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26.黒幕の正体

 ───正直、体は限界だった。

 こうして立っているのもやっとで、気を抜けばすぐにぶっ倒れそうなくらいフラフラ。

 そんな状態なのに魔力を扱っても意識を保てていたのは、もはや奇跡にも近かった。


「……おのれえええええぇぇぇぇぇ!」


 闇の中から怨嗟の声がする。

 頭から流れる血を拭い、俺は吐き捨てた。


「未熟な魔術師から一発食らわせられた気分はどうだよ、おい」


 ルフィナが慌てた様子で俺の元に駆け寄り、治癒魔術を掛ける。

 傷が塞がる感覚。

 冷え切っていた身体が、ゆっくりと温もりを取り戻す。



 何匹もの獣が俺たちの前に立ちはだかる。

 だが、もはや驚異ではなかった。

 今の俺には、こんな奴らは大した敵じゃあない。


「───────」


 無言で掌を向ける。

 そして、そのまま魔力を爆発させた。


 ────それは、魔術と呼ぶのがおこがましいと感じるほどに無骨で、美しくない一撃だった。

 体内の魔力を、そのままエネルギーとして相手にぶつける。詠唱も何もない。魔弾ですらない。魔力を放つ───たったそれだけの、雑な攻撃。

 だが、それが恐ろしいほどの威力を発揮する。


 正面から魔力を叩きつけられた獣たちは、悲鳴を上げて吹き飛んだ。

 砦の壁に激突し、ぐしゃりと音を立てて潰れる。

 床の上に落下した時には、既に彼らは動かなくなっていた。


「アレン……今のは……?」


 ルフィナが不安げに聞いてくる。

 彼女の目元には涙の跡があった。


「さあ、なんだろうな」


 はぐらかすつもりはなかった。

 だが、こんなとぼけた言い方ではそんな風に聞こえてしまったかもしれない。

 ルフィナは咎めるような視線を送ってきた。


 しかしそんな目で見られても困る。

 俺自身、これが何なのかわからないのだ。


「……そういえば、お前たちはアイゼルの学園の生徒だったか」


「そうだけど。だから何だよ」


 闇の中の声にすげなく答える。

 返ってきたのは笑い声だった。


「なるほどな……。アイゼルの奴め、とんでもないものを隠しておいてくれたものだ……」


「……」


「未熟な三流と思っていたが……まさかこれほどの魔力を持っていたとはな……。一体どんな修練を積んだのか……。まあ、それはいい。そんなことは、この際どうでもいい」


 射抜く、氷の視線。

 獲物を見る目だ。


「予定変更だ。……アレン、といったか」


「……ああ」


「先程の一撃……なかなか効いたぞ……! 寸前に防壁が間に合っていなければ危なかった……。今ので儂は貴様に興味が湧いた。喜べ、貴様も我が糧にしてやろう……!」


「……!」


 黒幕はにたりと笑う。

 思わず寒気がした。


「体内の魔力をそのまま放出し攻撃する《魔力砲》───しかしあれ程の威力となると、使い手はかなりの魔力量を有していなくてはあり得ない」


 魔力砲……。

 これは、この力は魔力砲と呼ぶのか。


 いやそれより、奴の台詞。

 あいつが言っているのはどういうことだ。

 俺の魔力量が多い、だと?


