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海と風の王国  作者: 梨香
第十四章 ザイクロフト卿と決着

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5  ショウとザイクロフト卿!

 ショウはサラム王国で、ザイクロフト卿が帰国するのを待つより、メリッサの卒業を祝いにニューパロマへと向かうことにする。ブレイブス号の甲板で、サンズに寄り掛かって、帆に風を送っていたが、ワンダー艦長を見て立ち上がる。


「レキシントン港には、いつごろ着くのかな?」


 一度会いたいと思い付くと、一刻でも早く会いたくなる。


「さぁ、2日もあれば……あっ! ショウ王太子! 一人では行かないで下さい。せめて、バージョンなりともお供させて下さい」


 長年の付き合いがあるワンダー艦長は、ショウ王太子の行動パターンを読んでいる。王太子が護衛も付けず単独行動をしようとしているのを、必死で止める。


「サンズとニューパロマに行くだけだよ。何も危険なんかないさ」


 幼い頃からの知り合いであるワンダー艦長に、お願いします! と言われると、無下にできない。それに、バージョンも前からの知り合いなので、護衛というよりはお供なら良いかと、渋々連れていく。




「やっぱり、竜は早いだろ!」


 サンズの早さは認めるが、竜では大勢は運べないと、船ラブのバージョンは内心で愚痴る。


「レキシントン港から、ニューパロマの大使館へ行くのですか?」


 バージョンは、話を微妙な問題から逸らす。


「どうしようかなぁ……多分、メリッサはパロマ大学にいるんじゃないかな?」


 期末試験は終わった時期だけど、勤勉なメリッサなら教授に個人授業をして貰っているのではないかと、ショウは考えた。しかし、メリッサと会うのにバージョンは邪魔だ。


「一旦は、大使館に向かおうかなぁ」悩みながら、ニューパロマに向かう。





 その頃、パロマ大学では、ザイクロフト卿が苛々しながら、メリッサが校舎から出てくるのを待っていた。


「大使館に馬車を取りに行っている間に、メリッサ妃は帰ったのではないか?」


 大使館の武官に、担当教授の部屋の前まで様子を見に行かせる。


「中から話し声がしました。未だ、メリッサ妃はいらっしゃいます」


 少し離れた木陰に馬車を止めているが、あまり長期になると不審に思われる。ザイクロフト卿は苛々するが、やっと校舎からメリッサ妃の姿が出てきた。


「私が合図したら、馬車を走らせろ!」


 ザイクロフト卿は、馬車から降りてメリッサ妃に近づく。




 メリッサは、担当教授との議論を満足そうに思い出しながら、校舎を後にした。護衛の待合室までは、ゆっくり歩いても10分もかからない。それに、パロマ大学で危険な目にあったことは無かった。


 何人かの男子学生に熱い視線を送られたり、ラブレターを強引に押し付けられた事もあったが、東南諸島からの留学生がガードしてくれた。今日は、期末試験が終わったばかりなので、学生の姿もまばらだ。


 パロマ大学に滞在出来るのも後少しなので、メリッサは緑の木々や蔦の絡まる校舎を眺めながら、ゆっくりと歩いていた。


「メリッサ様ですか?」


 見知らぬ東南諸島の男に声を掛けられたが、メリッサは警戒しなかった。帝国風の服を着た、パロマ大学へ学びに来た学生に思えたからだ。


「ええ、そうですけど……何かしら?」


 近づく男に、メリッサは何だか変だと感じる。自慢ではないが、自分に近づくと男はきまってボォッとした目をするのだ。


……危険だわ! にこやかな笑顔を浮かべているけど、目が冷たい!……


 メリッサはウェスティンで武術を習得していた。見知らぬ男から殺気を感じる。


 逃げようとしたが、ザイクロフト卿も武術の心得がある。メリッサが自分に疑いを持ったのに気づく。


「何をするのです!」


 強く手を捕まれて、メリッサは抵抗するが、鳩尾を強く殴られて崩れ落ちる。ザイクロフトは走りよった馬車に、メリッサを抱き上げて乗せようとする。


「何をする!」


 上空から竜が急降下する。それと同時に、馬車に繋がれている馬は恐怖で後ろ足で立ち上がる。旧帝国三国の馬は竜にも慣れているが、怒り狂った竜には本能的に脅える。御者は必死で馬たちを制御しようとするが、グオォと吼える竜から逃れたいと暴走する。


