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海と風の王国  作者: 梨香
第十五章 次代の王
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26  ショウ王!

「どうにか調印にまで持っていけましたね」


 明日が戴冠式だというのに、ショウはくたくただ。世界中から王族や外交官がレイテに集まっているので、外交合戦が勃発したからだ。その上、父上からイルバニア王国、カザリア王国、ローラン王国と四国同盟を締結しろ! スーラ王国と同盟を結べ! と命じられていたので、最後の調整でバッカス外務大臣共々疲れきっていた。


「父上は調印式に出て下さるだろうか?」


 今も言葉使いは時々変だが、何時もはきちんと姿勢を正して座っているバッカス外務大臣が、背もたれに寄りかかったまま苦笑する。


「まさか! ショウ王として調印して下さいね」


……ショウ王太子は、アスラン王が若き王に花を持たせようとされているのに気づかれて無いのかしら? 戴冠式後の初仕事として、四国同盟とスーラ王国との同盟を調印させようと考えておられるというのに……


 崇拝するアスラン王の最後の命を果たすのは、有能なバッカス外務大臣でも本当に大変だった。他の大臣もそれぞれ大仕事を押し付けられた。ドーソン軍務大臣は、組織だったパトロールの計画と、軍艦と乗組員の増強。ベスメル内務大臣は、法律の整備、イズマル島の行政府の管理。ショウ王の治世を安泰にしようと、大臣達はこの一年寝る暇もないほどの激務をこなした。


「明日……父上は本当に退位されるんだなぁ」


 バッカス外務大臣は、それより、自分が戴冠される事を考えて下さいと、後宮へショウを帰す。


「今夜は早く寝て下さいね! 目の下にクマがある新王なんて、みっとも無いですからね!」


 この一年の同盟交渉で、バッカス外務大臣は常にショウの傍らにいた。他の大臣や家臣達も、次の宰相はバッカスが相応しいと認めてきている。ショウは、父上の後宮だった住まいに帰りながら、次の外務大臣は誰にしようかと考える。


「ショウ様、お疲れ様です」


 にこやかに出迎えてくれたリリィと、妻達、そして子ども達とささやかな宴を楽しむ。戴冠式後の宴会にも妻達は接待役として出席するが、ショウとは話す暇も無いだろうとリリィが用意したのだ。


 ショウは楽しそうに踊るアイーシャ、レイラ、バイオレットを複雑な思いで眺める。四国同盟を結ぶ交渉で、やはり相手国から縁談を条件につけられたのだ。


「本人達が会ってからにしましょう」未だ幼いからと、正式な婚約はしてないが、いずれはお見合いすることになっている。


……それにしても、マウイ王子が戴冠式に来るとは……


 サバナ王国のアンガス王は、後継者のユング王子の傲慢な態度に怒り、廃嫡してマウイ王子を後継者にしたのだ。ルードの子豹ハルスが、ゼリアのロスと揉めなければ良いがと考えているうちに瞼が降りてくる。


「ショウ様……お疲れなのね」ショウは子どものように、ララの膝に頭を落として眠りについた。他の妃達は、やはりショウ様はララ様が一番だと思っているのだと溜め息をつく。王子を産んでいないララだが、ショウの最愛の妃として美しく輝いている。


「お姉様、ズルいわ!」ミミの恒例の抗議に、妻達は静かに笑いさざめいた。




 凛々しい若き王に、戴冠式に訪れた人々は感銘を受けた。


 退位するのが不思議に思えるほどの容貌を保っているアスラン王の元に、若き王太子が裳裾をたなびかして歩んで行く。


 列席した重臣達は、この戴冠式でアスラン王が退位するのだと涙を堪えきれない者もいた。


「アスラン王……」バッカス外務大臣は、ハンカチで霞む眼を拭く。最愛のアスラン王の最後の礼服姿を目に焼き付けておきたいし、ショウ王の戴冠の瞬間を見逃したくない。


 アスランは日頃はつけたことがない金の細い王冠を、無造作に手に取ると、前に膝まずいているショウに被せた。


「海の女神、風の神、新しき王を護りたまえ!」


 ショウは、一年間準備をしながら覚悟を決めてきたが、父上が本当に退位して自分が王になったのだと、細く軽い王冠にずっしりとした重責を感じる。


『へっぽこ! ぼんやりするな!』


 退位した王が、新王の手を取って立たせる。


「ショウ王! 万歳!」広間に、新しい王を祝する声が響いた。


……王になったんだ!……


 祝福する外国の王族や外交官、そして重臣達に、丁寧に応対しているショウ王に満足そうに頷くと、アスランは素早くその場を後にした。



……父上、ずるい!……


 戴冠式後は、宴会になった。さっさと逃げ出した父上に、ショウは溜め息をつく。ショウは各国の王族の接待で忙がしくて、兄上達や自分と親しい人達と話す暇もない。

 

