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12.雷光のライガ

 時間は遡り───アレン・クリアコードが、路上の喧嘩騒ぎを目撃するより少し前。

 ウェイン、ジェイル、ルフィナ、アマリリスの四人は、ライガにつれられて宿を出た。



「お前ら、確かルトマーレ来るの初めてだったよな。地図渡しとくわ」


 ライガが四人に簡単な地図を配る。

 彼らは早速それに目を通した。


 様々な店舗の名前と場所が記された地図の中でも、一際目を引く『冒険者ギルド』の文字。

 場所を確認し、ルフィナは顔を上げてその方角を見た。


(あれね……)


 周辺で最も大きな───いや、このルトマーレ最大の施設であり建造物。

 それが冒険者ギルド。

 冒険者たちを管理し、仕事の仲介などをする場である。


「デカイっすね。貴族の屋敷……は流石に言い過ぎか。でも良い勝負するんじゃないすか?」


「本当……。エルド伯爵のお屋敷とどちらが大きいでしょうか……」


 思わず簡単の声を漏らすウェインとアマリリス。

 ライガがそれに答える。


「まあ、ルトマーレは冒険者の街だからな。その冒険者を管理するギルドは、実質的に街の管理者。力を持つのは当然だ」


 それだけ稼いでいるということだろう。

 ならばあの建物の巨大さも頷ける。


「……どうでもいい」

 

 そう呟いたのはジェイルだった。

 本心からの言葉だろう。心底退屈そうな顔で地図を見ている。


「そのギルナントカとやらに行くんだろう。ならさっさとしろ。くだらない話をしている暇はない」


 ライガは苦笑した後、四人の顔を見渡した。


「さて、と。じゃあ早速行きますかね。……一人せっかちな奴もいるみたいだしな」


 ふん、とジェイルが鼻を鳴らした。





 巨大な建物──冒険者ギルドに向かって進む。

 と、周囲を冒険者らしき人たちが同じ方向へと歩いているのに気が付いた。


 格好は様々。

 しかしその多くが筋骨隆々とした男だ。

 ……やはり、どう見てもならず者にしか見えない。

 中には山賊か何かかと思うほど野蛮な格好の集団もいる。


 皆ギラギラと目を光らせて、まるで抜き身の剣のよう。

 実際、剣やら斧やらをぶら下げて歩いている。

 その威圧感たるや、冒険者でない一般の通行人には堪ったものものでは無いだろう。


 何しろ向こうは武装している。

 おまけに外見は、お世辞にもマトモとは言えない。

 いきなり剣を突きつけられて身ぐるみ剥がされたって、何もおかしくはないのだ。


(私だって、魔術を学んでなかったら……)


 ギルドによって管理されている冒険者たちだが、だからといって彼らによる犯罪が全く無いという訳でもない。


 彼らのほとんどは、道を踏み外し、社会からはみ出した者。

 職を見つけられなかったチンピラ、戦いから逃げてきた傭兵くずれ、解散した盗賊団や山賊団など……。

 見た目通り、ならず者たちだ。


 そんな連中だから、ギルドの目を盗んで……なんてことも稀にある。

 流石に凶悪犯罪なんて起きたりすることはないが。

 だが少なくとも、喧嘩は日常茶飯事だ。



「さーあ、着いた」


 一行はギルドに到着した。


「今日はもう迷宮に挑戦する時間が無いだろうし、ここで冒険者登録を済ませてちょっと雰囲気を見たら帰るとしよう」


 迷宮の攻略とは時間のかかるものだ。

 色々と準備をしなくてはならないし、そもそも《覇闘迷宮》ほどの大迷宮を日が沈むまでの数時間で踏破できるはずがない。

 潜ってもすぐ出てきてしまうことになるだろう。


「……でも、少し怖いですよね」


 そう言ったのはアマリリスだった。


「冒険者の方が皆そうじゃないって、もちろんわかってますけど……。でも、やっぱり……」


 アマリリスが言っているのは、冒険者たちの粗暴さや乱暴さのことだろう。

 ルフィナも同じ気持ちだった。


 冒険者たちの中には、かつて近隣の村の娘を誘拐して自分たちの道具にしたような人間だっている。

 流石に全員が全員そこまで野蛮ではないと思ってはいるが、それでも染み付いたイメージはなかなか消せない。


 ただでさえ男が多い世界だ。

 その中のほとんどが飢えた獣のような人種だと聞かされれば、そういう目(・・・・・)で見られることへの恐怖感は、どうしても残る。


 無論、一介の冒険者たちが襲いかかってきたところで、返り討ちにしてやるつもりではあるが……。

 それでも、自分は女。

 不安や嫌悪感は、胸の奥で存在感を放つ。


「……教官、どうしても冒険者登録しなくちゃいけないんですか? 何かメリットがあるんですか?」


「メリットっつーか、そもそも冒険者以外が迷宮に潜るのは許されてないんだよ。それを許可しちまったら、依頼関係なく迷宮に入って、貴重な資源を盗んでいく奴が出てきちまうからな」


 どうやら、合宿に参加する上で冒険者登録は必要不可欠らしい。

 ルフィナは肩を落とす、


 ───が。

 

「ああ、その辺は心配すんな!」


 彼女らの教官であるライガは、あっけらかんと笑ってみせる。


「そういう問題のために俺がいるんだからな」


「……?」


 首を傾げるルフィナとアマリリス。

 ライガは二人の様子には構わず、ギルドの中へ入っていく。




 ───建物の一階は受付になっている。


 ここで仕事の紹介や依頼達成の連絡などが行われているのだ。

 他にも、魔石の換金などもしてくれる。


 脇には商人たちがいて、そこで何人かの冒険者が買い物をしていた。

 魔術結晶や、剣などの武器が売られているように見えた。


(外に荷馬車が止まっていたし……あの商人たちの物かしら?)


