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海と風の王国  作者: 梨香
第十五章 次代の王
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15  ヘビ神様の願い

 ナルシス王子の結婚式が終わったと思ったら、ミミが後宮で暮らしだし、サンズとラルフが交尾飛行したり、ショウは忙しい夏を過ごした。


 秋風が吹く頃に、ブレイブス号でサーラ王国に向かった。相変わらずヘビは苦手なショウだが、サリザン港から見たヘビ神様の金色の像を見ても、正体が龍だと知ってからは目を逸らさずにいれるようになった。



 そのヘビ神様は、東南諸島のショウ王太子とゼリア王女の結婚式を控えた夜、スーラ王国の神殿で、アルジェ女王と静かに語り合っていた。デスは、邪魔をしないように部屋の隅でとぐろを巻いて眠っている。


「私は、何処でジェナスを育て損ねたのでしょう」


 この場所に横たわって死んだ息子の馬鹿な振る舞いを思い出して、アルジェ女王は悲しみに浸る。


「アルジェが悪いのではないわ。ジェナスは、ゼリアを殺そうとする程のお馬鹿ちゃんだったのよ。もう、忘れてしまいなさい」


 ゼリアを殺そうとしたのを思い出し、アルジェはキッと厳しい目になった。馬鹿な息子を亡くした母親の顔から、スーラ王国の女王としてヘビ神様と話し合わなくてはいけないのだ。


「それにしてもゼリアは頑固ですわ。ショウ王太子としか結婚したくないと駄々を捏ねてますの」


 女王が支配するスーラ王国では、何人もの夫をハーレムに囲うのが伝統になっている。しかし、王と違い、何人囲おうが産むのは女王一人なので、逆ハーレムの意味はさほど無い。


「ショウは優れた王女を授けてくれるでしょう。でも、遠距離結婚ですから、寂しくなれば夫を増やせば良いのですよ」


「そうですわね。先ずはショウ王太子と結婚させてからにしましょう」


 ヘビ神様がゼリアがショウとの間に優れた娘を授かると言うのなら、それを信じてハーレムを作ることを延期することに決めた。アルジェがデスを連れて王宮へ帰った後、ヘビ神様はうとうとしながら夢を見た。


……あら? これは夢ね……


 未だ結婚式の前なのに、ゼリアのお腹が膨らんでるわと、ヘビ神様は笑う。アルジェが心配しているから、予知夢を見たのだ。


 場面が変わると、ゼリアが可愛い女の子の赤ちゃんをショウに見せていた。


「名前はカシアとつけましたの」


……カシア! 懐かしい名前ね……


 ヘビ神様は、未だ産まれてない子どもの名前を聞いて、微笑んだ。卵から孵ったばかりの頃に面倒をみてくれた王女の名前と同じだったからだ。それに、とても賢そうな瞳をして自分を見ている。


……まぁ、私が覗き見をしているのに気づいているのかしら? 同じ名前のあの娘も素晴らしい女王になったわ。きっと良い王女に育つでしょう……


 予知夢は続き、次は王子が誕生し、ヘビ神様は夢の中でも心配する。


……スーラ王国の王族の男は碌な者はいないわ。たまに、王女の誰も私と話せなくて、仕方なく王子の中から王を選んだけど、ハーレムで女を侍らせてばかりで、子作りしか能がなかったわ……


