アル中ハイマー
三時半を過ぎた頃、篠原英子がやって来た。
アキラの目にとまった。
「どうしたの、篠原さん?」
「みなさん、ここにいらしたんですか?」
「うん、朝から」
「明日から、ショーケンさんが紹介したところで、働くことになったんです。で、お参りに来たんです」
ショーケンが喜んだ。
「良かったねえ~~、ひでちゃん!」
「ショーケンさん、どうもありがとうございました!」
「良かった!良かった!」
よう子が来た。
「ひでちゃん、どうしたの?」
「密教瞑想道場の受付が受かったんだって」
「ひでちゃん、良かったわねえ~~」
「みなさんの、お陰です」
「ううん、ショーケンさんが見つけたの」
「ショーケンさん、ほんとうに、ありがとうございました」
「まだ分からないよ。働いてみないと」
ショーケン
「篠原さんは、頭のいい顔してるから、大丈夫だよ」
「うん?」
「受付はねえ、馬鹿な顔じゃあ、馬鹿にされて信用されないの」
アキラ「そうかも知れないな」
ショーケン
「じゃあ、お参りに行っておいでよ。俺たち、ここで待ってるから」
「もう終わったんですか?」
「終わった」
「じゃあ行って来ます」
英子は、五分ほどで戻って来た。
「じゃあ、買い物して帰るか」
「そうしよう」
「ひでちゃんも行く?」
「はい」
「ひでちゃん、お金、大丈夫?」
「今日、難病の支援金が少し入ったんです」
「それは良かったわ」
四人は、スーパー勝間屋に向かった。
スマホを見ながら歩いていた若い男と、酔っ払いの男が、ドンとぶつかった。
「おまえ、どこ見て歩いてんだよ~~、危ないじゃないかよ~~~!」
「おじさんこそ、ふらふらして危ないじゃないか」
二人は、何事も無かったかのように去って行った。
ショーケンは呟いた。
「どっともどっちだな」
「神聖な高野山にも、酔っ払いはいるんだ?」
「そりゃあいるだろう」
「酒のどこが美味いのかなあ?」
「美味いから飲んでんじゃあないんだよ。酔うために飲んでるんだよ」
「酔うために?」
「頭を麻痺させるために」
「そうなんだ?」
「嫌なことを忘れるためにだよ」
「そうなんだ?」
酒を飲まないアキラには理解できなかった。
「変な人達だねえ」
「飲み過ぎると、脳が縮むんだってよ」
「怖いねえ~~」
「アル中で頭がいかれちゃうんだよ」
「アルツハイマーだ」
「そういうのを、アル中ハイマーって言うんだよ」
「上手いねえ、兄貴!」
「いよいよ、高野山病になったかな」
ショーケンだけが笑っていた。よう子と英子は、二人で話していた。