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海と風の王国  作者: 梨香
第十五章 次代の王
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17  ショウの婿入り!

「遅かったですねぇ」


 ヘビ神様の神殿から大使館へ帰ると、レーベン大使が階段から駆け降りてきた。形式的な挨拶をしに行くだけだと思っていたのに、昼をとうに過ぎている。


「まさか王宮で昼食でも?」まとわりつく大使が、何か変だと感じているのに、ショウは溜め息をつく。


「いや、少しヘビ神様と話していたんだ。お腹ペコペコだよ」


 何をヘビ神様と話したのか? 知りたくてチリチリしているレーベン大使をこれ以上待たすのも気の毒になってきた。食事をしながら、ショウは隣国の状勢を尋ねる。


「サバナ王国のユング王子が、マウイ王子の祖父を殺したのはショウ王太子もご存知ですよね。何故、その様な事を? まさか、ヘビ神様が興味を持たれているのですか?」


 スーラ王国の歴史はとても長いが、アルジェ女王の治世になるまで、さほど領土を拡げたりはしていない。豊かな河の周りの地域をゆったりと支配していたのだ。陰謀が大好きなレーベン大使は、もしやスーラ王国がサバナ王国に宣戦布告するのではと色めき立った。


「こら! 違うからな! ヘビ神様の夢の中にルードが現れたそうだ。だから、サバナ王国の状況を尋ねられたに過ぎないよ」


 ほっといたら、両国の間に戦争の火種を起こしそうだと釘をさす。


「スーラ王国、サバナ王国の両国とも東南諸島にとっては大事な貿易相手国だ。戦争など起こったら、真っ当な商人は儲けにならない」


 商売熱心な東南諸島の商人は、戦争でも武器や食糧を売り付けて儲ける者もいる。しかし、それは危険との背中合せで、代金を踏み倒されたり、前のローラン王国のように金の含有量が減らされた粗悪な金貨を受け取らされたりするのだ。そればかりか、負け組についたりしたら、船を拿捕されたり、牢屋にぶちこまれる危険性もある。


「戦争なんて不経済なものには絶対に関わりたくない!」


 ぷんぷん怒りだしたショウ王太子を、レーベン大使は必死で宥める。花婿が不機嫌では困るのだ。


「私は別にスーラ王国とサバナ王国の戦争など望んでいませんよ」


「まぁ、そういうことなら」と、ショウ王太子は機嫌をなおしたが、レーベン大使は、何かヘビ神様との話を誤魔化されたような気がしてならなかった。


「そろそろお仕度をしませんと……」大使館の侍従がおそるおそる声をかけたので、レーベン大使は何か変だとは思いながらも、追及するのを止めた。


「さぁ、気合いを入れて磨きあげなさい!」


 ショウは、風呂ぐらい自分で入れると、侍従達を下がらそうとしたが、レーベン大使から命じられていますと引かない。


……どちらが偉いと思っているんだろう?……


 命令系統では、王太子の方が上なのにと愚痴りながらも、幼い頃から侍従達に面倒をみて貰い慣れているので、こんな些末な事で目くじらは立てない。髪の毛から足の爪先まで磨き立てられたショウは、白い絹の上に立たされて、東南諸島の王族の礼服を着付けて貰う。


「これは、竜湶香をいっぱい焚き染めたなぁ!」


 立太子式にミヤから大量の竜湶香を貰ったので、新年の儀式や、外国の王宮を訪問する時は、礼服に少し焚き染めさせているが、アスラン王のように普段にも使ったりはしない。しかし、レーベン大使は、スーラ王国のゼリア王女の婿になるのだから、侮られてはいけないと気合いを入れて高価な香をふんだんに使わせたのだ。


「臭くないか?」竜湶香のエキゾチックな香りに、ショウは噎せそうになる。


「臭いだなんて! サリザンの大使館の予算を遣り繰りして、高価な竜湶香を手に入れましたのに!」


 レーベン大使の抗議に、ショウは耳を塞ぐ。その手の動きで、礼服の袖から竜湶香がふわぁと鼻を直撃した。


「ハックション! 駄目だ! 香りに酔ってしまうよ」


 レーベン大使も匂いに酔いそうになり、侍従達を「香の炊き方も知らないのか!」と叱り始める。


「こんなの着て行ったら、ゼリアも頭痛がしてしまうよ」


 折角、着付けて貰った礼服を脱ぎ捨てる。袖に豪華な銀の刺繍が付いた礼服を、残念そうに眺めているレーベン大使に、それは新婚旅行で着させて貰うと慰める。


「ずっと後宮に閉じ籠っているのも退屈だから、ゼリアとカザリア王国に非公式に遊びに行くつもりなんだ。まぁ、でもバレちゃうだろうから、王宮に挨拶に行く時に着させて貰うよ。その頃には香りも丁度良くなってるだろうし……えっ! レーベン大使! 痛いよ」


 下着の襟をギュッと握られて、詰め寄られる。


「そんなの聞いていません! まさか、パロマではスーラ王国の大使館に滞在されるのですか?」


 血相を変えたレーベン大使に、そりゃあ婿入りだもんねと、ショウは平然と答えた。レーベン大使は、スーラ王国ののらりくらりした文官にしてやられたと、キリキリと歯ぎしりする。


「東南諸島連合王国の王太子が、スーラ王国の大使館に滞在するだなんて! パシャム大使が知ったら、私に暗殺者を送り込みますよ」


「まさかぁ、パシャム大使がそんなことするわけないよ……まぁ、宴会ができないと嘆くかもしれないけどね」


 幼い頃から知っているぽんぽこ狸のパシャム大使とは親しいショウだが、その恐ろしさは知らない。旧帝国三国の大使に選ばれた、紳士的な態度のヌートン大使、陽気なパシャム大使、親切そうなリリック大使だが、それぞれ冷酷な外交官の顔を隠し持っている。そうでなければ、やっていけないのだ。


……ショウ王太子は、まだまだ学ぶこともある……


 立派になられたが、パシャム大使の宴会好きな面だけに囚われていると、首を横に振った。


『じゃあ、後で呼ぶから、それまで待っててね』とサンズに声をかけて、王宮からの迎えの輿に乗るのを見ると、自分が手配したにもかかわらず妙な寂しさを感じて、不覚にも涙が溢れそうになったレーベン大使だ。


 見事に礼装を着こなしたショウ王太子に見とれて感傷的になった自分を恥じたレーベン大使は、ヘビ神様がサバナ王国の何を気にしているのか? 調査させることにする。

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