焼き芋リアカー
「兄貴、朝から何してるの?」
「ネットで、焼き芋のことを調べているんだよ」
「どんなこと?」
「道具とか、やり方とか」
「軽トラックがいるよね」
「そんなもの買えないよ、リアカーだな」
「リアカーねえ」
「リアカーのほうがいいんだよ、道路を走ってたんじゃあ、焼き芋は売れないだろう」
「そうだねえ」
「歩道だと、人が歩いてるし」
「リアカー、いくらするの?」
「だから調べてるの」
玄関のチャイムが鳴った。アキラがインターホンに出た。
「兄貴、小島さんだって、女の人」
「ああ、小島さんか、今出る」
ショーケンがドアを開いた。
「おはようございま~~す」
「バーベルのよう子ちゃん、おはよ~~う」
「ガトーショコラ焼いたんです。召し上がります?」
「召し上がります、召し上がります!」
「酒粕と雑穀米が混ぜてあります」
「うわ~~、おいしそうだな~~」
「仕事、決まったら教えてくださいね」
「はい」
「じゃあ、わたしは、これで」
微笑を浮かべて去って行った。
「バーベルのよう子ちゃんって?」
「バーベルで鍛えてるんだって」
「すごいねえ~~、じゃあ、力持ちなんだ」
「そう言ってたよ」
「仕事、決まったら教えてくださいって、どういうこと?」
「彼女も、焼き芋を売りたいって」
「へ~~え、そうなんだ」
「焼き芋売るのに、力は必要ないもんな」
「そうでもないよ」
「うん?」
「リアカーは力がいるよ。高野山は坂が多いからねえ」
「な~るほど」
「大通りまでが大変だよ」
「リアカーにモーターつけらえれないかなあ?」
「そんなことできないよ」
「おまえ、改造とか得意だろう」
「できないよ」
「電動リアカー、売ってないかなあ?」
「そんなもの売ってないよ」
「そうかなあ?」
「モーターとバッテリーで、逆に重くなるよ」
「なんか、いい方法ないかなあ?」
「そうだ、いい方法あるよ」
「えっ?」
「りゅうちゃんのクルマで、大通りまで引っ張ってもらうんだよ」
「おお~~、それいいいねえ~」
玄関のチャイムが鳴った。
「アキラ、俺が出る」「あいよ」
隆二だった。
「おはよう、よく眠れましたか?」
「おかげで、よく眠れたよ」
「それは、良かった」
ショーケンは、焼き芋リアカーのことを話した。
「リアカーだったら、ドームハウスに二台ありますよ。草刈りのときに使ってるだけだから、使ってもいいですよ」
「ええ、ほんと?」
「はい、ご自由に」
「それはありがたい」
「困ったときは、お互い様です」
「りゅうちゃん、どうもありがとう」
「一番のドームハウスの横にプレハブの小屋があります。そこにあります。そこにあるものは、みんなの共有物ですので、自由に使ってください」
「分かりました」
隆二は「道具が揃ったら、連絡してください」と言って、帰って行った。
「兄貴、良かったな~~」
「そうだなあ、まるで俺たちには、神様がついているみたいだなあ」
「そうだね~~」
「弘法大師かな?」
「そうだよ、きっと弘法大師だよ」
「じゃあ今日は、弘法大師に、お礼に行ってくるか」
「そうだねえ」
「ところで、弘法大師って、どこにいるんだ?」
「ここの人だったら、誰でも知ってるんじゃない」
「じゃあ、電話してみよう」
ショーケンは、十八番に電話した。返事は早かった。
「兄貴、誰に電話したな?」
「小島さんだよ。りゅうちゃんばっかりだと悪いから」
「で、何て?」
「奥之院の御廟だって」
「どこにあるの?」
「一の橋から入るんだって」
「じゃあ、自転車で行こう」
「それがいいな」
「今から行く?」
「ネットで石焼き芋機を調べてから、お昼から行こう」
「了解」
「問題は、石焼き芋機と石だな」
「石焼き芋の石は、ホームセンターで売ってるよ」
「へええ、そうなんだ」
「小さくって軽いやつ」
「おまえ、そういうのは詳しいなあ」
「常識、常識」