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21.ルフィナ・ミラーという少女

アレンくん7歳とルフィナちゃん7歳のお話です。

 ―――ルフィナ・ミラーという少女がいる。


 幼い頃、彼女は自分のことを『どこにでもいる普通の女の子』だと思っていた。

 周りもそういう風に思っていた。

 彼女はグレーネス王国の端っこの村で生まれた、ごくごく普通の少女だった。


 しかし、事実は違った。

 ルフィナは決して『どこにでもいる普通の少女』などではなかった。

 何故なら、彼女には類稀なる魔術師としての才能があったからだ。

 ルフィナは、生まれつき体内に大量の魔力を秘め、そしてそれを扱う才能を持った特別な人間だった。


 ───彼女は、魔術師になるべくして生まれてきた少女だったのだ。


 そしてそのことを知ったとき、ルフィナは失望した。

 特別なんかじゃなくていい。

 こんな力はいらない。

 そう思った。

 他の子たちは皆この力を怖がったから。


 ──魔力をは人を惹き付ける。

 しかし同時に狂わせることもある。

 そして生き物というのは、自分を傷付ける危険のあるものを恐れ、不用意に近づかないものだ。

 おまけにルフィナの故郷は田舎で、まだ魔術や魔力といったものを忌避(きひ)する風習が残っている地域だった。


 ルフィナはいつの間にか孤立していた。

 誰も彼女に近づかなかった。

 村の全員が───実の親ですらルフィナとの接触を最低限にするようになった。

 そうして、彼女は孤立し続けた。



 ────あの日までは。






 ルフィナは植物の蔦で遊ぶのが好きだった。

 無意識に覚えた魔術で蔦を自由に動かすのが、彼女のお気に入りの遊びだった。


 それは、彼女がいつもの一人遊びに興じていたときのことだった。


「うわぁー、すげぇー……」


 ─────その少年はいきなり現れた。

 いつものように蔦で遊んでいたルフィナの前に、いつの間にか立っていて、彼女の手の中でくねくねと形を変える蔦をキラキラした目で見ていた。


「きみ、“まじゅつ”できるの!?」


 少し怖がりながらも、ルフィナはこくんと頷いた。

 すると、少年はさらに目を輝かせた。


「そうなんだ! すげえ!」


 心からの称賛の言葉だった。

 ルフィナは少しだけ救われた気がした。


 警戒心から顔を俯かせていたルフィナは、恐る恐る少年の顔を見た。

 あのキラキラした目がルフィナを見ていた。


 ───綺麗な目だ、と思った。


 あの目に似た何かを、以前どこかで見た気がする。

 そうだ。前に村に来た行商人が持っていたアレ。

 ガラス玉と呼ばれていた、球状のガラス細工。

 少年の目は、まるでガラス玉のように透き通っていた。


 自分があのガラス玉に惹かれてたことを思い出す。

 結局、ガラスを加工した手段が魔術だと知って、村の人もあの頃の自分もガラス玉は買わなかったけれど。

 でも、去っていく行商人の背中を見ながら『ちょっともったいなかったかな?』なんてことを思ったものだ。


 ルフィナが少年の顔をぼーっと見ながら過去に思いを馳せていると、少年はニカッと笑った。

 ルフィナは少したじろいた。


 次に彼は、自分の手を出してきた。

 その小さな手は、少しだけ光を帯びていた。

 弱々しいが、魔力による光だと分かった。


「オレもできるよ! すこしだけだけど」


 そう言って得意げな顔をする少年。

 ルフィナは素直に手を叩いた。

 すると少年はますます胸を張った。


 ルフィナが自分の魔力は生まれつきだと言う話をすると、少年は目を丸くした。


「ルフィナ、すごいな! きっと“てんさい”だよ!」


 聞けば、少年の魔力は生まれつきではなかった。

 彼はかつて森で遭難したときに通りすがりの魔術師に助けられたことがあり、それから魔術師に憧れたのだという。

 そして彼は、自分を助けた魔術師に『どうすれば自分も魔術師になれるか』と訊いたらしい。


「“めいそう”っていうのをやればいいんだって。ためしにやってみたら、めちゃくちゃキツかったけど、オレも“まりょく”つかえるようになった!」


 彼の言う“めいそう”が何なのかはルフィナにはわからなかったが、とにかく少年が頑張ったことはわかった。


「でも、かーさんは『気味悪いからやめろ』って……」


 少年はルフィナと同じだった。

 彼もまた、身に着けた力によって周囲から孤立していた。

 こんな近くに同じ傷を抱える仲間がいることにルフィナは驚き、そして喜んだ。

