21・遭遇
「ねえ、シャロン。機嫌直してよ…」
「…別に怒ってないよ」
ヨハンの背中でルーンを自分のお腹に寝かせたシャロンが答えた。現在シャロン達は先程魔法を使った場所で休んでいた。
「その口調だと、絶対まだ怒っているよ」
「怒ってないったら!」
強い口調でシャロンが反論する。
「…どうしたら機嫌直してくれる?」
「……」
ヨハンに言われて、シャロンは少し考えた。そして顔を赤くする。
「…じゃあ…俺にキスして」
「えっ!?」
「此処には俺らしか居ないだろ! だからキスして!」
「……」
ヨハンは困った表情で顔を赤くする。そして…
「分かったよ…じゃあこっちに来て」
「…うん」
ヨハンに言われて、シャロンはルーンを起こさない様に草の上に置き、ヨハンの正面に回った。
ヨハンはシャロンの両肩を優しく掴んで、シャロンの口に自分の口を近づけた。
チュ…
小さな音を立てながら、一人と一頭の唇が触れた。
ヨハンが口を離すと、シャロンは満足した表情を見せた。
「…満足した?」
恥ずかしそうにシャロンに尋ねるヨハン。
「…うん」
嬉しそうに返事をするシャロン。
「じゃあ行こうかヨハン」
「行こうって…次の当てはあるの?」
尋ねるヨハンに、シャロンはルーンを起こしながら答える。
「特に今の処は無いけど…飛んでいれば、その内大きな街でも見つかるだろう…我ながらアバウトだけど…」
「…ヨンに尋ねたら?」
最もな事を言うヨハン。
「…それもそうか…ヨン、最寄りの大きな街はある?」
『此処から五十キロ程離れた場所に、大きな街が存在します』
「成程、じゃあ其処を目指そうかヨハン」
「分かったよ、シャロン」
ヨハンはシャロンを背中に乗せると、羽ばたいて空へと飛び上がった。
※ ※
再び時間は遡り、シャロンが魔法を使う少し前、ウェンリル、リードル、リオラは盗賊のアジトに訪れていた。
「盗賊達からアジトを聞き出して、件の竜騎士は此処に来たかと思って来てみたが、居ないな…」
三人はアジトの中を探索していたが、既にもぬけの殻であった。
「隠し持っていた財宝が無いって事は、ソイツが持っていった可能性が高いッスね」
リードルが辺りを見回しながら言った。すると…
「ウェンリルさん」
隅の方に居たリオラが叫んだ。
「どうした?」
「これを見て下さい」
そう言って指を指したのは、ルーンが入っていた箱であった。
「この箱の鍵の部分。何か鋭利な物で切断された形跡がありますし、何かの動物が入っていた様です」
リオラはウェンリルに、切断された鍵とルーンの毛を見せた。
「…随分綺麗に切断されているな…それに何の動物の毛だ…」
「盗賊等シメれば何か分かるんじゃないスか??」
ウェンリルの隣に立ったリードルが言った。その時…
「!?」
突然リオラが何かに驚いた様な反応を見せた。
「どうした、リオラ」
ウェンリルが声を掛けた。
「…此処から少し離れた場所で、強い魔力の反応がありました。もしかしたら、例の竜騎士かもしれません」
「本当か!? その場所は詳しく分かるか?」
「はい」
「よし、其処へ向かうぞ!」
三人はアジトを後にした。
※ ※
それから少しして、空中に三頭のドラゴンが飛んでいた。先頭の紺色のドラゴンには、ウェンリルが乗っており、後方の二体には其々茶色と紫のドラゴンには、リードルとリオラが乗っていた。
「リオラ、もう少しか?」
後方に居るリオラに、ウェンリルが話しかける。
「はい、もう間もなくかと…! あそこです!」
リオラが返事をしながら、地上を指さした。
「お前達は上空で待機していろ。ベクタ、降りてくれ」
「了解」
ベクタと呼ばれた紺色のドラゴンは、ウェンリルの指示を受けると、地上に降下していった。
ベクタが降り立った場所は、草がとある中心から逆向きに倒れている場所であり、その中心には、粉々になった岩が散乱していた。
「何だ此れは? 何かの魔法を此処でやったのか?」
粉々になった岩を見ながら、ウェンリルが呟いた。
「竜騎士のドラゴンが、何らかの魔法を使ったのかも知れないな」
背後で待機していたベクタが言った。
「とりあえず上に戻るぞ! リオラにこの魔法を使った奴の居場所を特定してもらう」
そう言うとウェンリルは、ベクタの背中に乗った。
上空に戻ると、ウェンリルはリオラに魔力の探知を依頼する。
「…此処から十キロ程離れた…我々の街の方角に、此処で感知出来る魔力と同じのが確認出来ます!」
「そうか…では、これから向かうぞ!」
「ウェンリルさん。一つ良いすか?」
リードルが訪ねてきた。
「何だ?」
「その竜騎士と接触した場合、友好的ならいいスけど、もし敵対的だったらどうするんですか?」
「……その時は戦闘を覚悟しておけ。コチラは三人居るが油断はするなよ」
「…分かりました」
リードルはウェンリルの考えを聞き、納得した。
「これより、例の竜騎士と接触する! 各員警戒を怠るな!」
「はい」
「はい」
リードルとリオラは、其々返事をした。
※ ※
「平和だね~…」
一方その頃、シャロンはヨハンの背中に仰向けに寝そべりながら、空を満喫していた。ルーンは元気に動き回り、ヨハンの背中を走り回っていた。
「おいルーン。あんまりはしゃぎ過ぎるなよ」
「キュイ…キュ!?」
シャロンがそう言った途端、ルーンは足を踏み外し、地上へと落ちかけた。
ガシッ
「だから、はしゃぎ過ぎるなって言ったんだ!」
落下しかけたルーンを。『竜の力』の翼を使ったシャロンが掴んだ。
「よいしょっと…んっ?」
ルーンを肩に置いて、再びヨハンの背中に戻った時、シャロンは何かに気づいた。
「ヨハン!」
「どうしたの?」
「後ろから何かやってくる」
シャロンに言われて、ヨハンは飛行を止めて反転した。シャロンはヨハンの肩越しに見えたモノを再び見た。それは…
「…人が乗った…三頭のドラゴン?」
それはウェンリル達、竜騎士達であった。
いよいよ、シャロン達とウェンリル達の遭遇ですわ。