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海と風の王国  作者: 梨香
第二章 カザリア王国の日々

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十五話 サマースクールは大騒動の予感

 ショウ達は夏休を測量したいなと考えていたが、アスラン王からの許可が出ないとパシャム大使が足にしがみついてでも止めそうだったので、パロマ大学のサマースクールを受講することにした。


 ゴルチェ大陸の文化論は、全員が満足できる講座だったが、ワンダーはグレンジャー教授の女学生のサマースクールには乗り気では無かった。


「だから、そんなに嫌だったら、受講しなくて良いよ」


 気乗りしなさそうなワンダーにショウは声を掛けたが、意地になって否定するのだった。


「ワンダーにも新しい考え方を知って貰いたかったけど、女性には意外と優しいし、無理やり受講させる事もないんだけどね」


 十四歳のワンダーにも許嫁がいるので、ショウがスチュワートに趣味の良い装飾品を売っている店を紹介して貰ったと聞くと、興味の無さそうな振りをしながらもチェックしてプレゼントを買って送ったりしていたのだ。


 本人は秘密にしていたが、シーガルにも許嫁がいるのでプレゼントしたいとショウと店を訪れた時に、東南諸島の服装の同じ年頃の少年なので同人物だと勘違いしてしまった。


「先日、お買い上げ下さった指輪はお気に召したでしょうか?」


 一瞬、わけがわからずポカンとした二人は、はは~んとワンダーがプレゼントを買いに来店したのだと察した。


「シーガル、ワンダーにはこの事は言わないでおこうよ。気まずい思いをしたら、可哀想だから。まぁ、本当は隠す必要無いと思うけどね~」


 ショウは女の子の喜ぶ物などわからないと言うシーガルに、許嫁のタイプを聞き出して、おっとり系の女の子が喜びそうな優しい色のリボンや、華奢な金飾りを勧めた。


「ショウ様は、プレゼントを選ぶのが慣れていますね。これならエリーも喜びます」


 ショウだって女の子へのプレゼントなんて選ぶのは慣れていないが、装飾品屋にいるだけで居心地の悪そうなシーガルよりマシだと思った。


「ねぇ、ワンダーはどうやってプレゼントを選んだんだろうね~」


 シーガルも想像しただけで、笑いが込み上げてきた。



 ワンダーは東南諸島の結婚制度は理に適っていると考えていたので、旧帝国三国の非難がお門違いな物だと苛ついていた。女性学のサマースクールを受講しなくて良いとショウに言われた時に、素直に従っていれば良かったと後悔しながら、大教室のドアを開けたが、中では講義前から前哨戦が始まっていた。


「君達、去年もグレンジャー教授のサマースクールを引っ掻き回したのに、まだ懲りずに今年も受講するだなんて、いい加減にしなさいよ!」


 おかっぱ軍団が、男子学生の団体に食ってかかっていたが、ニヤニヤ笑うだけで相手にされていなかった。ショウは彼等が女性学を受講している女学生達が少し恐れていた論客達だと思った。


「パロマ大学は、生徒の自由な考えを支持している。君達に受講を制限する権利は、無いと思うけどね」


 男子学生の一人が煩そうに答えると、おかっぱ軍団の一人が怒って平手打ちにしようとした。


「エミリーさん、駄目だよ。そんな男を殴っても、手が痛くなるだけだよ」


 エミリーは子供のショウに窘められて、少し恥ずかしそうに頬を染めたが、グレンジャー教授のサマースクールを台無しにしてはいけないと思い直した。


「ショウ様、本当にその通りね。私の手が汚れるところだったわ」


 おかっぱ軍団は、男子学生の悪口を声高に喋りながら窓際の席に付いた。


「貴方は東南諸島の王子なのに、女の人権擁護だなんて偽善者だな」


 おかっぱ軍団との悶着を楽しんでいた男子学生は、邪魔をしたショウに喧嘩をふっかけてきた。


「本当に何の目的で、グレンジャー教授のサマースクールを受講しにきたのだろう」


 相手かまわず議論をふっかける男子学生にウンザリしたショウは、無礼な言葉に怒るワンダーを制して、真ん中の列の後ろの席へ向かった。


「ねぇ、なんだか講義が始まる前から、雲行きが怪しいね」


 窓際にはグレンジャー教授の講義を受けている女学生達が陣取り、廊下側には男子学生達がにやにや笑って座っている。


 サマースクールにのみ参加した女の子達や、女性学に興味を持ったパロマ大学生は真ん中の席に座って、どちらの陣営に付くのか決めかねていた。


 ショウは一人なら窓際の席に座るところだけど、ワンダーや、シーガルが一緒なので真ん中の席についた。ワンダーはショウを偽善者と呼んだ男子学生を席に付いても睨んでいたが、グレンジャー教授が入室したので、教壇に視線を戻した。 


「ようこそ女性学のサマースクールに。今回のテーマは『女性の就職』です。あら、ベンジャミン君、今年も受講してくれるのね。ヘインズ君、今日で少しは貴方のカチコチの保守的な考え方に風が通れば嬉しいわ」


 ベンジャミンと呼ばれた男子学生は、少し笑いながらグレンジャー教授にはかなわないなと肩をすくめる。


 エミリーと揉めていた男子学生はヘインズという名前らしく、ベンジャミンに頼んだぞと喝を入れて、どうやら援護を頼んだみたいだとショウは思った。


 グレンジャー教授は、女性が職業につく事に賛成な生徒と反対の生徒と中立の生徒に分けた。


「僕は窓際の席に移るよ」


 ショウが賛成側に付くのは予想していたが、シーガルとワンダーは賛成とは言い難いので困惑しながら中立の真ん中の席に残った。


 ヘインズとベンジャミンは、シーガルとワンダーは自分達と同じ考えだが、王子が賛成側に付いたので反対側には来にくかったのだと思った。  

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