三羽の鳩が飛んでいた
ドームハウスに戻ると、駐輪場の隣にあるにある小さな公園で、月下美人の小島よう子が、スリムな身体を伸ばして体操みたいなものをやっていた。ピンクのジーンズを履いていた。ショーケンが声をかけた。
「何をしてるんですか?」
「型です」
「型?」
「少林寺拳法の型です」
「やってるんですか?」
「はい」
「ハイキックとかできます?」
「できますよ~~、得意です」
彼女は、空を一蹴りした。見事な回し蹴りだった。
「おお~~、凄いや!」
「萩原さんは、何か?」
「僕は、そういうものは何も。こっちのアキラがボクシングをやってます」
「それは凄いですねえ」
アキラが答えた。
「ちょっとだけね」
「じゃあ、シャドーボクシングなんかできます?」
「できますよ」アキラは、やって見せた。
「わ~~あ、素敵~~!」
「いや~~あ、照れるなあ」
「萩原さん、何を持ってるんですか?」
「サツマイモです」
「早速、買って来たんですね」
「はい」
「どこでですか?」
「近くの農家です。一つ七十円で」
「それは安いですねえ」
「はい」
「ところで、萩原健一さんて、ショーケンと同じ名前ですよねえ」
「わたし、そのショーケンです」
「え~~~~~!?」
彼女は、びっくりしていた。
「なんか似てると思ってました。まさか本人とは」
「教えなくって、すみません」
「ショーケンさんが、どうして、ここに?」
ショーケンは詳しく説明した。
「それは大変でしたねえ」
「あなたは、どうしてここへ?」
「程塚さんに誘われたんです。いいところがあるうて」
「あなたも、指名手配かと思っちゃった」
「違います。ここには色んな人がいますよ。ストーカー被害者とか、元コメディアンとか」
「あなたみたいな美人に会えて嬉しいです」
「お世辞が上手ですねえ、ショーケンさんは」
「ほんとうです」
「そうやって、幾人、女性を泣かせたんですか?」
「まいったな~~」
「ほんとうのことだから、まいったんでしょう?」
「まいったな~~~」
ショーケンは笑って、ごまかした。
「お仕事のために鍛えてたんですよ」
「焼き芋屋のためにですか?」
「はい」
「焼き芋屋は、鍛えなくってもできますよ」
「そうかしら?」
彼女は、再び運動を始めた。
風が、そうかしら?そうかしら?と言って吹いていた。
「兄貴、まだ時間があるから、これを置いたら、弘法大師に会いに行こうよ」
「そうだな、行くか?」
「どこに行くんですか?」
「弘法大師に会いに行くんです」
「奥之院の御陵ですか?」
「はい」
「私も行こうと思ってたんですよ。一緒に行ってもいいですか?」
「はい、いいですよ」
「親に言ってきます」
上着を着て戻って来た。
「じゃあ、三人の新しい門出のために、お参りに行きましょう!」
三人は、充電してある自転車に乗り込んだ。三人の門出を祝うように、三羽の鳩が、仲良く空を飛んでいた。