292・共に生きる為に 24
前話で体調を崩したシャロンは…。
朝日が差し込むシャロンの部屋で、ヨハンは眠っているシャロンの様子を見ていた。ヨハンは一晩中一睡もしないで、シャロンの様子を見ていた。元々ヨハン達ドラゴンは、何日かは寝ないでいられる為、睡眠不足にはならなかった。
シャロンは寝ながら時折うなされたりしたり、汗をかいていたりした為、ヨハンはタオルで拭いてあげたりした。
コンコン…
「!?」
その時シャロンの部屋の扉がノックされた。
「シャロン様? まだお休みですか?」
エリスの声であった。どうやら何時もなら来ているシャロンが、団長室に来ていなかった為、様子を見に来た様だ。
ヨハンはエリスに応じる為、シャロンを起こさない様に扉に向かった。
「ヨハンさん? シャロン様は、まだお休みですか?」
部屋の中から顔を出したヨハンに、エリスが尋ねる。
「ごめんエリス。シャロンは今、体調を崩して寝ているんだ」
「えっ!? シャロン様、大丈夫なんですか?」
エリスは驚きながらも、シャロンを起こさない様に、小声で尋ねる。
「うん。昨日解熱剤と栄養剤を貰って飲んだから、今は落ち着いているよ」
「そうですか…」
それを聞いて、エリスは安堵の表情を見せる。
「そうだから、シャロンは暫く竜騎士団長の仕事は出来ないんだ。だから…」
「分かりました。仕事の方はアベルさんと私でやりますので、シャロン様にそうお伝え下さい」
みなまで言わなくても、エリスには理解出来た為、先にヨハンに告げた。
「うん、ありがとう」
「では、お大事に」
エリスは一礼して、廊下を歩いて行った。
エリスを見送ったヨハンは扉を閉めて、シャロンが眠るベッドの脇へと戻った。
「…エリス…来てたのか?」
と、眠っているかと思ったシャロンが、ヨハンに尋ねた。
「シャロン…起きてたの?」
ヨハンの言葉に、シャロンは少しだけ体を起こした。
「ああ…エリスとアベルには、悪い事したな…アイツ等に俺の仕事を押し付けて…それに今日は、下級騎士達から模擬戦の依頼があったのにな…」
「仕方ないよ…今はゆっくり休みなよ」
「…ヨハンは…今日は用事は無かったのか?」
「んっ? 無いよ、大丈夫だよ!」
と、ヨハンは笑顔で即答するが…。
「…確かレオンが、『ヨハンは若手のドラゴンと、模擬戦をする』って、言っていたけど?」
「えっ!? 何でレオン、言っちゃんだ…」
「やっぱりな…」
「あっ!?」
どうやらレオンから聞いたというのは、嘘らしく、ヨハンはカマを掛けられた。
「俺は良いから、行って来いよ…俺のせいでヨハンに迷惑はかけたくない」
そう言いながらシャロンは横になり、目を瞑った。
「シャロン。僕はシャロンが大事なんだ。だからエルセラ竜騎士団のドラゴンとしてより、シャロンの恋人として優先したい」
「……」
シャロンは目を開けてヨハンを見る。自分と同じ空色の瞳は、真剣さを帯びていた。
「…分かったよ」
そう言うとシャロンは、再び目を閉じた。そして少しして目を開けた
「…今レオンに、今日はヨハンは忙しくて、今日の予定の模擬戦は行えない。だからレオンが代わりに模擬戦をして欲しいって、念話を送った…これで心置きなく、俺の傍に居られるだろ?」
「シャロン…」
自分を見つめるヨハンに、シャロンは笑みを浮かべる。
「恋人の願いくらい叶えられなきゃ、ヨハンの恋人としても、エルセラ竜騎士団の団長としてもやっていけないからな…俺はまた少し寝るぞ」
何処か照れた様に告げると、シャロンはヨハンから顔を背けて眠ってしまった。その眠りの速さに、ヨハンは手でそっとシャロンの額に触れた…熱かった…。
「シャロン…まだ辛いのに…ゆっくり休みなよ…」
そう言いながらヨハンは、手を滑らせてシャロンの蒼銀の髪に触れた。
「…あれ?」
ヨハンはある事に気付いた。
「…伸びてる?」
何となくだが、シャロンの髪の先端が、昨日より伸びている様な気がした。
※ ※
「シャロンが体調不良!?」
一方団長室に行ったエリスは、既に居たアベルにシャロンの事を伝えていた。アベルはシャロンが体調を崩した事に驚いていた。
「はい。ですから暫くはアベルさんと私で、シャロン様の仕事の代用を行う事になります。私は書類などの事務を行いますから、アベルさんは実技の訓練等をお願いします」
エリスはそう言ったが、それは普段アベルとエリスがやっている事を、更にシャロンの分まで増えただけなので、二人には殆ど負担にはならず、アベルも問題は無かった。
「しっかしアイツが体調不良か…俺以上にタフだから、想像出来なかったな…」
転生者としては、アベルよりシャロンの方が上位なので、自分が体調不良になっても、シャロンはならないと勝手にイメージしていた。
「シャロン様だって人間なんですから、風邪の一つくらい引きますよ」
勝手に超人扱いしているアベルに、エリスは窘める様に言う。
「まあそうだよな…それよりこの事は、他の竜騎士には言うなよ? 変に話が広まったらエルセラ竜騎士団処か、エルセラそのものに動揺が走るからな」
自分達のトップが体調不良という話が、騎士団に広まれば騎士団の士気に関わる。アベルはその事を危惧した。しかし…。
「あっ…」
不味そうな表情を浮かべるエリス。
「…お前…誰かに言ったのか?」
「…姉上とリリアさんに…此処に来る前に会ったので、その時…」
「……」
エリスの言葉を聞いて、アベルは既にエルセラ竜騎士団全域に、この話は伝わったと確信したのであった。
エルセラ竜騎士団の竜騎士全員に、広まってしまうた!
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