ロックな風が吹いてるぜ~~♪
「さあ、行くか」
「石焼き芋機、あったの?」
「あったあった、中古で五万円」
「へええ~~、安いじゃん」
「安いのかなあ?」
「注文したんだ」
「した。代金を払ったら送ってくる」
「コンビニ?」
「そう、コンビニ払い」
「兄貴、ついでに、サツマイモを見に行こうよ」
「そうだなあ」
「やっぱり、八百屋が安いんじゃない?」
「そうかなあ?」
「と思うけど」
「八百屋、あったかなあ?」
「普通は、町にはあるよねえ」
「普通の町にはな」
「また、聴いてみれば?」
ショーケンは、バーベルの月下美人に電話した。
「無いってよ」
「え~~え、ほんと!」
「カネ幸慈幸商店っていう食料品店に売ってるって」
「どこにあるの?」
「郵便局の向かい側って言ってたよ」
「じゃあ、そこに行ってみよう」
二人は、自転車に乗って、カネ幸慈幸商店に向かった。
「兄貴、ここだよ」
「じゃあ、見に行こう」
店に入って、すぐに戻って来た。
「一本、百五十円か、けっこうするね」
「まあ、そのくらいだよ」
「じゃあ、三百円以上で売らないと稼げないねえ」
「燃料費も人件費もかかるしなあ」
「人件費って?」
「彼女の給金」
「小島さんの?」
「そうだよ」
「そのくらいは稼げるんじゃないの」
「もっと安くで仕入れできればなあ」
「直接、農家から買うとか?」
「高野山にあるかなあ?」
「あるんじゃない」
「自分で栽培するか」
「時間が掛かるよ」
「じゃあ、農家を探そう」
「そうだね~~」
「弘法大師に会いに行くのは後だ、農家を探しに行こう」
「そうだね~~」
「転軸山の奥に行ってみるか?」
「また戻るの?」
「しょうがないだろう」
「だったら、弘法大師に会ってからにしようよ」
「そうするか」
甲高い女性の声だった。
「ショーケンさ~~~ん!」
ショーケンは振り向いた。自転車に乗っている女性だった。
「何してるんですか?」
「ああ、昨日の」
「麻田洋子ですよ」
「そうそうそう、そうだった、ごめん」
「こちらの方が友人のかたですね」
「はい、そうです」
「これから、どちらに?」
「実はね、農家を探しているんだよ」
「農家?」
「サツマイモを作ってる農家」
「知ってますよ」
「えっ、ほんと?」
「行きたいんですか」
「うん」
「じゃあ、案内してあげます」
それは、近くにある農家だった。
「こちらです」
「どうもありがとう」
彼女は、大声で「お母さん、お客さんよ~~!」と叫んだ。
ショーケンは驚いた。
「えっ、君ん家なの?」
「はい、そうです」
彼女の母が出て来た。
「お客さん?」
「この方」
「何でしょうか?」
「実は、サツマイモが欲しくて」
「あなた、ひょっとして、ショーケンさん?洋子の大好きな?」
「お母さん、そうよ。ショーケンさん」
ショーケンも答えた。
「はい、そうです、ショーケンです」
母は、びっくりした。
「わ~~あ、どうしましょう!観光ですか?」
「サツマイモを探しているんです」
「ありますけど」
「買いたいんですけど」
「いいですよ、一本五十円です」
「安いですねえ」
「食品店に、五十円で売っています。わざわざ来てくださったんですから、その値段でいいです」
「じゃあ、七十円で買います」
「わあ、嬉しいわ。いくつ欲しいんですか?」
「いくつでも」
「はっ?」
「実は、石焼き芋屋をやろうと思っていまして」
「ここでですか?」
「はい」
ショーケンは、高野山に来た理由を説明した。
「それは、大変ですねえ」
洋子も相槌を打った。
「ショーケンさん、そうだったんだ、絶対に守ってあげます」
「どうもありがとう」
「今、いくつ欲しいんですか?」
「いくつありますか?」
「三十本ほど」
「じゃあ、全部ください」
「ありがとうございます。じゃあ、今持って来ます。洋子、手伝って」「はい」
すぐに戻って来た。サツマイモは麻田洋子が、レジ袋に入れ重そうに持っていた。
「三十二本ありました。ショーケンさんだから、二本おまけして、二千百円でいいです」
「ありがとうございます」
ショーケンは代金を、母に渡した。
「重いですよ」
「二人で、電動自転車で運ぶから大丈夫です」
母が尋ねた。
「また来ますか?」
「はい、無くなりかけたら、また来ます」
「いつ頃でしょう?」
「まだやってないので分からないんけど・・」
「いつから始めるんですか?」
「焼く機械が来たら始めようと思ってます」
「いつ来るんですか?」
「たぶん、三日後以内には」
「とにかく、ショーケンさんのために、誰にも売らないで待ってますよ」
「ほんとうに、ありがとうございます。よろしくおながいします」
洋子が「ちょっと待ってください、ショーケンさん!」と言って、家の中に入って行った。白いエレキギターを抱えて戻って来た。
「これにサインしてください」
「いいですよ」
「わあ、嬉しい~~!」
・・・
ショーケンとアキラは、一の橋の奥の院参道の入り口前で、自転車を降りた。
「兄貴、ここは自転車は通れないよ」
「仕方ない、歩くか」
「芋、どうするの?」
「そうだなあ~~」
「重いよ、これ?」
「置いて行くか?」
「取られるよ~~」
「大事なサツマイモだもんなあ」
「そうだよ、二千百円じゃあ、もう買えないよ」
「そうだな~~」
「今日は芋を持って帰ろう、ここは明日でもいいじゃん」
「そうだな、そうしよう」
大勢の外国人の観光客が歩いていた。二人は、再び自転車に乗った。
「兄貴、彼女に会えてラッキーだったね~~」
「やっぱり俺たちには、何かがついているんだな」
「高野山だから、弘法大師に決まってるじゃん」
「そうかも知れないなあ」
「絶対に、そうだよ」
サツマイモを積んだ自転車は重かったけれども、二人の心と体は軽かった。気落ちのいい風が吹いていた。歩道には枯れ葉が落ち始めていた。
「アキラ、高野山には、ロックな風が吹いてるぜ~~」
「ロッケンロ~~」