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海と風の王国  作者: 梨香
第十四章 ザイクロフト卿と決着
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10  ヘッポコ!

 途中でバッカス外務大臣に手紙を渡した大尉は、レイテに朝に着いた。アスランは、手紙を読んで顔色を変えた。


「あのヘッポコめ! 王太子が自ら決闘などしなくても良いだろうに! 少しは頭を使わないのか? 何の為に……ええぃ、メリルはチビ竜の子守りか……」


 ザイクロフト卿の始末を任せたが、まさか決闘をするとは考えてなかった。ブレイブス号にも腕の立つのは山ほどいるし、各国の大使館にも武官は大勢いる。闇討ちや、海戦でなど、楽に討ち取れる筈なのにと、苛立ちを隠せない。


『メリル! チビ助が馬鹿な真似をしたのだ!』


 アスランが心配で堪らないのが、騎竜のメリルにはダイレクトに伝わる。


『シリンにフルールの面倒は見て貰う! ショウに万が一のことがあったら、サンズも……』


 直ぐに飛び立とうとするメリルを待たせて、治療師長を連れてくる。


「嫌な予感がする! ヘッポコに死なれたら、楽隠居の計画が台無しだ!」


 治療師長は、ショウ王太子を心配されているのに、憎まれ口を叩くアスラン王に呆れていたが、途中で気絶しそうになるほどの強行軍だった。





 大使館に着いたアスランは、パッとメリルから飛び降りたが、治療師長はふらふらと崩れ落ちる。


「ええい! しっかりしろ!」


 アスラン王の到着に、パシャム大使は階段を踏み外して、足元まで転がり落ちる。そのまま、土に頭をうちつけたまま泣きだした。


「まさか、死んだのか!」


『アスラン、サンズが生きてるのだから、ショウも生きている!』


 メリルの言葉にホッとするが、パシャム大使が泣きながら危篤ですと言うと、顔色を変える。嫌な予感が的中したのだ。


 武官に治療師の長を背負って運べ! と命じると、治療中の部屋へ急ぐ。パシャムも泣きながらついていく。


「ショウの状態はどうなのだ!」


 朝からずっと治療をしていたバルーナーは、アスラン王の足元に崩れ落ちる。


「申し訳ありません! 毒が身体にまわって……」


 武官に背負われて病室に到着した治療師長は、床に座り込んだバルーナーに、毒の種類を聞いて難しい顔をした。


「アスラン王、モウドクキイロガエルの毒は厄介なのです。やれるだけは治療してみますが……」


 アスランは、壁をドシンと殴りつける。しかし、治療師達を怯えさせても意味は無いのだ。大きく深呼吸する。


「出来る限りの治療をしてくれ!」


 そう言い捨てて、不安そうなサンズとメリルを慰めに行く。そこには、サンズを宥めているバッカス外務大臣がいた。


「私のミスです。ザイクロフト卿をユングフラウで始末するつもりでした」


 今更、何を言っても仕方がない。アスランもザイクロフト卿の始末をショウに任せた自分の判断を後悔していた。


「私がザイクロフトの始末を、彼奴に任せたのだ。お前には関係ない!」


 傲慢に言い切るアスラン王に、バッカス外務大臣は心よりの忠誠を誓う。


「お前は、ザイクロフトの陰謀の後始末をしろ! 鬱陶しい顔でいられても邪魔なだけだ!」


 アスラン王に、しっしっと追い払われたバッカス外務大臣は、自分のできることを探す。先ずは、バージョンから決闘の様子を聞くことにする。





「朝からずっと熱が下がらないのです。意識も戻りません」


 治療師長は、バルーナーに危篤だと言われなくても、診て直ぐにわかった。ショウ王太子が息があるのは、騎竜が助けているのだろうが、それにも限界がある。


 治療師長は、自分が治療に使っている大粒のオパールのペンダントを手に持ったが、ふと、ショウ王太子の胸にかかっている竜心石のペンダントが目にとまる。竜心石を使った治療を試すことに、最後の望みをかける。


「本来なら、ショウ王太子の方がこの治療方法はお得意なのだが……しかし、あの猛毒を解毒できるのか? 遣ってみるしかない」


 竜心石を『魂』で活性化させ、『癒』していく。治療師のバルーナーは、自分の魔力を疲れている治療師長に注ぐ。






『ショウ! 死んではダメだ!』


 真っ暗な世界にいたショウに、サンズの声が届いた。


『サンズ……死んだりしないよ……私が死んだら、サンズも死んでしまう……フルールは未だチビ竜だもの……それに、アイーシャ! レイナ! 私も死ぬわけにはいかない』


 ララ、レティシア、ロジーナ、エスメラルダ……そして、自分が死んだりしたらメリッサも生きていないとショウは焦る。


 悪夢に囚われて、目を覚ましたいのに、身体がどんどん重くなっていく。


『ショウ!』サンズの声が遠のく。ショウは暗闇に飲み込まれそうになる。


『ヘッポコ! 死ぬな!』


 アスランの叫び声が、ショウの眠りを揺り覚ます。


『父上! 相変わらず酷い!』


 治療師長は、ショウ王太子が一瞬だけ目を開けたのに気づく。しかし、もう魔力は使い果たした。


「もはや、これまでか……」と思った時、魔力がサンズから注がれる。ショウの竜心石を通して、治療するしかないとサンズが魔力を送ったのだ。


『ショウ! ショウ! 頑張って!』


 ショウは身体が少しずつ楽になっていくのを感じる。


『サンズ! 私は死なない!』





「ショウ王太子が目を開けられました!」


 パシャム大使が泣きながら、竜舎に駆け込んできた。アスランは病室へ急ぐ。


 意識を取り戻したショウは、自分を見下ろす傲慢な父上と目があった。


「ヘッポコ! 心配させるな!」


『やっぱり、父上は酷い!』と抗議しようと思ったが、目が重たくて眠ってしまう。


「おい! 死んだのではあるまいな!」


 治療師長は「縁起でもない!」と、叱り飛ばして、くたくたと床に座り込んだ。


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