 ショウはサンズから飛び下りると、ぐったりとしたメリッサを抱えたザイクロフト卿に駆け寄る。勿論、バージョンも刀を抜いて後に続く。


「チッ! 旦那が出てきたか!」


 薄ら笑いを浮かべる東南諸島の血を引いているのが明かな男が、ザイクロフト卿だとショウは確信する。


「メリッサを離せ!」


 ぐったりとしているメリッサが、心配で堪らない。


「何事ですか! メリッサ様!」


 待合室から、メリッサの護衛が駆けつける。それに、騒ぎに気づいて、学生やパロマ大学の警備員まで駆けつけてきた。


 ザイクロフト卿は、この場でメリッサ妃を害しても意味はないと悟る。悪どい陰謀を企てるザイクロフトだが、プライドは高い。


「ほら、受けとれ」傲慢な態度で、気絶しているメリッサをショウ王太子に投げてよこす。


「メリッサ! 大丈夫か?」


 メリッサを腕に抱えたショウは、気絶しているが大丈夫そうだと安堵する。そして、目の前のザイクロフト卿に怒りが燃え上がる。


「卑怯者め! 女に手を出すとは、男の風上にもおけない! 私が成敗してやる」


 メリッサをサンズに任せると、ザイクロフト卿に決闘を申し込む。バージョンは、これはマズい! と止めようとするが、自分の妻を拐かされそうになったのだから、無駄だ。


 ザイクロフトも、ぬくぬくと甘やかされて育った王子にはヘドが出る。今までの恨みを晴らすチャンスを逃す気は無い。


「ふん! 成敗だと? 笑わすな!」


 二人が剣に手を掛けた時、パロマ大学の警備員が割って入った。


「何をしている! パロマ大学は決闘を禁じている!」


 議論好きのパロマ大学生は、決闘騒ぎを起こす事も多い。パロマ大学内では、決闘を禁止している。


 暴走した馬車も、校内を1周して戻ってきた。サラム王国の武官達も、ザイクロフト卿が東南諸島のショウ王太子と武官達と対決しかけているのを見て、剣を手に駆けつける。


「これは何事ですか! どちらも剣をひきなさい」


 サラム王国と東南諸島の対決を、パロマ大学でさせる訳にはいかないと、ヘイワード学長が騒ぎを止める。


「ショウ王太子? これは如何なる事ですか? 貴方ほどのお方が、血の気の多い学生の真似をなさるだなんて」


 未だ幼かった頃に聴講生としてパロマ大学に滞在したショウ王太子の活躍を、ヘイワード学長は誇らしく感じていたのだ。


「ヘイワード学長、校内をお騒がせして、申し訳ありませんが、ここにいるザイクロフト卿が、私の妻を誘拐しようとしたのです」


 ヘイワード学長は、パロマ大学に留学中のメリッサ妃を誘拐しようとしたのか! と、それまでの落ち着いた態度を脱ぎ捨てて、怒り出す。


「ザイクロフト卿とやら! 我がパロマ大学の学生を誘拐しようだなんて! 捕らえろ!」


 大学の警備員達に取り押さえろ! と命じるが、サラム王国の武官達も剣を抜く。周りに駆け付けた学生達も、自分達の憧れのメリッサ妃を誘拐しようとしたサラム王国に、憎しみの目を向ける。


 サラム王国の武官達は剣を抜き、一触即発だ。このままでは、パロマ大学内で乱闘がおこると、ショウは決闘で決着をつけようと考える。


「ふん、やはりお前は甘やかされた王子に過ぎないな!」


 形勢は不利だが、この場から警備員を切り捨てて立ち去ろうと、ザイクロフトは嘲る。しかし、ショウはザイクロフトを逃がすつもりは、さらさら無い。


「ザイクロフト卿、パロマ大学では決闘は禁止だが、私はお前を許す気はない! 逃げるなよ!」


 決闘を逃げるのは、末代までの恥だ。ショウの挑発に、ザイクロフトは嘲笑しながら応える。


「逃げるだと? それはお前の方だろう!」


 お互いに、決闘で決着をつけようと決める。ヘイワード学長も自分の妃を誘拐しようとしたザイクロフト卿に、ショウ王太子が決闘を申込む権利があると言われては、パロマ大学校内以外では止めようが無い。


「では、明日の朝、バーミントンの森で! 此方の付き添い人は、バージョン士官にする」


 逃げるなよ! と、お互いに睨み合った瞬間、剣に手がのびる。しかし、武官に引き裂かれる。


 ショウはザイクロフト卿が馬車で立ち去ると、サンズにもたれたせたままのメリッサの元へと寄り添う。


「ショウ様……」


 抱き寄せると、意識を取り戻した。メリッサの目に恐怖の影を感じ、ショウは改めてザイクロフトを許せないと、怒りが燃え上がった。


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