 いや、そんな馬鹿な。

 俺に魔術師の才能はない。学園の中で、俺が一番魔術師としての能力が低い。保有量もコントロール力も、学園で最も貧弱なはずなんじゃ……。


 困惑する。

 俺の様子を見て、黒幕は目を細めた。


「本人ですら気付いていなかったか。これでは周りの者が気付くのも難しかろうて。……ますます面白い」


 闇の中に、気配が増える。

 爛々と輝く光。こちらを見つめるいくつもの双眸。

 ここにきて、さらに増える使い魔。


「それほどの魔力を秘めた貴様の肉……余計に味わいたくなった」


「……やってみろ」


 なんだかわからないが、奴は俺の血肉を──魔力を欲しているらしい。

 冗談じゃない。

 食われてたまるか。

 利用されるなんて、まっぴらだ。


 ごくり、と唾を飲む。

 深呼吸の後、俺は一歩踏み出した。


「ほう、立ち向かうのか。この儂に、臆せず隠れず逃げもせず、正面から立ち向かってくるか」


「生憎あんたが何者かなんて俺にはサッパリわからないし、逃げても無駄だしな。仕方ないよ」


 闇の中から、獣がゆったりと姿を現す。

 俺はそれらに掌を向けた。

 ─────獣たちが、吹き飛ぶ。


「もう無駄だ。お前の使い魔の獣は、もう俺にとっては、驚異でも何でもない。こんな風に、簡単に始末できる」


 吹き飛んだ獣は、すべて息絶えている。

 俺はこちらの有利を示すように告げた。


「ふむ……」



 ─────が。

 敵も一筋縄ではいかなかった。


 その凍てつくような目でじっくりと俺を見た後、黒幕はにたりと嗤って言った。


「────その魔力砲、果たしてあと何発撃てる? 何発が限界だ?」


「!」


「二発か? 三発か? いずれにせよ、そう回数は使えまい。あれは魔力を多く消費する。貴様のように特大火力を出そうとすれば、余計にな」


 ハッタリがバレている。

 奴は既に把握しているのだ。

 こちらにはもう余裕なんてないことを。


「いくら貴様の魔力が多いとて、あれほどの威力の魔力砲はそうそう何度も撃てまい。しかし、儂は魔力にはまだ余裕がある。瞬時に使い魔を生み出すことができる。どちらが有利かはわかりきっているだろう?」


「……っ」


 ……魔力砲は、無理してあと二発。

 それが精一杯。それ以上は不可能だ。

 火力を落とせば回数も増えるだろうが、それでは奴を倒すのには足りない。

 いや、邪魔な使い魔を蹴散らすことすらできないかもしれない。


 ちらり、とルフィナを見る。


 彼女は既に限界だ。

 戦力として数えることはできない。


 ……せっかく光明が見えたと思ったのに、結局まだ力が足りないのか。


 俺一人では目の前の敵に勝つことはできない。

 かといって逃げることもできない。

 仮に今ここで背を向けたとて、正直この体では走っても逃げきることは叶わない。

 ルフィナの治癒魔術で傷はあらかた塞がったとはいえ、流した血までは回復しない。加えて、今この状態で全力疾走すれば、せっかく塞がった傷が開きそうに思えた。


「アレン……」


 不安そうな声。

 獣たちはじりじりと距離詰めてくる。


「……」


 一歩、後退。

 汗の雫がたらりと流れる。


「魔力砲は温存するつもりか? もったいぶっていては、魔力よりも貴様の命の方が先に尽きてしまうぞ?」


 わかっている。そんなことは。

 痛いほどわかっているが、唯一の反撃手段である魔力砲はむやみには撃てない。

 できれば温存したい。

 したいのだが……しかしこのまま完全に包囲されるよりかは────。



「くっ……そぉっ!」


 発射。

 吹き飛ぶ獣。

 湧いて出る新手。

 残りは、一発。


(どうする────!?)


 どうするどうするどうするどうするどうするどうするどうする────!?


 横へ視線を滑らせる。

 闇の奥に見えるウネウネ。

 そこまでの距離は、あと数メートル。


 たった数メートルなのに。

 その距離が、途方もなく遠い。


 無力さに歯噛みする。

 俺がもっと強ければ、この場を切り抜け、ルフィナと共に逃げることも可能だったかもしれない。

 俺がもっと力を付けていれば。

 俺が、もっと努力をしていれば────


「……っ、冗談じゃない」


 何を終わった気になっている。

 俺はまだ生きている。

 ルフィナもまだ生きている。

 だったら、諦めるのはまだ早い。

 早すぎるだろうが。


 掌を前へ。

 残る魔力を掻き集め、最後の一撃を────



 瞬間。

 突如飛来した光が、無数の獣たちを一撃で薙ぎ払った。



「───────」


 呆然とする。

 隣のルフィナも呆気にとられていた。


 今のは、魔術の攻撃……?

