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海と風の王国  作者: 梨香
第十四章 ザイクロフト卿と決着
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2  サラム王国!

 敵陣に乗り込む! そんな意気込みでサラム王国に到着したが、夏なのに肌寒い気候に、ショウのテンションは何となく下がる。


「この風景は、ヘッジ王国に似ているね」


 物悲しい気持ちになるのはショウだけでは無いようだ。ケナン基地からの長い航海を終えたというのに、ブレイブス号の乗組員達のテンションもあがらない。


「貧しい島国だという共通点がありますから……」


 イズマル島から着いた西側から、首都バラキスがある東側へと島伝いに航行しながら、岩が目立つ大地を眺める。


「そうだ! そろそろ、勝負をしなくちゃね」


 ワンダー艦長との勝負を引き延ばしてはおけない。100マークなんて、ショウにとっても、ワンダーにとっても意味は無いが、ザイクロフト卿をやっつける権利を賭ける事にいつの間にかなっていた。


「諦めた方がよろしいのでは?」


 ショウ王太子の剣の筋は良いが、殺気が足りない! ザイクロフト卿とやらと、真剣な立合をさせたくないとワンダーは考えている。


「まさか! バージョンとは対等に戦えるようになったよ!」


 確かに、練習をすれば腕をあげるが、性格が向いていないと、ワンダーは感じる。


 どうやら、ショウ王太子とワンダー艦長の勝負だと察して、乗組員達も甲板の手すりに寄って場所をあける。


『ショウ! 頑張ってね!』


 サンズの激励を受けたが、普通に勝負したら負ける相手だとわかっている。ショウは、少年の頃から知っているワンダーと勝負するのではなく、ゼリアを困らせる原因を助長させたザイクロフトをやっつけるつもりで剣をかまえる。


 礼儀正しく剣を交えた途端、ワンダーは気を引き締めなくてはいけないと悟った。


……これは、本気だ!……


 周りで見物していた全員が、穏やかなショウ王太子がまるで敵に向かって行くように、がむしゃらに攻め立てるのに驚いた。


「これは、お止めした方が良いのでは?」


 古参の士官が、ショウ王太子と親しいバージョン士官に尋ねる。


「いえ、ショウ王太子は言い出したら頑固です。何か100マーク以上の賭けがあるのでしょう」


 いつもは王族の綺麗な剣筋のショウ王太子だが、激しく撃ち込んでくる。勿論、ワンダー艦長は実戦も何度もしているし、無茶な撃ち込みも、上手く受けていく。しかし、段々と真剣さにたじたじになる。


 ガツン! 剣と剣がぶつかり合い、二人が顔と顔を合わす。


「ザイクロフトは譲れない!」


 ワンダー艦長は、ショウ王太子の気持ちの強さに負けた。祖父の後始末をつける自分とは違う因縁を背負っていると感じたのだ。


 気持ちで負けては、勝負にならない。ショウは、ワンダーが退いたのを感じとり、全力で剣を押し返した。


 カラン! とワンダーの剣が手から離れた。


「嘘だろ~!」乗組員達の悲鳴があがる。「まさか!」と士官達はワンダー艦長の腕を知っているので、驚きを隠せない。


「負けました! ショウ王太子、腕をあげられましたね」


 はぁぁ~と、息を吐いて、差し出された手を握る。


「あと何回しても勝てるとは思えないよ」


 ワンダーは、一瞬だけ、三回勝負にすれば良かったと後悔したが、この腕前なら大丈夫だろうと頷く。乗組員達は、殆どがワンダー艦長に賭けていたので、ショウ王太子に賭けていた数人は臨時のボーナスが手に入った。





「あれが首都バラキスなのか?」


 港が首都なのは、島国としては珍しくない。東南諸島連合王国もレイテが首都だし、ヘッジ王国、マルタ公国も港が首都だ。しかし、ヘッジ王国のルミナスよりも、ごちゃっとした印象を受ける。


「ルミナスよりは活気があるのかも知れませんが、こんな北国なのに悪臭が酷いです」


 夏でも肌寒いサラム王国だというのに、ルミナス港には残飯などが浮いていて、悪臭が酷い。レイテでは、下水道と、ゴミの収集システムが発達している。それに、レイテ港に残飯などを投げ入れる不届き者はいない。


「海の女神マールを汚すだなんて!」


 海に生きる東南諸島の乗組員達は、軽蔑の視線を港に浮く残飯に向ける。航海中に亡くなれば、遺体は海の女神マールに託される。陸で亡くなっても、火葬した灰を海の女神の元に帰すのが一般的だ。


「大使館まで、サンズで行くけど、ワンダー艦長も一緒に行くかい?」


 ワンダー艦長も軽蔑の眼差しを汚い海面に向けていたが、大使館でザイクロフト卿の足取りを調査するのだと、気持ちを切り替えて付いて行くことにする。


「私もお供します!」


 勝負に負けたのだから、表だっては反対はできないが、ワンダー艦長はグローブ大使が何か陰謀か何か立てるだろうと期待している。


 空からルミナスを眺めると、首都だというのに大きな建物と小さな建物がごちゃごちゃしていて、都市計画など全く感じられない。それでも、港から離れるにつれて、大きな屋敷が建ち並んでくる。


「あそこが、東南諸島の大使館ですよ!」


 ワンダー艦長に言われて、北国なので、東南諸島型式風の建物にした大使館の前庭にサンズで舞い降りる。建物の大きな窓には、頑丈そうな鎧戸が外に付いていた。ヘッジ王国の大使館も似た設計だったとショウが眺めていると、階段をグローブ大使が駆け降りてきた。


