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海と風の王国  作者: 梨香
第十四章 ザイクロフト卿と決着
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11  ショウ王太子!!!

 毒からの回復は緩やかで、なかなかベッドから起き上がれなかった。メリッサは側にずっと付き添う。


「ねぇ、父上が来られていたような……ヘッポコ! と言われた気がしたんだけど……」


 ショウが危機を脱したと判明した途端、アスランはメリルでレイテに帰った。朦朧としていたショウは、夢だったのかな? とメリッサに尋ねる。


「アスラン王も、どれほど心配されたことか……ショウ様! 私は……私は……」


 メリッサは、ショウが死んだら生きていられなかったと、泣きながら訴える。


「メリッサ……咽が渇いたよ……美味しいお茶が飲みたいなぁ」


 目覚めた時から、何度も宥めていたショウは、何かさせたら黙るのが分かってきていた。メリッサは涙を拭いて、いそいそとお茶を用意してくると部屋から出ていく。


「やれやれ、サンズも心配しているだろうな……」


 パシャム大使や治療師達がうるさいので、ベッドから出るのを禁止されていたが、サンズに顔を見せて遣りたいと思う。メリッサが側を離れたのを幸いに、ショウはベッドの上に座りなおす。脚を床に下ろして立ち上がろうとしたが、天井がぐるぐると回る。


「うっ……」目眩がして、胸が悪くなる。


 よろよろとベッドに倒れ込み、ボスンと枕に頭を落とす。ショウは自分がどれほど弱っているのかと驚く。


「ショウ王太子!!!」


 真っ青な顔を見て、パシャム大使が治療師を呼べ! と騒ぎだす。


「パシャム大使……騒ぐな……」


 メリッサが泣き出すと止めるが、心配で一回り痩せたパシャムは言い出したら聞かない。メリッサがお茶を持って帰った時には、治療師に薬を飲まされていた。


「ショウ様!!!」


 メリッサがお盆を取り落としそうになるのを、意外と素早くパシャム大使が受け止める。


「ベッドから出ようとなさったのです! 本当にショウ王太子は!」


 メリッサが目を離したからだ! と、自分を責めて泣くのを、ショウは違うとベッドの上から宥める。二人が言い争っているのを、治療師長とパシャム大使は呆れる。


「ショウ王太子!!!」


 治療師長の雷が落ち、メリッサもショウも黙る。


「ショウ王太子、貴方は未だ毒の影響から回復していません。絶対安静! メリッサ妃、枕元で泣いたりして、王太子の回復を妨げるなら病室への立ち入りを禁止しますよ!」


 メリッサは付き添いを禁止されたくないと、神妙な態度で反省を表す。しかし、ショウはサンズを呼んで欲しいと困らせる。


「ベッドから出れないなら、窓まで運んでくれ! サンズが心配しているのが伝わるんだ」


 竜舎の係からもサンズが心配して落ちつかないと報告を受けていたし、言い出したら聞かないショウ王太子に負ける。力のある武官達がベッドを窓まで運ぶ。


 東南諸島の建築様式の大きな掃き出し窓を開けると、サンズが首を覗かせる。


『ショウ! 心配したよ』


 ショウは手を伸ばして、サンズの鼻に手を置くと『ごめん』と謝る。それと同時に空腹感に襲われる。


『サンズ、お腹が空いているんだね! そうか、サラム王国で食事して以来食べてないんだね。メリッサに食べさせて貰うんだよ』


 少しベッドで身を起こしただけでも、ぐったりと疲れる。メリッサは、サンズに餌を与えると約束し、寝ているようにと言い聞かせる。


「それと、メリッサも休まないといけないよ……私も少し休むから……」


 飲まされた薬には眠り薬が入っていたなと、うとうとしながらメリッサに言い聞かせる。メリッサも気が張り詰めていたが、ショウが大丈夫だと確信が持てたので、サンズに食事をさせると、久しぶりにベッドで眠る。


 パシャム大使も、侍従にショウ王太子を看病させて休むことにした。心配で夜も眠れなかったのだ。



 