 一体誰が……。


 ─────その答えとなる人物は、ウネウネの中から現れた。



「私の生徒に手を出すのは止めて頂きたい。古き時代の魔術師よ」


 あり得ない。

 何故彼がここにいるんだ。

 一体どうやって、この場所を知ったんだ。


「ハーケン……先生……」


 リーム・ハーケン。

 俺の知る限り最高の召喚術のプロが、空間の歪みを越えてやってきた。



「どうして、ここに……?」


 ルフィナが、呆けた声で呟く。


 コツ、コツ、と靴音を響かせ。

 ハーケン先生は俺たちに背中を見せるようにして、黒幕の前に立ちはだかる。


「……クリアコード君のことが心配でしたので、学園長に使い魔を送って報告を済ませた後、私も街の調査をしていたのですよ。そこで、あの子たちに出会った。───アニという少女とその友達に」


「マジかよ……」


 俺は一体、何度あの子に命を救われるんだ。

 感謝してもしきれない。


「……貴様、アイゼルのところの魔術師か。名は確か……リーム・ハーケン」


 黒幕が唸るような声を出す。


「おや、私のことをご存知でしたか」


「当然だ。百年に一度の召喚術の『天才』と呼ばれる貴様の名は、儂が長く身を置いていた闇の世界にも届いていたからな」


「そうでしたか。光栄ですね、あなたのような有名な魔術師(・・・・・・)に名前を覚えてもらえていたなんて」


「ほう? その口ぶり、どうやら既に儂の正体に感づいているようだな」


「……ええ、もちろん」


「!」


 俺は息を呑んだ。


 不可能と思われたピンポイントの念話を操り、これほどのスケールの異界を創り出す実力を持った、正体不明の魔術師。

 そんな強力な魔術師、もし本当に存在していたなら、世界中にその名を轟かせているはずだ。そう、アイゼル学園長のように。

 しかしそんな話は聞いたことがなかった。だから謎だったのだ。この事件の黒幕の正体は。


 なのに、ハーケン先生はその謎を解いたのか。

 辿り着いたというのか。謎に包まれた、目の前の影の真の姿に。


「あなたほどの力を持った魔術師を、私は一人しか知らない。アイゼル学園長が守るこの街に、彼の目を掻い潜って隠れることのできる魔術師など、世界にあなた一人しかいない」


「……」


「……しかし、だからこそあり得ない」


 ハーケン先生はそこで言葉を切った。

 彼は次の言葉を探すように一瞬だけ逡巡した後、静かに続けた。




「────ヴィルムリンド・バルト。あなたは、六十年前に死んだはずの人間だ」




      ◆




 ヴィルムリンド・バルト。


 魔術師ならば、その名前を知らぬ者はいないであろう。

 歴史に名を残す『最低最悪の魔術師』であり、彼が死してから六十年の月日が経過した今なお、その名を聞いただけで卒倒する者がいるほど、人々の心に恐怖を植え付けてた存在。


 ────彼こそが、六十年前の戦争においてコールハウル帝国側に立ち、グレーネス王国のアイゼル・テスタロッサと死闘を繰り広げた男だ。


 コールハウルがグレーネスに侵攻したことで始まった戦争は、そのままアイゼルとヴィルムリンドの『世界一の魔術師を決める戦い』へと変わった。

 戦いの結果、ヴィルムリンドは敗れた。この戦いで大陸中に魔術の有用性が知れ渡り、各国家は有能な魔術師の登用を始めた。

 そしてアイゼル・テスタロッサは、グレーネスの勝利に貢献した褒美として世界初の宮廷魔術師の座を手に入れることになる────。




「────ですがこの戦争で、誰もヴィルムリンドの死体を確認していない。学園長本人ですら、崖下に落ちた彼の最期はその目で見てはいない。だから、もしかしたらと思ったのです」


