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海と風の王国  作者: 梨香
第二章 カザリア王国の日々
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八話 変人じゃないと教授になれないのかな?

 パロマ大学の聴講生として、バギンズ教授の講義に慣れてきたショウは、学生達に勧められた講義を片っ端から聴いてみることにした。


「アン・グレンジャー教授は、女性学と書いてありますよ。ショウ様、講義に出るのは拙いです」


 ワンダーとシーガルは多少変わった教授であろうと一度ぐらい講義を聴いても害は無いと、ショウの好きにさせようと思ったが、女性学の講義には腰が引けていた。


「女性学? ああ、女性の人権保護とか、社会進出を目指すとか……確かに東南諸島の結婚制度とか、槍玉に挙げられそうだよね~」


 ショウの言葉に講義には出ないのだと思ってシーガルとワンダーはホッと胸をなで下ろしたが、そうは問屋がおろさなかった。


「でも、僕も東南諸島の結婚制度には疑問を持っているから、面白いかも」


「冗談でしょ! ショウ様、まさか女性学なんて聴かれるのですか?」


「旧帝国の三国は、東南諸島の結婚制度に偏見を持ってます。まして女性学を受講している学生などは、どんな暴言を吐くか解りません」


 二人に猛烈に反対されて、確かにそうかもと迷ったが、聴いてみて無理だと思ったら、止めたら良いと考える。


「ガチガチのウーマンリブの教授だったら、一度切りにしたらいいよ。僕には旧帝国三国の女性の立場も、不安定に感じるんだ。それに、東南諸島の結婚制度も本当のところ、よくわからないし……」


 ショウは君達は聴かなくて良いよと言ったが、王子が一人で槍玉にあげられるのを見過ごすことはできないと、ワンダーとシーガルは拒否する。 


「でも、今週は講義が終わってますよ。他の講義を、先に受けてみましょう」


 シーガルは、ショウと過ごして、おっとりとしているようで結構言い出したら後に引かない性格を知ってきていたので、反対しても無駄だが、他に興味を持たせれば、一度受けたら満足するだろうと思った。こうして、手当たり次第に面白そうな講義を聴講したが、三人にはある疑問が湧いた。


「個性豊かな教授が、多いですね」


 シーガルの遠回しのコメントに、ショウはストレートな意見を返した。


「変人じゃないと、教授になれないのかな?」


 ワンダーは海に出たくて、溜め息をついた。


「多分、普通の学者肌の教授も、いらっしゃいますよ。私達が、たまたま個性的な教授の講義ばかり聴いたのでしょう。でも、特にアレックス・フォン・クレメンス教授は、変わってるの範疇を越えてましたね」


「えっ、アレックス・フォン・クレメンス……レザー・フォン・バギンズ・クレメンス教授と後ろの名前が一緒だよね。親戚なのかな? まさか……夫婦とか……」


 ショウはバギンズ教授に講義の後で、もしかしたらと尋ねた。


「ええ、アレックスとは夫婦なのよ。貴方ったら、アレックスの講義を受けたの? 全く実生活には役に立たない講義内容でしょ、数学のように美しく無いし。魔法だの、古文書だの、過去に捕らわれているわ」


 ショウは前世ならバギンズ教授の言う事が正論だと思ったが、この世界には竜がいるし、魔法も存在しているのにと驚いた。


「でも、魔法は存在していますから、体系的な研究も必要だと思います」


 バギンズ教授は溜め息をついて、ショウに魔法の現状を教えた。


「確かに魔法は存在しているけど、魔力を持たない人の方が圧倒的に多いのよ。なのに、医療も治療師任せだなんて、駄目に決まっているでしょ。私は数学や、科学、医療を研究して、世の中を発展させたいのに、アレックス達は魔法や昔滅びたシン王国の研究に没頭しているの。確かに、魔法は便利よ。でも、魔力を持たない人の暮らしはどうなるのかしら」


 ショウはバギンズ教授の言う事も尤もだと考え込む。大使館に帰ってからも、ずっと科学の進化に前世の知識を使う事について悩み続けた。


「この世界は、確かに科学技術や医療とか遅れている。僕はどうしたら、良いのかな? 帆船は大好きだしエコだけど、蒸気船の方が風が凪いでも航行できるよね。蒸気機関車とか、ああ、発電所とかあれば生活は一変するんだ」


 ショウは前世の記憶を利用すれば、どういう結果がもたらされるのか考える。


「産業革命が、良い事だけをもたらす訳じゃ無いよね。この綺麗な空は煤煙で灰色に変わるし、若年者労働とか、社会科で習ったけど、大戦争のきっかけにもなったんだよね。戦争と言えば、この世界には火薬が発明されていない。確か木炭と硫黄と硝酸で出来るけど、花火は我慢できるし、大砲とか打ち合う戦争は御免だ! 僕の記憶には役に立つ物もあるけど、この世界に害をなす物もあるんだ。化石燃料は使われてないから、空も綺麗なんだよね~、でも、北のローラン王国の冬は寒いだろうな……」


 ショウは悩んだが、蒸気船は当面は諦める事にした。 


「パロマ大学にいる今なら、蒸気船の概念を伝えたら、きっと実現してくれる人もいると思うけど、コロンブスだって帆船で新大陸を発見したんだもの、僕が文明を進めなくてもきっと誰かが発明してくれるよ」


 ショウは、自分なりの結論を出して、夕食を食べに下に降りる。


「また考えなおす必要が出た時は、その時に考えれば良いさ」


 楽天的なショウの考えを、もしアスランが知ったら、ヘッポコと詰っただろう。

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