 察するに、ギルドと提携を結んだ商人だろうか。

 ギルド側へある程度の金額を払うことで、ギルド内で商売をする許可を得る商人がいる、という話を以前聞いたことがある。


「二階はどうなっているんですか?」


「あー、確か談話室みたいになってるな。冒険者同士が共同で受ける仕事の話し合いをしたりとか……あと依頼者との揉め事が起きた時に、ギルドの仲介で解決したりするのにも使う」


 三階には酒場……というか食事処があるらしい。

 あと、これは建物内ではないが、ギルド経営の公衆浴場もあるとか。


「近くにお風呂があるのは嬉しいですね!」


「そうね。迷宮の中とか絶対汚いもの」


 一応宿にも風呂はあるのだが、あれは多くの人が使う割には少し狭い。

 その点ギルドの公衆浴場なら、女の冒険者が少ないというのもあって、広く使うことができるだろう。


「で、教官。登録ってどうすりゃいいんですか? 俺ら初めてだからよくわかんねーんですけど」


「まあそう慌てんなって」


 ライガは急かすウェインを落ち着けさせた後、ギルドの中を見渡した。

 そして、大声で言った。


「すみませーん! ギルドに登録したいんですけどー!」


 ライガの声がギルド内に響き渡り。

 ───瞬間、ギルド内の雰囲気が変わる。


 受付でやり取りしていた者も。

 商人の元で買い物していた者も。

 皆が、こちらを見る。


 その目に宿った光は、嗜虐の色。

 冒険者たちによる、初心者の洗礼。

 この世界に足を踏み入れた者が必ず通る道。


 よくある話だ。

 冒険者になったばかりの人間が、先輩冒険者たちによっていびられる。

 暴行などの行為ではなく、悪趣味とはいえからかいの域を出ない為に、ギルドも干渉できないのだ。


 今回もまた、ライガの言葉によって目の前の少年少女を新米と判断した冒険者たちは、ニヤニヤとした笑みを浮かべて彼らに近付いた。

 ───だが、その先頭に立つライガの顔を見た途端、冒険者たちの顔色が変わる。


 下卑た表情から。

 サッ、と青ざめたものに。


 ポツリ、と誰かが呟く。


「《蒼狼》……」


 その呟きを発端に。

 ギルド内に、ざわざわとざわめきが広がる。


「《雷光のライガ》……」

「マジかよ……本物か?」

「後ろの奴らは……? 弟子か?」


 冒険者たちのざわめきに込められた感情は、畏れと尊敬。

 目の前に現れた男の姿に、誰もが愕然としている。


 その様子に、ウェインがライガを見上げて訊いた。


「……教官って、有名人だったんですか?」


「んー、まぁな。学園卒業してから、十年以上ずっと冒険者やってるし……《雷光のライガ》って名前が、そこらの冒険者に知られてるくらいには有名かな」


 生徒たちは、ここに来てようやくライガが自分たちの教育係に選ばれた理由を知った。

 ここまで名を知られるほど凄腕の冒険者の彼ならば、《覇闘迷宮》での合宿の教官として最適だろう。

 むしろ彼以上の人材がどこにいるだろう。


(そっか、教官が言ってたのは、こういうこと……)


 そしてルフィナは、ライガが先程言っていた言葉の意味を知る。

 『そういう問題のために俺がいる』───今まさに目の前で起きた光景こそが、その答えだ。


 ルフィナたちにちょっかいをかけようとした冒険者だったが、彼はライガの存在を知って引き下がった。

 バックに《雷光のライガ》がいる。そんな相手に、わざわざ喧嘩を売りに行く馬鹿はいない。


「ま、お前らくらいの実力があれば、心配ないな。そのうち、俺がいなくても喧嘩を売ってくる奴はいなくなるさ」


「そう、でしょうか……」


「そうさ。つーか、それくらい力を付けてもらわなきゃ困る」


 そう言ってからから笑う。

 そして、彼は受付へ向かった。


「ちょっといいか? ギルドに登録して欲しい奴が四人くらいいるんだけど」


 ライガの名はギルドの方にも知られているのだろう。

 受付の職員は緊張した様子で対応している。


「教官、凄い人だったんだ……」


「ああ……。ぶっちゃけ、ちょっと舐めてたが……。どうやら、とんでもない人が教官になっちまったみたいだ」


 ルフィナの呟きに、ウェインが返す。

 ジェイルは、ずっと黙ったまま。

 そしてアマリリスは───。



「……アマリリスさん?」


「え? あ、はい。なんでしょう?」


 微笑みを返すアマリリス。

 その様子は至って自然だ。

 だが……。


(なんだろう……さっき、なんか様子が変だったような……)


 何か、感じた。

 気のせいだろうか。


 だが、それについて追求することは叶わなかった。


「あ、教官が呼んでますよ。行きましょうルフィナさん」


「え、ええ。そうね……」


 首を軽く振って、余計なものを振り払う。


 雑念は判断力を鈍らせる。

 合宿は本格的に厳しくなっていくというのに、気の迷いのようなものに意識を囚われるのは良くない。


 ルフィナはアマリリスと共に、こちらを手招きするライガの元へと向かった。

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