202・シャロンとヨハンの情愛 1
ヨハンの話と言いましたが、どちらかと言うとレオン視点の話ですわ。長くなりそうなので分けましたわ。
訓練場の立っている一体のドラゴン。後頭部の乳白色の二本の角を生やした漆黒の体に同じく漆黒のレザージャケットを着込み、同じく黒いゴーグルを額に付け、片手に大きな槍を持ったドラゴン・レオンが居た。
「……」
無言で立つレオンの前には、息も絶え絶えになっている、エルセラ竜騎士団所属のドラゴン達が、各々の武器を杖代わりにして立っていたり、地に伏せていたりしている。
どうやら模擬戦を行っていた様だ。
「ハア…ハア…レオン強すぎだ…」
息切れしているドラゴンの一体が言った。
「お前らも前よりは強くなったな」
レオンの方は全く疲れた様子も見せずに、淡々とした口調で言った。
「そんな事…レオン程の猛者に言われても…嫌味にしか聞こえないぞ…何でそんなに強いんだよ、お前は…」
「鍛え方が違うんだよ」
レオンの落ち着いた口調の返事を聞くと、レオンと模擬戦を行ってたドラゴン達はお互いを支え合いながら、医療ドラゴンの居る所に向かった。
残されたレオンは、自身の槍・ボルテックスをジャケットの背中で背負った。
「最近は殆どの古参のドラゴンも、力が付いてきたな。中でもラティスと最近入ったゲイルはなかなか強いが…アイツ程じゃないしな…俺が最大級に戦えるのは、やっぱりアイツだな…」
レオンがそう呟いた時、上から影が差し込んだ。見上げると其処には、一体のドラゴンが飛んでいた。そのドラゴンはレオンのすぐ近くに着陸した。
「やあレオン」
穏やかな口調で挨拶をするそのドラゴン。
真っ白な体に乳白色の二本の角、空色の青い瞳、首元にはマフラーの様な二枚の布が付いた金色の首輪、腰には細長い剣(嘗てのパートナーであるヒナタによれば、サムライというヒナタの国に居た剣士の武器)を帯びた、自身の親友兼ライバルであるドラゴン・ヨハンであった。
「ヨハンか…何処かに行ってたのか…? ソイツを連れて」
レオンが言った『ソイツ』とは、ヨハンの腕の中で眠っている、ヨハンのパートナーであり、自身のパートナーでもある蒼銀の髪の少女・シャロンであった。シャロンは腹部にカーバンクルのルーンを乗せたまま、昏々と眠っている。
「昏々と眠っているが、どうしたんだシャロンは?」
ヨハンから聞いた話では、シャロンは神によって作られた体の為か、眠らなくても疲れないらしいが、今のシャロンはどう見ても眠っていた。
「ちょっと僕と戦っていてね…負けて寝ちゃったんだ」
苦笑気味に説明するヨハン。
「そういえばお前ら、よくエルセラの外で模擬戦を行っているな…」
「うんそうだよ。必ずデートの前には模擬戦を行っているんだ…自慢じゃないけど、僕は今までシャロンに負けた事は無いよ」
「まあお前は強いけど、それ以外に理由があるだろ?」
「?」
レオンに別の理由を言われたが、ヨハンには分からなかった。
「見惚れて負けてるんじゃないか? シャロンはお前に妙な魅力を感じているからな…お前が別のドラゴンと模擬戦を行っている時、シャロンはお前の姿を見ながら、『ヨハンは今日も格好いいな…綺麗な空色の瞳に整った顔立ち…逞しい胸筋に柔らかそうなお腹…力強そうな魅力的な腕と足…装飾品が額のゴーグルと首輪と手袋だけってのが、またそそるな…』って言ってたぞ…」
微妙な表情をしながら言うレオン。それもその筈。同じドラゴンなら自身の姿に魅力を感じるのは理解出来たが、幾らシャロンがドラゴン好き=ドララーとはいえ、異種族の姿に見惚れる事に理解出来なかった。
「そっか! シャロンはそんな風に僕の事を褒めていてくれたんだ!」
ところがヨハンはそれに対して戸惑う事も無く、寧ろ喜んでいる様子であった。
「いやお前…どうやったらそういう考えになるんだ?」
レオンがツッコミを入れる。
「最愛のパートナーに見惚れられるなんて、愛している者なら幸せじゃないか?」
「…まあお前がそれで良いなら構わないが…」
「あっ、安心して良いよ。シャロンはレオンの事も魅力的なドラゴンだって! そのジャケットの間から覗ける、逞しい胸筋が魅力的だってさ!」
「…俺の事までそんな風に見ているのかよ…ところで話は戻すが、何でシャロンは負けて寝てしまったんだ?」
「うん。それがね…」
ヨハンは少し前の事を話しだした。
※ ※
キィン! キィン! キィン!
