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海と風の王国  作者: 梨香
第二章 カザリア王国の日々
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二十四話 西海岸の測量は長丁場だったね~

「やっと、最南端のグレイブ岬に着いたね~」


 ショウは、シーガルとワンダーを振り返って笑った。ゴルチェ大陸の西海岸の測量を始めた時は、十歳だったショウも、十三歳になった。


 途中で何回かカザリアへ帰り、軍艦を交代させながら、やっと西海岸の測量を終えるグレイブ岬にたどり着くまで二年と半年の月日が過ぎた。


 その間にワンダーは十七歳の青年士官になり、日焼けした肌に白い東南諸島連合王国の士官の制服が板に付いている。


 シーガルも文官を目指す落ち着いた物腰はそのまま健在だったが、日焼けした十六歳の頼もしい青年に成長していた。


 しかし、一番変化したのはショウで、どちらかというとチビだったのに、にょきにょきと背が伸びて、カザリア王国に帰る度にパシャム大使は新しい長衣を新調しなくてはいけなかった。


「ちょうどパドマ号で終われるのも、嬉しいですね」


 シーガルはこの二年半年にも及んだ測量の日々が終わるのに、感慨を覚える。


「この南端からカザリア王国へ帰るより、東南諸島連合王国の最東島ペナンに帰る方が早いのになぁ~」


 測量し直したゴルチェ大陸の西海岸は、今までの地図よりずっと西に張り出していた。


 ショウは自分の説を証明したくてウズウズする。シーガルとワンダーはショウの気持ちは理解していたが、レッサ艦長は無理をしないだろうと思った。


「駄目です! 申し訳ありませんが、アスラン王から厳命を受けています。最南端のグレイブ岬に着いたら、一旦カザリア王国に帰り、聴講生として受け入れてくれたパロマ大学の関係者に挨拶をして、レイテに帰って来るようにとのことです」

  

 レッサ艦長に父王の命令だといわれては、ショウは諦めるしかなかった。どうせ離宮に帰っても、ラジックも独立したので一人っきりだと落胆しかけたが、ララに会えるのは嬉しい。


 ショウはララと手紙のやり取りをしていたが、ゴルチェ大陸に測量の航海に出ていることが多くて、なかなか思うようには気持ちをつたえられなかった。


 手紙でロマンチックな事を書くのって、恥ずかしいと思ったのだが、手紙より口でロマンチックな事を言うほうが恥ずかしいとは考えないショウだ。


「カザリア王国に一旦帰らなきゃいけないなら、早く帰った方が良いよ」


 ショウは未練たらしく見ていた地図を丸めて片づけると、全開の帆に風を送った。レッサ艦長はショウ王子の風の魔力が年齢を重ねる度に強くなっていると、北上しだしたパドマ号の波を切り裂いて進むスピードに感嘆する。


「何度か風の魔力持ちに会った事があるが、ショウ王子ほどの威力を発揮する魔力持ちは見たことがない。この方なら新航路の発見も、夢で無いだろう。その栄誉の末端にでも、関わりたいものだ」


 レッサ艦長は、新航路発見の任務を与えられるのを切望していたが、それはアスラン王の考え次第なのだ。



 途中で水や食糧を補給して、パドマ号はカザリア王国のレキシントン港に記録的な速さで寄港した。


 ニューパロマのパシャム大使にもアスラン王から、ショウを帰国させるように命令がきていた。


「ゴルチェ大陸の西海岸の測量、お疲れ様でした……」


 三年の間、世話をしたショウ王子が帰国すると思うと、パシャム大使は寂しく思ったが、気を取り直してお祝いの宴会を開くのだった。


 ショウはパロマ大学の学長やバギンズ教授に帰国の挨拶をした。パロマ大学を案内してくれたスチュワート皇太子にも、お別れの挨拶をした。


「来年の私の結婚式には来て下さい。帰りの航海が、順風満帆でありますように」


「スチュワート皇太子殿下には、お世話になりました。又、結婚式で、お会いできると嬉しいです」


 ショウはその時は新航路で来ようかなと内心で考えていた。


「帰国しちゃうんですね。今ならパロマ大学に入学しても、おかしくない年齢になったのに。どうせ帰国しても、第六王子なんでしょ」


 ジェームスは、スチュワートと共にパドマ号を見送りながら、チビだった王子がゴルチェ大陸の西海岸を測量するという大事業をやり遂げたのを高く評価していたので、第六王子だなんて惜しいなと考えた。


「さぁ、それはどうかな? 東南諸島連合王国では、年上の王子が後継者になるとは決まってないみたいだからな。今のアスラン王も、末っ子だと聞いているし」


「上の王子達と、揉めないのかな……」


 スチュワートとジェームスは顔を見合わせて、野心の無さそうなショウが後継者争いに巻き込まれて、生き残れるのだろうかと案じるのだった。



 そんな心配をされているとも知らず、ショウの心の中にはララと会える事だけが大きくなっていた。


「ゴルチェ大陸の西海岸の測量が、こんなに長丁場になるとは思いませんでしたね」


 ワンダーもシーガルも許嫁をレイテに残しているのだと、ショウは自分で考えていたよりも長く掛かったなと思い、付き添いの二人に感謝した。


「ワンダーや、シーガルは、帰国したら結婚するの?」


 ワンダーとシーガルは此処まで付き合ったのだから、新航路発見の航海にも連れて行って下さいとショウに頼み込んだ。


「う~ん、ユーカ号では補給出来るかわからない航海は無理だよね。カインズ船長も資金を増やしてくれているから、せめて中型船を買いたいなぁ」


 二人は新航路の発見は国家的事業なのに、足の遅い商船でアスラン王が航海に出させるわけが無いと、ショウ王子の自覚の無さに呆れた。


 しかし、二人はショウと何年も過ごしていたので、後継者になりたいという野心を欠片も持っていないのを知っていたので、顔を見合わせて余計な事を言わないでおこうと協定を結んだ。


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