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海と風の王国  作者: 梨香
第一章 転生したら王子様
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八 サンズとの日々

 ショウは、サンズに夢中になった。


『ねぇ、竜ってどれくらいの距離を飛べるの?』


 サンズもショウが大好きになり、絆を結びたいと思っていたが、親竜のメリルにもう少し待つように言われている。


『さぁ、私は未だ人を乗せて飛んだことが無いんだ。やってみなければわからない』


『え~、サンズは何歳なの?』


『卵から孵って七年だよ』


 ショウは竜が長生きすると聞いていたので、七歳と聞いて驚く。


『へぇ~、じゃあ僕より一歳年下なんだね』


 長生きの竜にしては七歳は凄く幼いのだろうと察して、親竜のメリルが絆を結ぶのを止めたんだとショウは思った。あれから、アスランから最低限の竜の知識を得たショウは絆の意味を少し理解した。


『年下と言っても数ヶ月だけだよ』


 愚痴るサンズの目の周りを掻いてやる。竜が目の周りを掻いて貰うのが好きなのもアスランから聞いたのだが、あの傲慢な父上がメリルのご機嫌を取っている姿を想像すると笑いが込み上げるショウだった。


『早く、ショウと絆を結びたいなぁ』


『う~ん、絆を結ぶと僕が死んだら、サンズも死んじゃうんだよ。竜は百年でも二百年でも生きられるのに損じゃないの?』


 目の周りを掻いて貰ってウットリしていたサンズはカバッと立ち上がる。


『ショウは私が嫌いなの? 一緒に生きるのが嫌なの?』


 いきなり立ち上がったサンズに寄りかかっていたショウは振り落とされて尻餅をつく。


『あっ、ごめんね』


 サンズは人間に慣れていなかったので、いきなり巨大な自分が動くとどうなるのか理解していなかった。


『いや、大丈夫だよ。サンズの事は大好きだ。ただ、未だ絆の意味が理解できてないだけなんだ。竜には不利に思えるからね』


 絆は未だ結んでないが、ラブラブのショウとサンズだ。


 ショウは産まれてから、ミヤや女官達に甘やかされて育ってきたが、やはり両親の愛情に飢えていた。兄上達も威張りん坊のカリンですら嫌いでは無かったが、何となく普通の兄弟ではなく利害が絡む相手なので、心を許せる相手では無い。


 サンズはショウが心から信頼できる相手で、無償の愛情を返してくれるので、一緒にいると癒される。

  

「ショウは、また竜と一緒にいるのか」


 カリンは少しショウの事を見直していたのに、竜にベッタリの態度にガッカリしていた。


「父上の気を引きたいのでは無いですか? 竜を大事にしていれば、独立の時に船の一艘でも貰えるかもしれませんしね」


 カリンは、ハッサンの損得勘定ばかりしている気質が好きでは無い。


「それはお前の考えだろう。ショウはそんな事を考える頭は無いさ」


 ショウの頭脳明晰振りには一目置いているカリンだが、覇気の無さには喝をいれたくなるのだ。せめて、ナッシュやラジックぐらい気働きが出来たら、自分が引き立ててやっても良いのにと溜め息をつく。


 兄上達の会話を、ナッシュとラジックは口を出さずに聞いている。カリンが結構ショウを彼なりに可愛がっているのを知っていたが、軍人気質なのが災いして本人には伝わって無いのも気づいていた。


「カリン兄上も、悪い人では無いんだけどなぁ」


 ナッシュは兄上達がそれぞれ出て行って、ラジックと二人きりになってから口を開く。


「へぇ~、ザハーン軍務大臣は落ち目だと聞いたけどね」


 ラジックはハッサンの外戚の大商人アリから、ザハーン軍務大臣がアスランに釘を刺されたらしいと聞いたのだ。


「ザハーン軍務大臣の事を話しているんじゃないよ。カリン兄上のことさ。威張った口調が気に障るけど、結構面倒みも良いんだ」


 ラジックはナッシュがカリン陣営に引き込まれているのを察した。


「ナッシュ兄上、もう直ぐカリン兄上も離宮を出て行かれるのですよ。そうしたら、ハッサン兄上の天下になるのだから、気を付けた方が良いですよ。ショウはラシンドを通じて、サリーム兄上を推すつもりかなぁ。アリ様はラシンドが嫌いだから、敵に回すと厄介なのを奴は知らないのだろうな」


 ナッシュはラジックがハッサンの影響を受けて、目先の事の細かい計算ばかりしているのに苛立つ。


「誰が後継者になるかは、父上がお決めになるんだぞ。あの父上が、アリ様やザハーン軍務大臣、ましてラシンド様の顔色を窺うものか。気紛れか、本能か、真剣に考えておられるのかも誰一人わからないが、あれほど読めない方はいない。なのにキチンと東南諸島連合王国は運営されている。結局は、凡人には天才の考えは、わからないのさ」


 ラジックは留守がちなのに、どうやって国を真っ当に運営しているのかわからない父上が後継者を決めたら、誰一人反対できる者はいないだろうと思った。


「父上って不気味だよなぁ。神出鬼没っていうか、ザハーン軍務大臣の件も何をしたのかわからないけど、凄く心を入れ替えて海賊討伐に励んでいるし……何かカリン兄上から聞いて無い?」


「あのプライドの塊みたいなカリン兄上が、祖父の失策を知っていたにしろ、俺に話すと思うか? こうなったら、第一王子だしサリーム兄上を後継者に指名するんじゃないかな」


「まぁ、後ろ盾は期待出来ないけど、サリーム兄上なら僕達も安泰だから良いけどね。無体な事は要求されないだろうから。ただ、サリーム兄上は真面目だけど、カリン兄上やハッサン兄上を押さえられるかな?」


