人的に気になる所であったからだ。
「…分かりました。ただ指揮官に確認をするので、少し待っていて欲しい」
「良いだろう」
加納の要望にアベルは承諾する。加納と清水が無線で報告している間、アベルはレイナに話しかける。
「レイナ。俺はゲイルと共に、自衛隊が居る場所まで行く。お前は待機している上級騎士にエルセラに帰還する様に指示してくれ」
「う、うん…」
レイナが承諾すると、アベルはゲイルに近づいて、積んである弾薬等の箱を漁り、紙を取り出して、何かを書き始めた。そしてその紙をレイナに渡した。
「此れはシャロンへの手紙だ。アイツに届けて欲しい」
「それなら他の上級騎士だけで充分でしょ? 僕も心配だから付いて行くよ」
「…最悪戦闘になる可能性もあるぞ?」
「大丈夫だよ。僕だって上級騎士なんだから」
「…分かったよ」
アベルを心配しながらも、レイナの強い意思を感じたアベルは、仕方なく承諾する。
「それにしてもアベル…」
「んっ? 何だ?」
「…何であんな意味の分からない言葉、アベルは理解出来るの?」
「…はっ?」
一瞬アベルには、レイナの言っている言葉が分からなかった。
「何言って…普通に言葉になってただろ?」
「??? 聞いた事の無い、変な言葉だったよ」
レイナは真剣な表情で言った。
「……」
アベルは少し考えて、ある結論に到達した。
「まさか…俺には普通に聞こえるが、レイナ…いや…この世界の人間には、意味の分からない言葉に聞こえるのか…?」
次は加納と清水の視点から始まります。
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