 ハーケン先生の声は震えていた。

 無理もない。

 目の前のこの存在が、本当にあのヴィルムリンド・バルトだと思うと、俺も震えが止まらなくなる。



 ────ヴィルムリンド・バルトが魔術世界に残した貢献は大きい。

 彼が開発した術や魔道における考え方は、今も魔術師たちの間で利用されるほどだ。

 だが同時に、彼が残した傷跡も大きい。

 新たな術の開発や研究のため、ヴィルムリンドは多くの人の命を犠牲にした。人間の身体を、研究の実験体にしたのだ。

 だからいまだに彼の名を恐れるものも多い。魔導を拒絶する人々の過去には、間違いなくヴィルムリンドが関わっている。


 かくいう俺も、子供の頃は『悪いことをするとヴィルムリンドに攫われる』と聞かされて育った。

 だからその『最低最悪の魔術師』ヴィルムリンドが生きて目の前にいると思うと、恐ろしくて堪らなかった。


「……震えているな、アレン・クリアコードよ。儂が恐ろしいか? このヴィルムリンド・バルトが」


「!」


 影────ヴィルムリンドが言った。

 自らをあのヴィルムリンドと、そう認めた。


「では、あなたはやはり────」


「そう。儂こそがヴィルムリンド・バルトだ」


 にたり、と影が笑う。

 そして、一歩踏み出す気配。

 影が、光の下に姿を現す。


「っ、!?」


 ────俺は、現れたものを到底ヒトとは思えなかった。


 その老人には腹がなかった。

 腹の部位が抉れ、中身が丸見えだった。

 いや、腹だけではない。

 血塗れの体。覗く白い骨。

 全身が、生きているのが信じられないような状態であった。


 生きる屍、とはこういうことか。

 酷い死体が、死んだときのままの状態でそのまま動いている───そんな表現がピッタリだった。


「酷い傷だろう。アイゼルにやられたものだ。……儂は、六十年間この身体で生きていた。生き続けてきた」


 ボタボタと血の雫が落ちる。

 しかしヴィルムリンドの顔に苦痛の色はなかった。


「痛みには慣れた。どんな苦痛だろうと、六十年前の雪辱を果たすためならば堪えることができた。……思えば、その心こそが儂を生かし続けた一番の要因かもしれん」


 くつくつ、と笑う。

 俺たちの間に緊張が走る。


「大変だったよ。激しく困難であり、また永く、辛い道のりだった。本来ならば死に至る傷を抱え、闇に隠れて人を食らい、少しずつ傷を癒やしていくのは」


 老人はは両手を広げた。

 深い皺の刻まれた顔にある、恐ろしく空虚な眼。

 俺はそこに狂気の光を見た。


「だが遂にここまで来た! あと少し、あと一歩だ! あと一歩で、儂はかつての力を完全に取り戻すことができる! そしてその算段も付いた! だというのに───!」


 狂気の光が俺を見る。


「貴様だアレン・クリアコード! 貴様がいつも邪魔をする! 学園に送った我が使い魔を退け、遂には再生しかけの儂の肉体に傷を負わせた! 貴様の魔力砲が、儂の肉体を吹き飛ばしかけた! あと一歩のところで願いを叶えられたというのに、貴様が儂の六十年を台無しにした!」


 老人が吠えた。

 掠れた怨嗟の声。

 とてつもない殺気が俺を貫く。


「許さぬぞアレン・クリアコード……! 儂は必ず貴様を殺す! そして貴様とクラリス・ベルクの血肉を食らい、在りし日の栄光を取り戻す! アイゼルを越え、頂点に立つのだ!」


