264・ソウル・オブ・リバース 11
今回はギャグが半分、シリアス半分ですわ。
それからヒナタは、廊下で待ちぼうけていた。部屋の扉や壁は防音になっているのか、内部からの音は全く聞こえなかった。やろうと思えば中に入る事が出来るヒナタだが、流石に二人の『お取込み中』を見るのは気まずかったので、シャロンが出てくるまで待つ事にした。
「…考えたんやけど、もしシャロンとヨハンとの間に、赤ちゃん出来たら、どんな子なんやろ? 人間が生まれてくるんか? それともドラゴンか? そもそもシャロンが卵を産んで、ドラゴンが孵るんか? それとも人間が孵るんか…あかん…気持ち悪くなってもうた…」
自分で考えておきながら、自爆するヒナタ。因みにだが、シャロンも以前、同じ事を考えて、気持ち悪くなってしまった。
「それにしても、二人がここまで愛し合っているとはな…あ~あ~…こないな事やったら、無理矢理でもええから、シャロンとするんやったな…」
と、女の子好きのヒナタは、シャロンと『お取込み』をしなかった事に、若干後悔している。
カチャ…
「!」
シャロンとヨハンが居る部屋の扉が開いた。中からは白い大きな姿が出て来た。
「シャロン、少し休んでから戻りなよ」
部屋の中に居るシャロンに、優しく声を掛けて出るのは、ヨハンだった。
「ヨハンか…ええなぁ…シャロンと『イイ事』して…」
聞こえないと分かっているが、ヒナタはヨハンへの愚痴を零さずにはいられない。
ヨハンは扉を閉めた。
「…ごめんね、ヒナタ」
「……はぁ?」
ヨハンは突然、ヒナタに謝罪する言葉を呟いた。突然の事にヒナタは戸惑った。
「なんや、独り言か? まぁ僕の事が見えないから、当然やろな…」
まるでヒナタが居るのを分かっているかの様に呟いたヨハンに、ヒナタは少々驚きながらもぼやいた。
「…ヒナタ…見えてるんだ」
「……えっ?」
ヨハンの言葉に、ヒナタは一瞬思考を停止する。ヨハンはヒナタの方を振り向いて、ヒナタを見つめる。その視線は間違いなくヒナタを捉えている。
「ヨハン…僕が見えるん?」
「…うん」
ヒナタの問いかけに、ヨハンは頷く。
「えっ? 何で自分見えるん!? 僕って今は幽霊やろ?」
「やっぱり、幽霊なんだね。どうりでシャロン達が何も反応しない訳だよ」
「…何時から見えとるん?」
「僕がさっきシャロンの所に飛んできた時。ビックリしたよ。死んだ筈のヒナタが居るんだから」
「最初からかい…! ちょ待てや! って事は僕が見ているのを知ってて、『イイ事』としようとしてたんかい!?」
その事実を指摘すると、ヨハンは目を逸らした。
「いやその…流石に部屋の外に出るかなと思って…実際出たじゃないか…」
「そりゃ出るに決まってるわ! そないなエッチな光景、純情な乙女の僕が、見れる訳ないやろ!」
そう叫ぶヒナタだが、シャロンが聞けば、『純情って…アンタ、今までの自分の行動を顧みろ!』と、ツッコミを受ける事になる。
「ってかシャロンの立場になってみろや! 見られてるって知ったら、めっちゃハズいわい!」
「う、うん…そうだよね…」
あまりの勢いに、ヨハンはたじろいでしまう。
「まあええ…でも何で、ヨハンには僕の姿が見えとるん?」
「う~ん…分からない…でもどうやら僕だけみたいだね。レオンには見えてなかったみたいだし…」
「どうせなら、レオンも見えてればええのに…前にレオンが言うとったけど、ヨハン何か、『伝説の神竜』って呼ばれてるみたいやな、それと関係しとるんか?。ヒラサカのアホも言ってたし? それ何なん?」
「何って言われても…僕には分からないよ」
「自分の事なのに?」
「レオンがそう言っているだけで、僕は自分が神様っていう考えは無いんだ」
「……」
困った様に言うヨハンに、ヒナタはヨハン自身が本当に何の事か分からない…という風に受け取った。
「そういえばヨハン…さっきの二人のやりとり…あれ、初めてやないやろ?」
やりとりに慣れを見抜いたヒナタが、鋭く尋ねる。
「…うんその…僕ら前から何度も…交わったんだ…」
白い顔を赤らめながら、ヨハンはカミングアウトする。
「うわホンマ…? 羨ましいわ…」
女の子‐特にシャロン‐が好きなヒナタにとっては、羨ましい話であった。
「僕は死んじゃってるから、そういうのも出来へんし…何で幽霊として、現世にカムバック決め込んだんや…」
自分にとっては意味の無い現状に、不満を漏らすヒナタ。
「ヒナタ」
そのヒナタに、ヨハンが真剣な表情と声で話しかける。
「何や?」
「何となくだけど…ヒナタはもうすぐ…帰ってしまうと思う」
突然のヨハンの言葉だが、ヒナタは驚かない。
「何やそないな事か…僕も何となく、そんな気がしてたわ…昔あった漫画で、『死者が一日だけ、現世に帰れる』って話があったから、僕もそのノリなんやろ?」
「…多分…そうだと…」
「だからシャロンには言わなかったん? 僕が近くに居る事…僕が帰ったら…」
「…シャロンが悲しむ所は、見たくない…」
「……」
最愛の存在を想うヨハンに、ヒナタは批判出来なかった。
「ええよ。どうせ居たって見えへんし…あのアベルって新顔は、気配に感づいたみたいやけどな…さてと、じゃあ帰るまで団長室にでも居させてもらうわ…シャロンは今日は、団長としての仕事も無いみたいやし…ほなヨハン、さいなら」
そう言って軽く手を振りながら、ヒナタは団長室の方へと歩き出す。
「ヒナタ!」
ヨハンが強く口調で呼び止め、ヒナタは足を止める。
「あとで…シャロンを団長室に向かわせるから…最後に会いなよ…」
それはヨハンのヒナタに出来る、唯一の気遣いであった。
「別にええよ! どうせ、僕の姿は見えへんし、僕の声も聞こえへんし!」
そう明るく言いながら歩くヒナタだが、その姿は寂しそうであると、ヨハンは感じた。
まさかヨハンは、ヒナタが見えていたとは…。ヒナタは最後にシャロンと会えるのか…?
ソウル・オブ・リバース…あと一話…最大でも二話で終わりですわ。その後ワンクッションおいて、ぼのぼの編最後の話になりますわ! なんだかんだ、一年以上もやっとるわな…(苦笑)。
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