「ショウ王太子、サラム王国にお越しとは存じませんでした」


 マルタ公国のひょろりとした長身のダイナム大使とは対称的な、どちらかというと背が低く、ころっと丸い体型のグローブ大使は、ちょこちょこと歩く姿がハムスターに似ている。


「イズマル島から、サラム王国へと航行してきたのだ。こちらは、ブレイブス号のワンダー艦長だ」


 見た目で判断してはいけないとは思うが、ワンダー艦長もチビネズミがこの貧しい国の大使に任官されたのは、能力が劣っているからではと疑いの目を向けてしまう。


「長い航海で、お疲れでしょう。お風呂を用意させます」


 急な訪問に、おたおたしているグローブ大使を落ち着かす。


「お風呂は後でいい! 兎も角、落ち着いて座りなさい!」


 これは難航しそうだと、ショウは思ったが、意外な事にハムスターの能力は高かった。すらすらと、ザイクロフト卿についての質問に答える。


「ザイクロフト卿はヘルツ国王の庶子と噂されていますが、母親がヘルツ国王の庶子だと思います。あの冷たい灰色の瞳が似ていますから。ザイクロフト卿がバルバロッサの息子かどうかは不明ですが、小役人の夫の子どもでは無いのは明かですね。因みに、母親は今の夫との間に三人の子をもうけてますが、ザイクロフト卿とは似てない冴えない容姿と能力です」


 ショウは、流石に貧しい国とはいえ大使に任命されただけあると見直した。


「何故、ザイクロフト卿を見逃してしまったのだろう?」


 前任者のキッシュ大使も、東南諸島の大使なら能力は優れていた筈なのにと、疑問を持っていた。


「ザイクロフト卿は、幼い時から田舎で育てられていたようです。バラキスに居なかったので、調べられなかったのです。キッシュ大使が体調を崩した頃から、時折は王宮を訪問していたみたいですが、ピョートル王太子の取り巻きだと思われていました」


「ピョートル王太子? 私は会ったことが無いが、どのような人物なのだ?」


 ザイクロフトがヘルツ国王の庶子の息子なら、ピョートルは年の近い叔父になるのだ。取り巻きと思われていたのなら、それなりに親密にしているのだろう。


「ピョートル王太子は、ヘルツ国王とも違う問題を多く抱えています」


 海賊を擁護しているヘルツ国王も問題が多い。ショウはウンザリする。


「まさか、ヘルナンデス公子と同じ趣味とか?」


 グローブ大使は、男好きのヘルナンデス公子を思い出して、クスクスと笑う。前歯が二本大きい! その笑顔がますますハムスターに似ていると、ショウは吹き出しそうなのを我慢する。


「いえ、ピョートル王太子は根っからの女好きです。しかし、それはヘルツ国王も同じで、別に問題と言うほどではありません。好みの頭の軽そうな女性を侍らさせています」


 他国の王や王太子が女好きで、庶子を何人か産まそうが東南諸島としては、ハニートラップをしかけるだけで問題では無い。やはり、ハムスターも陰謀が大好きな東南諸島の大使なのだと、ショウは溜め息をつく。


「なら、何が問題なのだ?」


 女好き以外は、海賊との癒着だが、ヘルツ国王が既に援護している。


「ピョートル王太子は大馬鹿者なのです。ヘルツ国王もさほど賢いとは思いませんが、世の中でこれほどの愚か者はなかなか見つけられません。最初は近づかせた女達の正体がバレて、馬鹿な振りをしているのかと疑ったぐらいの愚か者なのです」


 折角、ハニートラップを仕掛けたのに、馬鹿過ぎて意味が無いと、グローブ大使は嘆く。ショウは、ピョートル王太子とは面識が無いが、愚か者ならジェナス王子を知っている。どちらが、より愚かなのだろうと、溜め息をついた。


「それで、ザイクロフト卿は今何処に居るのだ?」


 不毛な馬鹿者の比較を諦めて、本来の目的を尋ねる。


「バラキスに居ないのは確かです。ピョートル王太子は、ザイクロフト卿を信頼していて、帰国したら呼び寄せます。ザイクロフト卿は、ピョートル王太子を傀儡にしてサラム王国を自分の思うがままにしようと企んでいるのです」


 確かに、女好きの愚か者であるピョートル王太子より、各国で陰謀を企てているザイクロフト卿の方が能力は優れているのだろうと、溜め息をついた。


「ヘルツ国王にピョートル王太子以外の王子はいないのか?」


 ふぅと、グローブ大使は残念そうに大きな溜め息をついた。


「あんなに女好きなのに、王妃との間にはピョートル王太子以外は産ませて無いのですよ。他の王子がいれば、廃嫡させられるのですが……」


 陰謀好きな大使ばかりだ! とショウは頭を振る。


「ピョートル王太子には子どもはいるのか?」


 女好きなので、王妃との間にも、愛人との間にも、何人もいると聞いて、やれやれと肩を竦める。ワンダー艦長は大人しく聞いていたが、ザイクロフト卿を陰謀でやっつけられないのかと、苛々する。


「ザイクロフト卿を放置していたのは、何故なんですか?」


 そんなに陰謀好きなら、原因を排除すれば良いのにと怒りをぶつける。


「まぁ、それは……」


 もごもごと口ごもるグローブ大使が、レイテからの指示に従っているのは明らかだし、ザイクロフト卿を陰謀でやっつけるつもりはない。


「ワンダー艦長、父上はザイクロフト卿の始末を私に任された」


 きっぱりと言い切られて、ワンダー艦長は口をつぐんだ。アスラン王を持ち出されては、何も言えない。


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