  ────その日初めて、ルフィナは自分が孤独でないことを知ったのだ。


 同じ村に、同じ魔力を扱う同い年の子供が二人。

 そして、二人共周囲から孤立していた。

 ルフィナと少年は、すぐに打ち解けた。


 二人はいつも一緒に遊んだ。

 家にも、子どもたちの輪の中にも、どこにも居場所なんてなかった二人は、二人きりの時だけ互いに居場所を感じられた。



 それから数年。

 ルフィナは十二歳になっていた。

 ある日、少年は言った。


「俺、魔術学園に行く」


 ルフィナは目を丸くした。


「魔力を扱える人間は貴重で国から援助してもらえるから、学園に行くのにお金は必要ないんだって。俺たちみたいな田舎者でも力を付けるチャンスだ」


 少年の声は力強かった。

 眼差しには光が灯っていた。

 ルフィナの好きな、あのキラキラした目だった。


「だから俺は魔術学園に行く。魔術学園に行って、勉強して、それで───世界一の魔術師になる!」


 少年は高らかに宣言した。

 それから、恐る恐るといった風にルフィナの方を見た。


「よかったら……ルフィナも、来るか……?」


 ルフィナは、力強く頷いた。



 村の人間を説得する必要はなかった。

 二人が『村を出ていく』と言うと、あっさり認めた。

 まるで『厄介な連中がいなくなってせいせいする』といったような態度だった。


 今更傷付きはしなかった。

 むしろ対応があっさりしていた分、こちらも意識を切り替え、覚悟を決めることができた。



 ───そうして、三年後。


 十五歳になった二人は故郷を出た。

 見送る人間はいなかった。

 二人も振り返らなかった。

 

 ルフィナは三角帽子を被っていた。

 『魔術師らしいから』という理由で少年がプレゼントしてくれたものだった。

 彼女はこれがお気に入りだった。



 ────ロマイナ行きの馬車に揺られながら、ルフィナは隣で寝息を立てる少年の肩に頭を置いた。




      ◆




 ―――さて。

 ここまでの話ではっきりしたと思うが、ルフィナ・ミラーはその少年に恋をしている。

 幼少期から、ずっと。

 ………もっとも、本人は決して認めようとはしないだろうが。



 そして、そんな『無自覚系恋する乙女』な彼女は、その幼馴染───アレン・クリアコードへの贈り物を選ぶ為、職人街に来ていた。

 今日はアレンに勉強を教える予定があったのだが、当の本人にキャンセルされてしまい時間に空きができたので、こうして暇つぶしも兼ねて買い物に出たのだ。


 魔術師としての実力の差から、一時期アレンとは気まずい関係になり、疎遠になっていたが、最近少しずつ関係が改善されつつある。

 というか、ルフィナ自身が少し彼のことを見直したのだ。すっかり腐ってしまっていたあの少年は、最近かつての輝きを取り戻しつつあるように思える。


 ルフィナとしても、いつまでも険悪な関係でいたい訳じゃない。本人に自覚はないが、一度は冷めかけた恋心も再燃しつつある。

 どうせならここらで一気に仲を取り戻したいと、ルフィナは無事追試を終えた幼馴染にプレゼントを考えていたのだ。


 しかし、一つ問題が。


「……よく考えたら私、アレンの好みとか全く知らないわ」


 ―――彼女の名誉の為に弁明すると、これは決してルフィナに落ち度がある訳ではない。

 むしろ、昼寝以外に趣味を持たないアレンの方に問題があると言えるだろう。

 彼は『くれると言うのなら喜んで貰う』という人間だった。

 贈り物をする時には一番面倒臭いタイプである。


 まあ、無難なところで魔術的な指南書とかだろうか。

 万年成績下位の彼なら喜んで受け取る姿が目に浮かぶ。



 ────それはともかく。


「魔道具が売ってる店は―――っと。あっちの方……だったかな?」


 プレゼントが決まったので、ルフィナは目的の店がある方向を眺めた。


「……あら?」


 道の向こうから、数人の小さな子供たちが駆けてくるのが見えた。

 お家に帰る途中かしら、とその様子を微笑ましく見ていたルフィナは、彼らの顔に浮かんでいる焦燥を見抜き、眉根を寄せた。


 ただ事ではない。

 そう思い、走ってくる子供たちに駆け寄る。


「君たち、どうかしたの?」


 子供たちはルフィナの着ているデルタミヤ学園の制服を見て、目を丸くした。


「おねいちゃん、“まじゅつし”のひと!?」


「ええ、そうよ」


 顔を見合わせる子供たち。

 やがて彼らは大声を張り上げた。




「おにいちゃんがピンチなの! たすけてあげて!」

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