極楽橋駅の あけみちゃん
隆二は、隣のドームハウスに案内した。
「まだ雑然としていますので、適当に整理して使ってください」
「りゅうちゃん、どうもありがとう」
「何か分からないことがあったら電話してください。ここの電話は、番号を押すと、各ドームハウスに繋がります。わたしは、七番」
「七番ね、分かった」
「駐輪場に電動自転車がありますので、勝手に使ってください。キイは、どの自転車にも合います」
隆二は、自転車の鍵を二本、ショーケンに手渡した。
「これで、どの自転車も乗れるんだ?」
「はい。」
「乗り終わったら、充電プラグを差し込んでおいてくださいね」
「了解」
「じゃあ、わたしはこれで」
隆二は、帰ろうとしたが振り返った。
「お金、ありますか?」
「当分はあります」
それを聞くと、安心した様子で出て行った。
突然、けたたましい警報音が聞こえてきた。
アキラは、びっくりした。
「なんだ!?」
ドローン ドローン !
ショーケンとアキラは外に出た。ドローンが飛んでいた。どこからか、超小型のミサイルが発射された。あっと言う間に命中して、ドローンは大破して落ちた。
「おお~~、凄いな、これは!」
「アキラ、今の、頭脳警察のドローンだな」
「たぶん、そうだね」
隆二がやって来た。
「スパイ・ドローンかも知れないので撃墜しました」
「凄いねえ~~」
「ここに入って来るドローンは、容赦なく撃ち落とします」
アキラが「それがいいね」と頷いた。
ショーケンがぼやいた。
「コンピュータ政府は、いったい何を考えているんだ、こんな物に、お金を使って?」
「そうだねえ、兄貴」
隆二がつぶやいた。
「所詮、電子脳は電子脳ですよ」
ショーケンの携帯電話が鳴った。
「あっ、あけみちゃん?どうしたの?」
・・
「りゅうちゃん、クルマある?」
「ありますよ、軽自動車が」
「それで、極楽橋駅まで行ける?」
「不動坂を下って行けば、行けますよ」
「じゃあ、乗せてってくれない?」
「いいですよ」
ショーケンは「そこで待っててね」と言って、電話を切った。
「兄貴、どうしたの?」
「電車が、まだ動いてないらしい、それで帰れないって」
「それは大変だ、でどうするの?」
「分からないけど、行って来る」
高野山の鐘が、午後の三時を告げていた。
「二時には動くって言ってたんだけどなあ」
「じゃあ、行って来る」
「あいよ」
・・
あけみちゃんは、娯楽橋駅の前で、寂しそうに立って待っていた。
「あけみちゃ~~~ん!」
目が合った。
「ショーケンさ~~ん!」
「このクルマに乗りな、次の駅まで乗せてって、あげるよ」
「ありがとうございます!」
隆二が訊いた。
「どこまで行くんだい?」
「橋本までです」
「じゃあ、そこまで乗せてってやるよ」
「ありがとうございます」
彼岸花が、夕暮れの切ない風に揺れていた。
ショーケンは帰って来た。
「兄貴、どうだった?」
「橋本駅まで、クルマで送ってきてやった」
「それは良かった」
「ついでだから、買い物してきたよ」
「コンビニ?」
「郵便局近くの、かつまやっていうスーパー」
「そんなところがあるんだ」
「コンビニは、ファミリーマートがあるんだって」
「そう、何買ってきたの?」
「高野山だから高野豆腐だろう、野菜やシイタケ、肉」
「高野豆腐ねえ」
「高野豆腐は、武士が戦のときに食べてたんだぞ」
「へ~~え、そうなの」
「栄養があるんだよ」
「お米、買ってきた?」
「ああ、買って来たよ。食パンも買って来たよ」
「それは有難い、兄貴は食パンは食べないもんね」
「りゅうちゃんは、米もパンも食べないんだって」
「えええ、どういうこと?」
「米や小麦粉は、健康に悪いんだって」
「じゃあ、ラーメンやうどんも?」
「そうらしい」
「凄いねえ~~、何を食べてるの?」
「豆腐、野菜、肉や魚とか言ってたな」
「炭水化物は?」
「芋とかカボチャとかだって」
「へ~~~え、驚き桃ノ木」
「バターもマーガリンも悪いぞ」
「じゃあ、何つけて食べるの?」
「そうだなあ、マヨネーズかな?」
「パンにマヨネーズ!」
「チーズやハムとか目玉焼きとかレタスとか、挟めばいいじゃないか」
「そうだね~~」
「納豆もいいんじゃないか?」
「いやだよ、そんなの」
「贅沢な奴だなあ」
「そりゃあないよ」
「高野山に来たばっかりなのに、今日は、いろんなことがあったなあ~~」
「そうだねえ、人生は謎だらけだねえ~~」
「おもしろいこと言うねえ」
「弘法大師になっちゃった」
「弘法大師?」
「高野山の町はねえ、弘法大師がつくったんだよ」
「へ~~え、そうなのかよ。大工さんかと思った」
「そりゃあ、そうだけど」
「弘法大師って、お坊さん?」
「うん、そうだよ」
「弘法も筆の誤りって言うからな、かなりの有名人だな」
「昔の有名人」
「おまえ、中卒なのに詳しいじゃん」
「ここに来る前に勉強したもん」
「あっ、そうだ、ビールを忘れた、買ってくるよ」
「ノンアルコールビールね」
「あれ眠れるんだよ。自転車で行ってくる」
「俺にも」「分かった」
「なんか適当に作っておくよ」
「頼む」
高野山の鐘が五時を告げていた。
「やっぱ、高野山は、標高が高いだけあって、寒いなあ」
近くの転軸山公園には、真っ赤な彼岸花が、夕暮れの切ない風に揺れていた。