「そうはさせませんよ。私の生徒を傷付けさせはしません。絶対に。……たとえ、相手があなたであろうとも」


 ハーケン先生が懐に手を入れる。

 彼が取り出したのは、一冊の本だった。


「召喚術の真髄、見せて差し上げましょう。真の『召喚』は、世界の壁すら超越する……ッ!」


 パラララ……とひとりでにページが捲れる。

 やがて開かれたページ。

 そこに描かれた魔法陣が、魔力を注ぎ込まれて鋭く光輝く。


「――――Auftauchen(召喚)!」


 闇を払う閃光。

 白く染まった視界。


 その中で、俺は角を持った馬の姿を見た。


(あれが……ハーケン先生の使い魔……)



 ───使い魔は大きく二種類に分けられる。

 一つは、自力でゼロから作り上げる場合。

 例えば、ヴィルムリンドの獣のように。


 もう一つは、既存の生物を使役に下す場合。

 例えば、悪魔を使い魔にしようとした俺のように。

 多くの魔術師が使うフクロウのように。

 

 後者からわかるように、魔術師は動物を使い魔にすることができる。

 動物と深い絆を結び、彼らに認められることで、魔術師はその動物と使い魔の契約を交わすのだ。

 ────そして、永い時を生きて魔力を扱うようになった動物を、人は『魔獣』と呼ぶ。


 魔獣ユニコーン。

 それが、ハーケン先生が召喚した使い魔。

 世界の壁を越え、遥か遠くの何処かの森から、この鏡の世界に降臨した魔獣。


『久しいな、リーム』


「ええ、お久しぶりですバニラ。ところで、いきなりで申し訳ないのですが、お力を貸して頂けませんか?」


『もちろんだ我が主よ、何をすればいい?』


 現れた白いユニコーン。

 イッカクのような捻れた角は、黄金に輝いている。


「とりあえず、あの黒い獣を蹴散らしてきてください」


『心得た』


 ユニコーンは大きく(いなな)いた。

 黄金の一角を携え、獣の群れに突進していく。


 爪牙を華麗に躱し、体当たりと突き上げで何匹もの獣を跳ね飛ばす。

 まさに無双。これが魔獣の領域。

 圧倒的強さだった。


 こちらに背を向けたままハーケン先生が言った。


「何を呆けているのですか。早く行きなさい」


「は、はいっ!」


 俺はルフィナの手を取り、ウネウネの方を見る。

 そこでルフィナが叫んだ。


「待ってください! 先生は! 先生はどうするですか!?」


「ヴィルムリンドの狙いは君たちです。まずは君たちが先に逃げなさい。私はここで使い魔を蹴散らし、時間を稼いでから行きます」


「でも……!」


「良いから行きなさいっ!」


「……っ!」


 俺は強くルフィナの手を握った。

 そして走った。

 ウネウネに向かって。


「させるかぁ……っ!」


 しわがれた声。

 数匹の獣がハーケン先生の頭上を飛び越え、俺たちに迫る。


Auftauchen(召喚)!」


 鋭い詠唱。

 現れる新たな使い魔。

 青銅の翼と嘴を持つ鳥が、同じく青銅の爪で獣を牽制する。


 俺たちはその隙に闇の中を駆け抜けた。


「ぬう……! かくなる上は……っ!」


「!」


 目の前で、ウネウネが小さくなっていく。

 結界の入り口が閉じているのだ。


「走りなさい!」


 ハーケンの声が鋭く飛ぶ。

 俺たちは振り返らずに走り続けた。


 傷が開くような痛み。

 だが足は止めない。


 どんどん小さくなる出口。

 だがあと数歩。

 あと数歩で、逃げ切れる────




 そして──────




「おのれえええええええええっ!」






 俺とルフィナは、現実世界に帰還した。



「はあ……っ、はあ……っ」



 荒い呼吸をなんとか鎮める。


 振り返る。

 ウネウネは完全に消滅していた。

 ───ハーケン先生の姿は、そこにはなかった。




「そんな……」



 帰還したのは俺たちは二人だけ。

 ───ハーケン先生は俺たちを逃がすため、一人異界に取り残された。

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