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海と風の王国  作者: 梨香
第十四章 ザイクロフト卿と決着
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6  決闘前夜、東南諸島大使館

 ショウは自分の為に決闘をするのは止めて欲しいと泣いて頼むメリッサを宥めるのに、とても時間がかかった。


「メリッサを誘拐しようとした相手を許すわけにはいかない。それに、ザイクロフト卿とはいずれは決着をつけようと思っていたんだ。だから、そんなに泣かないでくれ」


 メリッサは、自分の油断が招いた決闘なのだと、泣き止まない。


「期末試験が終わった人気の無い校内を、呑気に歩いていた私が悪いのです」


 ショウは、自分を責めるメリッサを強く抱き締めて、それは違う! と言い聞かせる。


「メリッサ、危険な目にあわせた事を謝らないといけないのは私だ。東南諸島に恨みを持って、各国で陰謀を企てているザイクロフト卿について、甘く考えていたのだから。まさか、パロマ大学で誘拐しようと企てるとは……」


 大使館の警備は強化させていたのに、パロマ大学の方は考えて無かったと謝る。腕の中のメリッサが、誘拐されていたらどうなったかと思うと、自分の甘さが許せない。


「でも……」未だ納得していないメリッサに、各国でのザイクロフト卿の陰謀を話して聞かせる。


「何故、ザイクロフト卿はそこまで東南諸島に悪意を抱いているのでしょう? サラム王国とは、敵対国では無いはずなのに……」


 ショウは、やっと泣き止んでくれたメリッサに、バルバロッサ討伐について説明する。ララやロジーナと違い第一夫人を目指しているメリッサには、政治の闇も話せる。


「ステュワート皇太子の結婚式の後に海賊討伐されたのは知っていましたが、まさかバルバロッサが王族とは考えてもみませんでした。ザイクロフト卿は……」


 メリッサも王家の女だ。王族が海賊に身を落した事にショックを受けると同時に、許せないと怒りを覚える。そして、その血を引くザイクロフト卿をショウが始末しようとするのを、止める事は無理だと悟った。王族の後始末を、他者に任すような真似はできない。


「わかってくれたね。ザイクロフト卿と決闘するのは、メリッサのせいじゃないんだ。父上からも始末するようにと任されているのだから」


 穏やかで優しいショウだが、あのアスラン王の王太子なのだ。メリッサは、決闘を止めるのを諦めたが、それでも心配でならない。


「そんなに頼りないかい? ワンダー艦長にも勝ったんだけどなぁ」


 大袈裟にしょんぼりするショウに、メリッサは不安を心の中に封じ込めて笑顔を見せる。


「まぁ! ワンダー艦長に勝ったのなら、ザイクロフト卿ごときは瞬殺ですわね」


 と言ったものの、やはり不安が込み上げてくる。ザイクロフトの冷たい目を思い出して、本能的に身震いする。


「ごめん、メリッサ! 君にそんな顔をさせるだなんて」


 無理に笑顔を浮かべてくれたメリッサが愛おしくて仕方がない。





 王太子夫妻が、部屋に籠ってしまったので、パシャム大使は護衛とバージョン士官から決闘になった経緯を聞く。メリッサ妃が誘拐されそうになったと知り、護衛達を叱り飛ばす。その上、ショウ王太子に同行していたバージョンにもとばっちりがきた。


……パロマ大学の校内に護衛を付けないという慣例を疑いもしないで、メリッサ妃を危険に曝してしまった。私の大失態だ!……


「バージョン中尉! 貴方が付いていて、何故ザイクロフト卿を殺してしまわなかったのですか! なんのための剣の腕なのです」


 バージョンは、しどろもどろで弁解するが、ショウ王太子に何かあったらと心配で堪らないパシャム大使は聞く耳を持たない。自責の念で、強固な態度をとってしまう。


「私もお止めしましたが、ショウ王太子は一度言い出したら頑固です。それに、アスラン王からザイクロフト卿の始末を任されたと言われると、それ以上は……」


 アスラン王! パシャム大使も、アスラン王を出されると弱い。崇拝するアスラン王が何を考えてショウ王太子にザイクロフト卿の始末を任されたのかと察して、それ以上は護衛達やバージョン士官を責めるのを止めた。


 しかし、パシャム大使は不敬とはわかっていながらも、ショウ王太子が負けてしまったら、万が一、怪我でもされたらと、心配で眠れぬ夜を過ごす。


 勿論、バージョンも、パシャム大使に言われるまでもなく、どうにかショウ王太子が決闘するのを防げなかったのかと、自問して一睡もできない。




 ショウは誘拐されそうになってショックを受けたメリッサに、大使館の治療師に作らせた眠り薬を飲ませる。


「朝の決闘が終わるまで、眠り続けるように……」


 綺麗な寝顔にソッとキスをすると、厄介な相手を説得しに竜舎へと向かう。


『ショウ! メリッサは大丈夫なのか?』


 サンズを押し退けて、メリッサのパートナーの竜が突進してくる。


『ああ、メリッサは薬を飲んで眠っているよ。精神的なショックを受けたから、眠った方が良いんだ』


 ゾルディは、脚を何度も踏み変えて苛立ちを隠せなかったが、目覚めたら会いに来てくれるだろうと、もっと不安を感じているサンズに譲った。


『ショウ……』


 言いたいことは山ほどある筈なのに、サンズは何も言わない。それが、却ってショウには身に染みる。


『サンズ、お前を死なしたりしないよ。ザイクロフトをやっつけるから!』


 自分が死んだら、サンズの命も無くなるのだ。


『絶対に死なせたりしないよ!』


 ショウは、サンズに言い聞かせ無くてはいけないことがあった。


『お願いだから、決闘に助太刀はしないで欲しい。もし、サンズが介入して私が勝ったりしても、それはとても不名誉なのだから』


 これを頼むのはショウにも辛かったが、竜騎士として言っておかなくてはいけない。


『そんなぁ! ショウは私が護るよ!』


 ジタバタ身悶えするサンズを、ショウは必死に説得した。サンズはショウの心が伝わるのが、今夜ほど辛かったことは無い。渋々、決闘には参戦しないと誓う。


『大丈夫! 私は絶対に勝つからね!』


 決闘前夜、ショウはサンズの側で眠りについた。

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