16・シャロンの想い ヨハンの想い 1
長いんで分けますわ。
「あ~良い気持ちだ~」
満天の夜空が広がる村の屋外で、村人達からのおもてなしを受けたシャロンは露天風呂に入っていた。この露天風呂は村で沸いている公衆浴場であり、村長の老人がシャロン達の為に貸し切りにしてくれた。尚、念の為に白風とソーコムピストルは、アイテムボックスのペンダントに入れてある。
「まさか、異世界に来て温泉に入れるとは思わなかったな」
湯を満喫しながらシャロンは言った。
『この世界には風呂に入るという風習は存在します』
ヨンがそう言った。
「……」
シャロンは湯に浸かりながら、夜空を見上げる。
「…激動の一日だったな…元の世界で車に轢かれて、この世界に少女として転生して、ヨハンと出会って、シャロンって新しい名前をもらって、盗賊団をやっつけて…まさにラノベと同じだな…」
そう考えた後、次に考えたのは何故かヨハンの事であった。
「何でヨハンの事を考えてしまうんだ…そらヨハンは俺の好みのドラゴンを表した様なドラゴンだけど…まさか俺…異性として気にしているのか…!?」
バシャ!
シャロンは湯を顔に掛けた。
「何考えているんだ俺は! 俺は元は三十過ぎたおっさんだぞ! ヨハンは俺の友達。それだけじゃないか!」
シャロンは強引に自分を納得させようとした。その時…
「シャロ~ン…まだ入っている?」
「!」
壁に仕切られた、隣の男湯からヨハンの声がした。
「入っているけど、何?」
先程ヨハンの事を考えていた事を隠しながら、ヨハンに返事をする。
「いや…もう出たのかなと思ってさ」
そう返すヨハン。そこでシャロンは考えた。
「な~ヨハン。俺今からそっちに行っても良いか?」
「ふ、ふえぇ!? な、なに言ってるんだよシャロン! 君は女の子だろ!」
「俺は元は三十過ぎたおっさんだぞ! 別に構わないだろ? それに貸し切りだから、ヨハン以外に誰にも見られないだろ?」
「…雄の僕に見られる事に、問題があると思うけど?」
シャロンの提案に、そう返すヨハン。シャロンはしょうがないと言った感じで言う。
「じゃあ体にタオル巻くから、それなら良いだろ?」
「…分かったよ。ちゃんと巻いてよ」
諦めた感じでヨハンが答えた。
ヨハンの言葉を聞くとシャロンは湯から上がり、一旦脱衣所に行き、其処にあった大きなタオルを体に巻いて、仕切りの壁際まで言った。
「じゃあ『竜の力』で…」
シャロンは『竜の力』のスキルで翼を生やし、壁を乗り越えた。
乗り越えた先の湯の中にはヨハンが居た。しかし湯に入る前と違ってヨハンの首元にはマフラー付きの首輪が無く、手袋も嵌めておらず、ゴーグルも無かった。
「…ゴクッ!」
無意識に生唾を飲み込んでしまうシャロン。
『な、なに見惚れているんだ俺は!? 首輪や手袋が無いだけで、何時ものヨハンじゃないか!』
「? どうしたの?」
まさか自分の姿に見とれているとは知らず、ヨハンが問いかける。
「何でもない」
誤魔化しながら、男湯へと降り立つシャロン。
「どうして急に、こっちに来るなんて言い出したの?」
ヨハンが聞いてきた。
「いやその…背中でも洗ってあげようかな?」
「…フフッ。優しいんだねシャロンは…じゃあお願いしようかな…」
そう言うとヨハンは湯から出て、洗い場へと行った。シャロンもその後に続いた。
「じゃあお願いね」
「ああ」
ヨハンから泡の付いたタオルを渡され、シャロンは承諾しながら受け取る。
ゴシゴシゴシ…
『大きな背中…』
ヨハンの背中を洗いながら、シャロンは思う。
『まあ俺…というか人間を乗せられるんだから当然だよな…それにしても、ヨハンって細身の割には、筋肉とかしっかり付いてるよな…腕とか足とか胸とか…って俺は何を考えているんだ…』
「ふふ…」
「! どうした?」
そう尋ねた時、シャロンはある事を思い出した。
『そういえば、俺とヨハンの心って融合しているんだよな…って事は俺の考えている事は、ヨハンにはバレバレなのか!? だとしたらさっきの事も…』
そう不安になるシャロンだったが…
「いや、シャロンの洗い方が気持ちよくてさ…良かったら翼もやってくれないかな?」
「ああ、良いけど…『違うみたいだった…』」
内心安心したシャロンは、ヨハンに頼まれたとおりに、折りたたまれた翼を丁寧に洗った。
「あのさ、ヨハン」
シャロンは、先程の考えが気になり、ヨハンに尋ねた。
「何、シャロン?」
「俺とヨハンの心って融合しているだろ? そしたらヨハンは俺の考えている事が分かるんじゃないか?」
「ああ、それね…」
ヨハンが肩越しにシャロンを見た。
「確かにシャロンの言う通り、融合したからお互いの心の内は分かるよ…でもシャロンは今、僕の考えている事が分かる?」
ヨハンに指摘されて、よく考えたらシャロンはヨハンの心の内、即ち考えている事は分からなかった。
「分からないな」
「そう、それと同じだよ。僕もシャロンの考えている事は分からないんだ…相手が教えようとしない限り、お互いの考えは分からない様になっているんだ。僕達の契約は」
その言葉を聞いて、シャロンは安心した。
『良かった…俺がヨハンの事を考えた事は、バレてないみたいだ』
そう考えながら、シャロンはヨハンの尻尾を洗う。
「んっ…」
「! ヨハン、痛かったか?」
突然声を出したヨハンに、シャロンは尋ねた。
「いやその…実は僕は尻尾が敏感なんだ…だから尻尾は自分で洗うよ…」
「分かった『尻尾敏感なのか…結構可愛い所もあるんだな』」
照れながら言うヨハンに、シャロンは内心そう思いながら、タオルを渡した。
何か矛盾点がありそうで心配や…。※追記しましたわ。