バーベルの月下美人
「兄貴、おかえり」
「高野山の夕焼けは綺麗だったけど、なんか不気味だったよ」
「そうだろうねえ、いろんな人の墓があるからねえ」
「なんか作った?」
「うん、野菜炒め」
「まあ、なんでもいいや、サンキュー」
「兄貴、部屋が二つあるんだけど、どっちにする?」
「何畳だよ?」
「何畳って、丸いからさあ、分からないよ。とにかく、同じタイプの部屋」
「ってことは、畳じゃないんだ」
「畳じゃない、ゴムみたいなもの」
「ふ~~~ん、見て来る」
「うん」
戻って来た。
「ほんとだ、何だろうな、あれは?後で訊いてみよう」
「ドームハウスってのは、外観はかっこいいけど、床とか家具の置き場所ってのが、やっかいだよねえ」
「そうだなあ」
「テレビは、こっちの大きな部屋にあるよ。パソコンにもなるらしいよ」
「それはいいねえ」
「近所の連中に、挨拶に行かなくっていいのかなあ?」
「そうだなあ、りゅうちゃんに聞いてみよう」
「ええっと、りゅうちゃんは何番だっけな?」
「七番」
「おお、よく覚えてるじゃん」
「さっき聞いたばっかじゃない」
「そうだよな」
「大丈夫、兄貴?」
ショーケンは電話した。すぐに終わった。
「落ち着いてからで、いいって」
「あっ、そう」
「それよりも、早く仕事見つけないとな」
「そうだねえ」
「いい仕事、あるかなあ?」
「高野山は寒いから、焼き芋とか売れるかもよ」
「それ、いいこもな」
「外国人も喜んで食べるんじゃない?」
「そうだなあ」
夕食後、ショーケンは煙草を手にした。
「ちょっと、外で煙草を吸ってくる」
アキラは、煙草を吸わなかった。煙草の煙が嫌いだった。
「兄貴、悪いねえ」
月が出ていた。満月だった。虫が鳴いていた。
「秋だなあ~~」
玄関の階段に座って、月を見ながら煙草を吸っていると、髪の長い女性が歩いて来た。ショーケンを見ると、挨拶をした。
「こんばんわ」
「こんばんわ、お散歩ですか?」
「ええ、いつも夕食後、ドームハウス内を散歩してるん」
「ドームハウスの方で?」
「ええ、そうです。十八番の小島と言います」
「ドームハウスは何軒あるんですか?」
「二十三軒です」
「わたしは、今日、ここに来た、八番の萩原健一です。よろしく」
「わたしは、小島よう子と言います。どうぞよろしく」
「お一人で住まわれてるんですか?」
「いいえ、両親と一緒です」
「お仕事は?」
「今、探しているんです」
「じゃあ、僕と同じだあ」
「高野山には、なかなか無いですねえ」
「そうですか・・」
「橋本とかまで行かないと」
「なるほどねえ、実は、焼き芋を売ろうと思っているんですよ」
「それ、いいんじゃないですか」
「外国人にも売れますかねえ?」
「売れると思いますよ」
「じゃあ、やってみるかなあ」
「わたしもやりたいわあ~~」
「えっ?」
「こうみえても、力は強いんですよ。バーベルで鍛えてますから」
「へええ、それは凄いなあ」
「まかせといてください」
「別に、力は強くなくっても、できますよ」
ショーケンは笑っていた。
「そうですね」彼女も笑っていた。
「ぜひ、わたしも一緒にやらせてください」
「じゃあ、一緒にやりましょう」