人は皆 一人では生きて行けないものだから
「次に、基本を教えますね」
「基本?」
「はい。先ず、攻めの基本です。飛車の前の歩を進めて、飛車の先から攻めて行く戦法を、居飛車戦法と言います」
「居飛車戦法」
「はい。攻めは、飛車の他に、銀や桂馬を使います」
「銀や桂馬か・・」
「でも、桂馬を跳ねるときには、よく考えないと、歩に取られます」
「桂馬は、バックできないもんね」
「そうです。桂馬の高跳び歩の餌食!と言います」
「桂馬の高跳び歩の餌食!ね。迂闊に跳んではいけないのね」
「はい」
「香車は?」
「端から攻めるときに、使うこともあります」
「なるほど!金は?」
「金は守りの駒、銀は攻めの駒です」
「そうなんだ」
「飛車と銀で攻める戦法を、棒銀戦法と言います」
「棒銀戦法ね」
「簡単な戦法ですが、とっても強い戦法です」
「へ~~え、そうなんだ。じゃあ、その棒銀戦法、教えて!」
「はい」
「じゃあ、それでやってみよう!」
ドーム
「僕も覚えました」
あゆみ
「じゃあ、ドームくんとやれば、ちょうどいいわ」
きょん姉さん
「そうだねえ~~」
ドーム
「僕は、指が短いので、あゆみちゃん、僕の言った通りにやってください」
「そうか、いいわよ」
頭を下げ、お互いに「おねがいします!」と言い合って、将棋は始まった。
約三十分後、勝敗は決した。きょん姉さんは、ペコリと頭を下げた。
「負けました!」
ドームは笑っていた。
「やっと勝ちました」
「ちくしょう!犬のロボットに負けちゃった~~、くやしい~~」
「きょん姉さんは、もっと守りを勉強したほうがいいわ」
「守りが、駄目?」
「攻めてばっかりでは、勝てません」
「じゃあ、今度、守り方を教えて」
「はい」
「じゃあ、今度は、わたしが教えてあげるわ。ひらがなと漢字を教えてあげる」
「ひらがなは、知っています」
「じゃあ、漢字。なんか、知ってる漢字あるかな?」
「あります。王将、飛車、金将、銀将、桂馬」
「なるほど、そうか!どんな漢字、知りたい?」
「きょん姉さんの名前がいいわ」
「ちょっと待ってね、紙とボールペン、持って来るから」
・・
「はい、こういう字よ。高田今日子って言うの」
「たかだきょうこ・・」
「高い、田んぼの、今日の子という意味よ」
「昨日、今日の、きょうですね」
「そう」
「わあ、利口になったわ~~」
「漢字は、最初は絵だったのよ」
「絵ですか?」
「山っていう字は、山に似てるでしょう。川っていう字は、川に似てるでしょう」
書いて見せた。
「ほんとだ!風が強くなってきたわ」
「将棋が飛んじゃうわ。お家に入りましょう」
「は~~い!」
・・
「兄貴、風が出てきたねえ~~」
「そうだなあ」
「よう子ちゃん!風が出て来たから、ちょっと休もう!」
「は~~~い!」
三人は、近くのベンチに座り込んだ。
「兄貴、凄い風だねえ」
「ここは、山だからなあ」
「わたし、なんか貧血気味で、ちょっと休みます」
アキラ
「じゃあ、ここで横になって休んでな」
二人は立ち上がった。
「アキラ、リアカーに、毛布と枕あったろう、持ってこい」
「あいよ」
直ぐに持って来た。
ショーケン
「よう子ちゃん、大丈夫?毛布と枕、はい!」
「大丈夫です。いつも、横になっていれば良くなるんで。心配しないでください」
アキラ
「はい、お茶!」缶の緑茶を出した。
「これ、アキラさんのでは?」
「また買ってくるから、いいよ」
「ありがとうございます」
「焼き芋、食べる?」
「うん、ください」
アキラは持って来た。
「温かくて、おいしいです!」
ショーケン
「しばらく、横になっていなさい」
「はい」
「兄貴が、用心深く、毛布と枕を用意しておいたから、助かったねえ」
「いつ、何が起きるか分からないかな」
「さすが、兄貴!O型は用心深いなあ~~。尊敬しちゃうよ!」
「O型って、用心深いの?」
「知らないけど、そういう感じ」
「おまえ、何型だったっけ?」「吉田拓郎と同じA型」
「そうか・・・」
「ちなみに、矢沢永吉と甲斐よしひろは、B型」
「へ~~~え、そうなんだ。知らなかった。強引なところが似てるよな」
よう子「わたしは、AB」
「じゃあ、井上陽水と同じだ」
ショーケン
「おまえ、そういうの詳しいねえ」
よう子
「さすがに、A型だわ」
ショーケン
「よう子ちゃん、寒くはない?」
「大丈夫です。寒くありません」
よう子は、ショーケンとアキラの心の温もりに包まれていた。中年の男が、歌いながら歩いていた。
なぐさめも 涙もいらないさ ♪
温もりが欲しいだけ~~ ♪
人は皆 一人では生きて行けないものだから~~ ♪