256・ソウル・オブ・リバース 3
「…シャロン?」
近づいて来る存在に対して、ヒナタは自分が全てを託した少女の名を呟いた。そしてその存在が、団長室の前で止まり扉を開けた。
「さてと…書類の仕事をしないとな」
可愛らしい声とは裏腹に、男性口調で団長室に入って来たのは、蒼銀の髪に空色の瞳をした、女の子でありながら男性の竜騎士の制服に身を包み、赤いマントを羽織り、額と首にゴーグルを着け、腰に嘗てサムライが使っていた武器を下げ、背中に自分が使っていた大槍を背負った少女…シャロンであった。肩にはカーバンクルのルーンが乗っている。
「…シャロン!」
自分が愛して、全てを託した存在に会えたヒナタは、シャロンの名を呼んだ。
「誰も居ないって事は…まだ来てないのか」
「……」
ヒナタの存在に全く気付いていないシャロン。
「…そうやな…僕は幽霊やし…当然やな…」
幽霊だからシャロンには見えない…分かり切っていた事だが、ヒナタには辛かった。
落ち込んでいるヒナタに気付かないシャロンは、背中のロンギヌスを降ろして壁に立て掛けて、団長の椅子へと腰を掛ける。
「見えへんのは残念やけど、シャロン立派になったな」
こうなったら開き直ったのか、見えない事を利用し、シャロンをじっくりと観察する。
「う~ん…何処となく、僕が生きていた時より、凛々しくなった気が…いや変わらんか…でも…胸は成長しとるな♪」
相変わらず女の子‐主にシャロン‐好きなヒナタは、そういう所に抜け目が無い。
「でも僕のロンギヌス…大事にしてくれてるみたいやな」
ヒナタはロンギヌスを見て言う。立て掛けられたロンギヌスは綺麗であり、良く手入れされているのが分かった。その時…
「すいません、シャロン様! 遅くなりました!」
「!?」
「!」
突然団長室に飛び込んだ声に、ヒナタは振り返った。
「エリスか。いや大丈夫だ。俺もさっき来た所だからな」
シャロンが穏やかな声で迎えた相手は、背中に大鎌を背負った、見た目は美少女だが、実は男の娘…もとい男の子の副団長であり、双子の姉弟のエリスであった。
「すいません。少し寝坊してしまいまして…」
「それってお前じゃなくて、レイナじゃないのか…?」
シャロンが尋ねると、エリスは顔を赤くして俯く。普通の男性竜騎士なら、その様子に赤面をする程の可愛さを感じるが、慣れているシャロンは平気である…当然ながらヒナタも…。
「おおっ! エリスやん! 僕が生きていた時は、中級騎士やったけど、今は副団長か!」
背中のマントが青の為、現在の階級が副団長である事が分かった。
「この子は実力は有るけど、自分に自信が無かったから、なかなか開花せえへんかったけど、シャロン上手く開花させたんやな…」
自分ですら出来なかった事をやり遂げたシャロンに、ヒナタは素直に関心する。
「シャロン様だけですか? まだ」
どうやらエリスにも、ヒナタの姿は見えないらしい。
「そうだな。まだアイツが来てない」
シャロンが今日の書類を確認しながら答える。
「アイツ? まだ誰か来るんか?」
聞こえていないが、つい尋ねてしまうヒナタ。
「悪い、悪い! 遅れた!」
そう言って入って来たのは、もう一人の副団長のアベルだった。
「…誰や!?」
全く知らない竜騎士に、戸惑うヒナタ。
「コイツは知らんな…マントの色から、コイツが副団長だというのは分かるけど…僕が死んだ後に入ってきたんか…? でも副団長って事は、シャロンも認める程の実力者なんか?」
アベルを見ながら、ヒナタは呟く。どうせ見えないし、聞こえないだろうと考えていると…。
「?」
「!」
突然アベルが、ヒナタの方を向いた。
「何や…?」
突然自分の方を振り向いた事に驚くヒナタ。アベルは無言のまま、ヒナタの方を見ている。
「コイツ…僕が見えとるんか?」
「おいアベル。どうした?」
急に何も無い方を見たシャロンが、不審に思って尋ねる。
「いや…なあシャロン…此処誰か居るか?」
「…俺とエリスとアベル…焼酎のⅭⅯみたいになっただろうが」
「いやそうじゃなくてな…何か人数多い気がしてな…」
ヒナタが立っている辺りを見回しながら言うアベル。
「アベルさん。幾らジャンさんやレンマさんと、昨日遅くまで飲んでいたからって、そんな変な言い訳を…」
「何で知ってるんだよ!? さてはレイナだな!?」
エリスの言葉に、アベルが素早く反応する。
「支障が出るまで飲むなよ…ってか幽霊だって言うなら、ビル・〇―レイでも呼んで来いよ。専門家だろ?」
「呼べるか馬鹿! 絶対信じてないだろ!」
シャロンの言葉に、アベルは激しく返す。
「まあ誤魔化しは良いから、さっさと書類纏めるぞ。今日は色々忙しいからな」
シャロンにそう言われて、アベルは不満気ながら副団長の席に着く。エリスはシャロンの『ⅭⅯ』や『ビル・〇―レイ』という言葉が気になったが、多分シャロンとアベルの世界の言葉と判断し、同じく副団長の席に着いた。そして三人は朝の仕事を行う。
ヒナタは三人の事を見ている。
「成程な…今は副団長が二人居るんか…それにしても…」
アベルの事を見るヒナタ。
「コイツ…アベルいうんか…霊感があるんか、僕の事が少し勘づけるみたいやな…」
どうやら本人も気づいていない様だが、アベルは霊感があるらしい。
「ってか、ビル・〇―レイって、誰やねん!?」
ヒナタが叫んだ…どうやら知らないらしい…。
『ゴー〇ト・バ〇ターズ!』…しかしヒナタは、知らなかった様や…。
アベルの霊感があるという設定は、ハッキリ言って、このシリーズ以外では使用予定は無いんですわ。あんまり気にせんといて下さい…(苦笑)。
シャロンとアベルのやりとり(焼酎のⅭⅯ、ビル・〇ーレイ)は、実はずっと前から考えていて、この話でやりたかったんですわ。
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