 王宮の宴会場は、風力発電の電球でまばゆいほどの明るさで、出席した人々は驚く。


「ダムを作ってレイテの街を明るく照らす計画を模索中なのです」


 東南諸島の新しい王は、どこまで発展させるのだろうと、列席者達は感嘆する。


 

 ショウ王は、列席した王族や外交官達と歓談したが、最後まで残ってくれた兄上達と自分を支えてくれる仲間達と飲み明かした。





「さぁ、ショウ王! 起きて下さいよ!」


 宴会の後、飲み明かしたショウは、バッカス外務大臣に叩き起こされて、後宮に行かなかったのを後悔する。眠たいと、布団を頭から被るが、引き剥がされてしまう。


「まぁ! なんて、可愛い寝顔でしょう! キスで起こしてあげましょうね」


「やめろ!」ガバッと起き上がる。


「ほら、ほら、お風呂に入って下さいな。今日は大事な四国同盟の調印式ですわよ」


 ショウは、やはりバッカスを宰相にするのは止めようかと、二日酔いの頭で考えながら風呂に浸かった。




 アレクセイ王、フィリップ皇太子、スチュワート皇太子、三国の代表者も礼服で威儀を正している。ショウも礼服で、調印式にのぞんだ。


「ショウ様のお子様達にも会いたいですわね」


 各々の妃を交えての昼食会で、アリエナ王妃が口火をきった。リリアナ妃、ロザリモンド妃も賛同する。予め示し合わされているのは確実だと、ショウは溜め息を圧し殺す。


「リリィ、子ども達を連れて来なさい」


 王女だけでは不自然なので、王子も連れて来させる。昨年ロジーナが産んだ第八王女のマリアと、ミーシャが産んだ第五王子パリスを含めると13人! 子沢山ぶりに、未だ一人しか子どもに恵まれていないアリエナ妃とロザリモンド妃から大きな溜め息がもれた。


「エスメラルダ妃と後でお話したいわ」


 アリエナ王妃とロザリモンド妃は、にこやかに笑いながらも、真剣な眼でショウに懇願する。ショウは、将来の娘達の姑の要望を断るなんてことは考えず、にこやかに承諾した。


 アイーシャ王女、レイラ王女、バイオレット王女の可愛らしさと、怜悧な瞳に、北帝国の王や皇太子達は満足したし、カイト王子がショウ王の幼い頃にそっくりだと驚いた。




 和やかに四国同盟調印式が終わりホッとしたが、明日はスーラ王国との調印式があるのだ。しかし、それとは別にゼリアとは会っておきたい。サンズとスーラ王国の大使館に訪れる。


「父上!」駆けつけてきた幼いカシア王女をショウは抱き上げる。乳母に手を引かれているパール王子も反対の腕に抱く。


「ほら、父上ですよ」昨年産まれたアイシス王女に、ショウは初めて体面するのだ。カシアとパールを降ろして、ゼリアからアイシスを受けとる。


……この子がサバナ王国に嫁ぐのか? あのマウイ王子の息子に?……


 ゼリアとの結婚式の前にヘビ神様から、予知夢について少し聞いていた。残酷なユング王子の息子には絶対に嫁がせないと決意したショウは、メルビィル大使に廃嫡させるように裏工作を指示した。ユング王子を増長させ、マウイ王子と狩猟民族達との接触を手配させたのだ。マウイ王子は、ショウ王太子の示唆を賢く受け止めて、ルードの子豹ハウラと狩りに積極的に行き、狩猟民族の部族長との交流に努めている。


 アイシスのつぶらな瞳を見て、セドナの過酷な大地で暮らすのか? と可哀想になる。そんな苦労はさせたくないと、ショウは抱き締めた。


 しかし、来年にはゼリアも戴冠して女王になるのだ。アイシスのことは、ゼリアが女王として隣国のサハラ王国との関係を考えながら決断するのだと、溜め息を圧し殺した。


 ゼリアと子ども達と久しぶりにゆっくりと過ごしたショウは、サンズと王宮へ帰って行く。


「ショウ様……」


 女王になれば、二度とレイテを訪れる機会が無いかもしれない。電球の明かりが輝く王宮に帰って行く竜の影が消えるまで、ゼリアは眺めていた。

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