 二人は顔を見合わせる。


「私達二人がサリーム兄上に協力しようとしても、カリン兄上やハッサン兄上に邪魔されそうだよね……」


「父上は何か考えていらっしゃるのかな?」


 ナッシュもラジックも、兄弟で揉めるのは御免だと溜め息をつく。



 その頃、後宮ではアスランがミヤから説教されていた。


「未だ、後継者をお決めにならないのですか? アスラン様はお若いですが、後継者を決めないと余計な争いを招きますよ」


 アスランはミヤに言われるまでも無く、後継者を決めなくてはいけないのはわかっていたが、何故か決めかねていた。


「どうして息子達は出来が悪いんだろう」


 ミヤは王子達が出来が悪いとは思って無かったので、傲慢なアスランに腹を立てる。


「酷いおっしゃり様ですこと。御自分の息子なのに愛情は無いのですか? それぞれ欠点を持ってますけど、よい面もお持ちですよ。父親として、能力を引き出してあげるのも大事です」


 後宮の事は全てミヤ任せだったが、子供ではなく成長した王子達は自分が受け持つべきだとキッパリ言われて、げんなりするアスランだった。


「私には他にも考えなければいけない事が山積みなんだぞ。イルバニア王国はプリウス運河なんて厄介な物を建設中だから、対策を考えなくてはいけないし」


 その件はミヤも頭を悩ましている。


「プリウス半島に大東洋とアルジエ海とを繋げる運河を建設するだなんて、考えてもみなかったですわ。確かにプリウス運河が出来れば、アルジエ海に半島とその下の暗礁群を遠回りしなくても行けますわね」


 アスランはこんな突飛な事をグレゴリウスが考え出したとは思えない。


「イルバニア王国には、変わった事を考える王妃がいるからな」


 ミヤはユーリを第二夫人にし損ねたアスランが悔しがるのを可笑しく思う。


「もう、十八年も前の事ではありませんか。そろそろ第二夫人を決めたら如何ですか?」


 クッションにもたれかかっていたアスランは、ガバッと起き上がって抗議する。


「ミヤ、私が第二夫人を置かないのは、ユーリとは関係無いぞ。サリームや、カリン、ハッサンの母親を第二夫人にしたら、後継者に指名すると期待させそうだからだ。今から思えば、ユーリは第二夫人には向かない女だったな。あれは第一夫人向きの女だ」


「あら、ユーリ王妃は六人ものお子様をお産みだと聞きましたわ。それも、絆の竜騎士になる素質を持ったお子様だとか。容姿も若いままを保っていらっしゃるそうですよ」


 イルバニア王国の国王夫妻が、ラブラブなのは東南諸島にも流れてきている。


「ミヤに会わせてみたいな。ユーリはガチガチの女性人権主義者だったから、東南諸島の結婚制度をボロカスに言っていたからな。それにしても、結婚しても公務に仕事にと飛び歩いてるのに、よく次々と子供が出来るものだ」


 ミヤもユーリに会ってみたいと思った。


「ああ、こうしていてもミヤに怒られるばかりだ。仰せに従ってボンクラ息子に竜の乗り方でも教えてくるか」


 これ以上、第二夫人や後継者の件でミヤと話したくないと思ったアスランは、ショウにサンズへの騎竜の仕方を教えに行く。


「サンズに跨がって飛べば良いんだ」


 凄くザックリした乱暴な教え方だけど、ショウは言われるままにサンズに乗って飛び立つ。


『アスラン、初心者なのに鞍も命綱も付けずに飛ばしたのですか?』


 メリルは子竜の人を乗せての初飛行に冷や冷やする。


『しまった! サンズも初飛行なのか。私の初飛行の時は、お前が慣れていたから……まぁ、大丈夫だろう』


 ミヤが知ったら殴られるなと、アスランは降りてくるようにサンズに伝える。


『もう、降りてくるようにだって』


『え~、さっき飛んだばかりなのに。空を飛ぶのって気持ち良いね』


『さっさと降りてきなさい』


 メリルの怒鳴り声に、渋々サンズは離宮に降り立つ。アスランは全く怖がらないで空を飛んだショウを見直すべきか、危険回避能力が無いと思うべきか悩んだが、鞍の付け方を教える。 


「ああ、そうじゃない。もっとキツく締めるんだ」


 ショウはサンズが苦しいのではと緩く鞍を締めたが アスランに叱られてしまう。


『キツく締めても大丈夫?』


 サンズは鞍を付けるのは初めてで、変な気持ちがしたがキツく締められても平気だった。


『大丈夫だよ。鞍には慣れて無いから、変な気持ちだけどね』


 ショウはサンズが心地悪そうなのを心配する。


「父上、僕は鞍無しでも平気ですよ」


 アスランは考えの浅いショウの優しさにウンザリした。


「馬鹿か! サンズにお前以外の人を乗せたり、荷物を運ぶ時はどうするのだ。サンズには鞍に慣れる練習が必要なのだ。お前は考え無しに口に出しすぎる」


『サンズは未だ幼いのだから、練習が必要なのです』


 ショウとサンズは親達に叱られて鞍を受け入れた。


「言っておくが、いきなり長時間飛ぶな。一日一日乗る時間を増やしていけ」


 たまには父親らしい事も言うんだとショウは一瞬見直しかけたが、サンズを心配したのだろうと思いなおす。


 ショウとサンズの新米コンビは毎日少しずつ飛行時間を増やしていく。


 ただ、ショウはそれでなくても勉強に武術にと忙しいのに、カリンに軍艦に連れて行かれたりと、サンズとなかなか長時間の飛行はできなかった。

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