エルセラから離れた草原に、二つの刃がぶつかり合う金属音が鳴り響く。片方はエルセラ竜騎士団の六代目団長のシャロン、もう片方は白いドラゴンであるヨハンである。傍から見れば、古典的なファンタジーの如く、剣をもった剣士が、勇敢にもドラゴンに挑んでいる様にも見えるが、実際には愛し合っているお互いが、模擬戦を行っているだけである。
キィン!
蒼銀でシャロンの白風を弾くヨハン。
「シャロン、また強くなったね」
蒼銀を構え直しながら言うヨハン。
「何時も俺に勝っているヨハンに言われても、何か微妙だな」
同じく白風を構えながら言うシャロン。
「!」
するとヨハンは、シャロンが魔力を溜めている事に気付いた。
「魔法か…」
魔力の流れから、シャロンが魔法を使おうとしている事に気付く。シャロンの魔力は、何故か魔法が存在しない地球に居た時から、爆発的に高い事をヨハンは知っていたが、それがこの世界では、かなり戦力になっているのであった。
『普通の人間でも、此処まで高い魔力は無いけどね…』
三百年も生きているヨハンであっても、これ程迄の高い魔力を持った人間は、見たことがなかった。
「ヨハン。数日前から考えていて、昨日の夜から徹夜して作った魔法を見せてやるよ」
「! それは楽しみだね」
シャロンの言葉にヨハンは、興味津々に答えた。自身も魔法の制作を行う為、シャロンが作った魔法に興味があった。
『飛翔し海雀』
シャロンが両手を広げながら魔法を唱えると、両手の先にそれぞれ細長い筒状の風が出現した。その筒状の風には、翼の様な物が存在している。
「行くぞ! サルボー!」
シャロンが叫ぶと、二つの筒状の風は、素早い動きでヨハンに向かっていった。
「速い魔法だね…でも僕の方が速いよ!」
ヨハンは翼を羽搏かせて、空へと飛び上がった。直線的に地上に居たヨハンに向かって来ていた筒状の風、その為にヨハンは空に逃げれば簡単に避けられると思った。
「少々攻撃が単調だよシャロン。もう少し研究を…!?」
ヨハンは言葉を止めて驚いた。直線的に飛んできていると思った筒状の風は、避けたヨハンを追って飛んできていた。
「何で…」
ヨハンは更に翼を羽搏かせて移動する…しかし筒状の風は、移動したヨハンを追って飛翔していく…。
地球出身であるアベル…あるいは地球の海上自衛隊や海軍が、先程のシャロンの『サルボー』という言葉と、筒状の魔法を見たら、こう言うだろう…RIM―7・シースパローミサイルと…。
レオンのジャケットのモデルは、僕がドララーになったアニメで、実際にジャケットを着ていた炎のドラゴンから来ましたわ。たまらんかったわ…。『飛翔し海雀』は、イージス艦のシースパローを元に作成しましたわ。シー=海、スパロー=雀で海雀ですわ。
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