「どうやら、ショウ王太子は持ち直したみたいだな」


 自国で東南諸島の王太子が亡くなったりしたら、ややこしい問題になるかもしれないと心配していた重臣達は安堵する。


 エドアルド国王は、アスラン王がニューパロマを訪れたと報告を受けて、やはり人の親なのだとほくそ笑む。若き日の偉そうな態度を思い出して、お互いに年を取ったのだと感慨に耽った。


「東南諸島のパシャム大使から、立会人をしたスチュワート皇太子と、相手の剣を届けた息子にお礼の手紙が届いてます。それと、ショウ王太子が回復したら王宮に出向いてお礼をしたいとのことです」


 外務大臣のマゼラン卿の言葉に、エドアルド国王は大きな溜め息をつく。


「そんなに感謝しているのなら、シェリーを嫁に貰ってくれたら良いのだが……」


 庶子などつくるからですよ! と、重臣達の冷たい視線を感じるが、養育してくれていたエリザベス皇太后が亡くなってからは、嫁の貰い手を探さないといけないと悩んでいるのだ。


「ジェーン王妃とスチュワート皇太子が、シェリー姫をお認めにならないと、どの貴族も嫁には貰ってくれないでしょう。誰かの養女として、社交界デビューさせようにも……」


 ジェーン王妃に睨まれたら、社交界から追い出されてしまうと怯えて、誰もシェリー姫には関わりたがらない。エドアルド国王は、子どもの頃からの知り合いの顔を眺めるが、誰も引き受けてくれそうにない。


「この秋には、ショウ王太子はローラン王国のミーシャ姫と結婚されるのだぞ! 何とかならないのか?」


 マゼラン外務大臣は、ジェーン王妃の兄なので素知らぬ顔をするので、外務次官のシェパード卿に助け船を期待する。


「ユリアンは東南諸島の大使として、ショウ王太子とも親しい筈だ。何とか嫁に貰って欲しいが……」


 貧乏くじは引きたくないと、シェパード卿はぶるぶると頭を横に振る。


「ショウ王太子は妻を増やしたくないと、家臣の娘達も拒否しています。それに、我が家は娘を二人も嫁がせるので、シェリー姫を受け入れる余裕はありません」


 エドアルド国王は、普通は臣下はもっと王の言うことを聞くものでは無いかと愚痴るが、学友として青春を過ごしたので遠慮がない。


「どうやら、決闘の剣に毒を塗った件が、アスラン王の逆鱗に触れたみたいですよ。サラム王国の海賊を撲滅しそうな勢いで退治してくれてます」


 ジュリアーノ内務大臣が、話を危険な方向から逸らす。誰もシェリー姫を養女として、引き受けたくないのだ。他の重臣達も海賊討伐の話題に変えようと話し合うが、エドアルド国王はシェリー姫のことから離れない。


「まぁ、それは我が国としてはありがたいが……」


 一時の気の迷いが、十数年も心を悩ませることになるとはと、エドアルド国王は内心で愚痴る。


……アスラン王など、ハーレムをつくっているのに! 不公平じゃないか!……


「国王の庶子はややこしい問題だ! 滅多やたらの貴族に嫁がせるわけにもいかないし……東南諸島は一夫多妻制なのだ! やはり、シェリーはショウ王太子に嫁がせたい。彼は優しいし、夫人達も幸せそうだ! マゼラン外務大臣、シェパード卿! 二人でショウ王太子を口説き落とすのだ」


 そんな無茶な! と抗議するが、エドアルド国王は強気だ。


「嫌なら、シェリー姫を養女として、引き取っても良いぞ! そうだ! ジェームズもベンジャミンも独身だなぁ。嫁に貰ってくれないか?」


 息子と妻に殺されます! とは言えないが、無理です! と速攻で断る。


……こいつらを一週間ほど、不敬罪でパロマの搭に閉じ込めるか! いや、そんな真似をしたらジェーンに今度こそ見離されてしまう。それに、王宮が立ちゆかぬ……


 マゼラン外務大臣は、ジュリアーノ内務大臣や軍務大臣にも立派な子息がいると言い出した。わいわいと賑やかな王宮は、エドアルド国王の統治下、今日も平和に過ぎていく。


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