石焼き芋屋
「兄貴、今、外でUFOを見ちゃった」
「ほんとかよ~~、飛行機じゃねえのか?」
「止まってたから、飛行機じゃないよ」
「じゃあ、ヘリじゃねえのか?」
「ヘリだったら、音がするよ。音はしなかった」
「じゃあ、飛行船とか?」
「夜中に飛行船は飛ばないでしょう。飛行機がぶつかると危ないから」
「そうだなあ」
「突然、消えたんだよ」
「消えた・・」
「そう、幽霊のように」
「じゃあ、幽霊じゃねえのか?」
「幽霊?そんなUFOみたいな幽霊、いるのかなあ?」
「目の錯覚じゃねえのか?」
「隆二さん、きょん姉さん、ロボットの福之助も見ていた」
「よし、俺も出て、見てみよう」
「もういないよ」
ショーケンは出て行った。アキラも出た。
「どっち方向だい?」
「真上」
「距離は?」
「けっこう遠かった」
「星じゃねえのか?」
「星よりも、だいぶ大きかった」
人がやって来た。
「お二人さ~~ん、何を見てるんですか~~?」
小島よう子だった。
「いやね、アキラがUFOを見たって言うんで」
「今ですか?」
アキラ
「ちょっと前、隆二さんと、きょん姉さんと、ロボットの福之助と」
「きょん姉さんもですか?」
「夜のドームハウスを見に来たって言ってた」
「ふ~~ん・・」
「よこ子ちゃんこそ、何してるの、こんな時間に、もう九時だよ」
「寝る前の、シャドーボクシング。これやると、よく眠れるんです」
「いつも、お元気ですねえ」
「おかげさまで」
「ドームパワーですね」
「ドームパワー?」
「ドームハウスには、不思議な力があるそうです」
「へ~~え、知りませんでした」
「隆二さんが言ってました」
ドームハウスの敷地内に、リアカーを引いた人がやって来た。
石焼き芋~~ ♪ 石焼き芋~~ ♪
「アニキ、石焼き芋屋だ!」
「そうだなあ」
石焼き芋屋は、三人の前で止まった。
「石焼き芋は、いかがですか?もう最後だから、お安くしておきますよ」
アキラ
「おじさん、初めて見るけど?」
「昨日、始めたばっかりなんです」
「こんなに遅くまで?」
「はい、夕方から、今頃までです」
「大変だねえ~~」
「この歳になると、仕事先が無くってねえ」
「失礼ですが、おいくつなんですか?」
「六十五です」
「年金とかは?」
「微々たるものですよ。とても食べてはいけません」
「そうなんだ」
「一本百円でいいです。いかがですか?」
「安いねえ~~、それじゃあ、儲からないでしょう。じゃあ、二百円で買うよ。三本ちょうだい」
「ありがとうございます!」
「いつも、この辺りで売ってるんですか?」
「主に、夕方から一般住宅を回ってます」
「観光客の多い大通りで売ったほうがいいんじゃないの?」
「どうも、外国人は苦手で、それに、昼間は、有名な踊る石焼き芋屋がいるもので」
「それはねえ、僕たち」
「ええ、そうなんですか!」
「はい。この三人でやってるの」
「それはいいですねえ~~」
「僕たちは、だいたい四時には終わるから、おじさん、その後、頑張ってよ」
「はい、頑張ります。でも、最近、腰が痛くって、長くは引っ張れないんですよ」
「それは大変だねえ~~」
ショーケンが、言い放った。
「同じ同業者の好み、おじさんにいい物あげるよ!」
「何ですか?」
「電動で動く、リアカー!」
「えっ?」
「アキラ、案内してやれ。俺も行く」
「あいよ」
二人は、小屋に置いてあった、リアカーの石焼き芋機を外して、おじさんに渡した。
「これ、使ってください」
「これを、わたしに?」
「はい、使ってください」
「おいくらなんでしょうか?」
「無料です。還暦の祝いにプレゼントします」
「還暦は過ぎましたけど?」
「細かいことはいいんですよ」
「ほんとうにいいんですか?」
「はい!じゃあ、今、その石焼き芋機を、こっちに移しますね」
「あなたたちのリアカーは?」
「また買うからいいんですよ。買うまで困るので、おじさんのリアカーください」
二人は、電動リアカーに、おじさんの石焼き芋機を載せた。
「おじさん、ちょっと引いてみて」
「おお~~、軽いねえ。何も無いみたいだよ!」
「そうでしょう」
「これなら頑張れます!」
「頑張ってください!」
「ご主人の御名前は?」
「萩原健一です。こっちがアキラ。こちらが小島よう子さん」
「この御恩は、一生忘れません!」
「おじさんの名前は?」
「三丁目の沼田秀夫です」
よう子が質問した。
「ひょっとして、合気道の沼田秀夫先生ですか?」
「はい、そうです」
「わあ、また偉大な武道家に会えたわ!なんてことでしょう」
「また、とは?」
「先日、紅流酔拳の高田今日子さんに、お会いしたんです」
「高野山で?」
「はい。現在、天軸山キャンプ場のログハウスにいます」
「わたしも、ぜひ会ってみたい」
「今、ここにいたので、行けば会えると思いますよ」
「そうですか。じゃあ、行ってみます」
男は「いろいろと、ありがとうございました。じゃあ、また!」と言って去って行った。
アキラ
「兄貴も、人がいいなあ~~」
「また買えばいいんだよ」
アキラは、焼き芋を配った。星々が、宝石のように、キラキラと暗い夜空に輝いていた。