 しかし、場面が変わると、その王子は姉王の治世を支える宰相として、スーラ王国を繁栄に導いていくのだった。


……おやまぁ! アスランやショウの血が濃く出たみたいだわね。顔も綺麗だし、きっといい香りがすると思うわ。それに、男なら王族を増やしやすいわよね……


 満足そうにのたうっていたヘビ神様だが、夢の中に大敵の豹のルードが現れて固まる。


 眠りながらも赤い舌をシューシュー出して怒りを表す。


「何をしに出てきたの? 私の夢の中から出ていって!」


 可愛い子ヘビをおもちゃにされて殺された恨みをぶつけるが、ルードは悠然と近づいてくる。


「その女の子が欲しい」


 ルードの目線の先には、ゼリアが三人目の赤ちゃんを抱いている。赤ちゃんはゼリアの肩にいるロスにあやされて笑っている。


「まぁ! この娘は女王の補佐になるのよ」


 貴重な能力を受け継いだ王女を渡せないとヘビ神様は庇うが、ルードも引き下がらない。


「この娘の産む王子なら、サバナ王国を繁栄させてくれるだろう」


 するりとヘビ神様を避けて、ゼリアが抱いている赤ちゃんに鼻を押し付けた。


「この馬鹿猫、何をするの! 出ていきなさい!」


 ヘビ神様は、自分の怒鳴り声で目が覚めた。ゼリアが素晴らしい子ども達に恵まれるのはわかったが、三番目の赤ちゃんにルードが目をつけたのが気に障る。


 他国の事情には無頓着なヘビ神様だが、ルードの切迫つまった様子が気になり、神官達に探らせることにした。




 サリザンの東南諸島の大使館では、明日のゼリアとの結婚式を控えたショウがレーベン大使から、隣国のサバナ王国の不穏な噂を聞いていた。


「何だって、ユング王子がマウイ王子の祖父を殺したのか?」


 マウイ王子の祖父はスーラ王国の近くの農耕民族の族長で、狩猟民族のサバナ王国に併合された立場ではあるが、乾期に餓えなくてよくなったのは、米や麦を献上していたからだ。


「まぁ、あのジェナス王子が声をかけていたそうですから。反逆者として始末したのですが、目的はマウイ王子派を潰すことでしょうな」


 ユング王子が後継者に選ばれたと報告を受けた時から、いずれはマウイ王子派とは一悶着あるだろうと懸念していたが、こんなにも露骨な態度を示すとは考えてもいなかった。


「アンガス王はユング王子を罰したりはなさらないのか?」


 仮にも父王の寵愛を受けている第二夫人の父親を、ジェナス王子から書簡を受け取ったというだけで殺して良いものかとショウは眉を顰める。


「まぁ、不愉快には思われたでしょうが、スーラ王国の回し者と騒ぎ立てて殺したのですから、一応は理由があると見られてますね」


 サバナ王国の本体の狩猟民族は、併合した農耕民族を少し軽蔑しているし、スーラ王国のスパイだと後継者のユング王子が言い張ったのが通ったのだろう。ショウは無軌道ぶりに呆れて肩を竦めた。


「私はマウイ王子の方がマシだと思ったけど、狩猟民族を纏めていけないとアンガス王は判断されたのだな。しかし、ユング王子がサバナ王国の王になったら、農耕民族の族長達はスーラ王国になびくかもしれない」


 農耕民族がスーラ王国に属するのは構わないが、それをサバナ王国が黙って見逃すとは思えない。結婚式を控えた夜だというのに、きな臭い話になった。


「さぁ、もうお休み下さい。明日は大事なご用があるのですから」




 ショウは、レーベン大使に寝室に追いやられたが、秋だというのに蒸し暑いサリザンの夜で眠れそうにない。


「ミミはどうしているかな? ロジーナと喧嘩をしてなければ良いけど……」


 この夏にエリカは見習い竜騎士の試験に合格し、ミミは寮の付き添いから解放されて、レイテの後宮で暮らすことになった。結婚前に、リリィが間を取り持ってロジーナとは和解したのだが、第一王子を産んだと自信満々な態度にミミは噛みついてしまった。


「第一王子だからといって、後継者に選ばれるわけでは無いわ」


 後宮で後継者の話題はタブーだ。第一夫人のリリィに叱られて、ミミはロジーナに謝ったが、ショウは姉のララを庇ったのだと察していた。


 ミミの行為は悪いが、そうさせたロジーナにも問題があるとショウは思い悩む。


「カイトほど高貴な王子はいないわ。元芸妓や未開の地の女が産んだ王子なんて後継者に相応しくないもの」


 ロジーナは、エスメラルダが産んだ第二王子のリュウやレティシィアが産んだ第三王子のユウトを端から後継者には不適切と決め込んだ言動が目立つ。カイトには罪はないが、ショウは後継者に選ぶのを躊躇しているのだ。


 リリィやショウから厳しく叱られたミミだが、ラルフとサンズが交尾飛行し、可愛い雛竜ルーキーも産まれ、ちゃっかり妊娠もした。


「ララは、ミミやミーシャの妊娠を祝ってくれてはいたけど……」


 ショウは、ララもミミのように陽気な楽天家だと良いのにと溜め息をついた。後宮に馴染めるか心配していたミーシャも交尾飛行の煽りを受けてか妊娠し、ゆったりと花の咲く庭で散歩を楽しんでいる。


 ララが産んだレイラとユリアは可愛いし、とても元気に育っている。しかし、ララは王子を産めなかった引け目をロジーナやレティシィアに感じているのだ。


「こればかりは、どうにもならないなぁ……ララ、どうしたら良いのだろう?」


 次のキャベツ畑の呪いで、またララに子どもを授けるのか? それがまた女の子だったら、余計に追いこまないか? ショウは、ゼリア王女との結婚前夜なのに、自分の妻の悩みでなかなか眠れなかった。

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