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海と風の王国  作者: 梨香
第十四章 ザイクロフト卿と決着
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1  ザイクロフト卿の尻っぽをつかむぞ!

「エスメ、身体にはくれぐれも気をつけてね」


 航海中に悪阻で苦しむのではと心配したが、騎竜のルカがエスメラルダの体調をカバーしていた。メッシーナ村には治療師の母親も居るし、エスメラルダも安心して赤ちゃんを産めそうだ。


「ショウ様、危険な事はなさらないでね」


 ザイクロフト卿の件を話した覚えは無いのだが、エスメラルダの心配そうな目を見て、ショウはカリカリしている自分で何か感じたのだと反省する。妊婦を不安がらせてはマズい!


「サンズが私が危険な真似をするのを許したりしないよ」


 絆の竜騎士を護ろうとする竜の本能をエスメラルダは信じることにする。別れのキスをして、サンズで飛び立つショウを見送った。





 無事にエスメラルダをメッシーナ村まで送り届けたショウは、ワンダー艦長にサラム王国へ向かうようにと告げる。


「直接、サラム王国まで航行できるかな?」


 艦長室でモリソンからの航路を確認するが、夏前の嵐に逢わなければ良いがと、ワンダー艦長は慎重に検討する。王太子を危険な目に曝すわけにはいかないのだ。


「距離的には問題ないとは思いますが、万が一嵐に逢っても避難場所が無いのが心配ですね」


 モリソン湾からサンズ島経由にしても良いが、かなり南下しなくてはいけない。イズマル島の東部のケナン基地からなら、サラム王国に直接向かうコースもブレイブス号なら無理ではない。


「ナッシュ兄上がケナン基地の開発をしている。一度視察もしたいから……」


 ナッシュ王子がケナン基地の行政長官になったのは、極最近の事なので視察する意味があるのかと、ワンダーは怪訝に思ったが、サラム王国に急ぎたいのだろうと承知する。ショウは、ワンダー艦長にザイクロフト卿の件を説明しなくてはと、重い溜め息をついた。


「ワンダー艦長は、私がサラム王国に急ぐのを変だと感じているだろう」


 確かに、ワンダーは貧しいサラム王国に急ぐ事案があるのか不思議に感じていた。


「サラム王国の海賊が問題だとお考えなのでしょうか?」


 口にしながらも、カザリア王国の北部にとってはサラム王国の海賊は大問題だし、いずれイズマル島の東部が開発されたら、あの海域に海賊が跋扈するのはマズいとは思うが、今直ぐどうにかする必要は東南諸島としては無いように思う。


「サラム王国の海賊は確かに問題だ。しかし、私がサラム王国に急ぐのは、ザイクロフト卿という外交官が東南諸島に害をなしているからだ。彼奴の尻拭いをして回るのはうんざりなんだ。ザイクロフト卿の尻尾をつかんでやる!」


 ショウは、ザイクロフト卿がバルバロッサの息子だと噂されていると告げる。


「何ですって! 彼奴の息子が生きていたのですか!」


 祖父のザーハン軍務大臣が取り逃がした件で、死をも覚悟したバルバロッサの遺児が生きていたと聞いて、日頃は感情を面に出さないワンダーがいきり立った。


「私が成敗します!」


 切り殺してやる! と思わず腰の刀に手をかけたワンダー艦長を、ショウは慌てて止める。


「まぁまぁ、バルバロッサの息子かどうかはわからないんだから。一応はヘルツ国王の庶子だと言われているし……兎に角、彼奴がどこにいるのか調べなきゃ、話にならないよ」


 それに、ワンダー艦長に成敗させるつもりは、ショウにはなかった。自分で決着をつけるつもりだ。


「サラム王国のグローブ大使は、居所をつかんでいないのですか?」


 ワンダーは自国の大使達の能力の高さを知っていたので、疑問に思う。


「ザイクロフト卿は商船を乗り換えながら移動するので、居所を掴むのが難しいそうだ……それと、これは私の疑惑なのだが……バッカス外務大臣は、自分で始末したいのではないかな? しかし、私は父上からザイクロフト卿の始末を任されたのだ!」


 ハッとワンダーも我に返って、ショウ王太子が直接手を下さなくてもと止める。


「それは、駄目です! 私に祖父の後始末をさせて下さい!」


 ショウは、そんなにヘッポコだと思われているのかと、ガックリする。


「外交官のザイクロフト卿に負けたりしないよ」


 ワンダーは、王太子自ら危険を犯さなくてもと考えたが、先ずはザイクロフト卿とやらの尻尾を掴まなければいけないのだ。


……口ではショウ王太子に勝てない! ザイクロフト卿を見つけ次第、やっつけたら良いだけだ!……


 甲板へと一緒に移動したワンダー艦長が、士官に「ケナン基地に向かえ!」と命じているのを見ながら、そんなに自分の剣の腕前はヘッポコなのだろうかとショウは落ち込んだ。


『ショウはヘッポコじゃないよ!』


 未だ雛のフルールを親竜のメリルに預けて、ショウと航海に出たサンズに慰められる。


『私もヘッポコだとは思ってないよ。でも、父上や他の人が……』


 サンズに愚痴っても仕方ないと止めたが、皆が自分を庇う度に苛ついてしまう。士官候補生達を、バージョン士官が剣の訓練をさせているので参加することにした。


「バージョン! 今度は負けないよ!」


 士官候補生達は、鬼のように強いバージョン士官が本気でショウ王太子と剣の稽古をしているのを唖然として眺める。


「王太子に怪我でもさせたらマズいのでは……」


 ひょっ子達は固唾を飲む。ショウ王太子を尊敬していたが、身近なバージョン士官をも尊敬しているので、どちらが負けるのも見たくない。


「なかなか好勝負でしたね」


 はぁはぁと荒い息を調えながら、バージョンと握手する。ショウは、この前は2本に1本は勝てていたのにと悔しくて仕方ない。


「バージョン! いつの間に腕をあげたんだい?」


 5本して2本しか勝てなかった悔しさを抑えさているショウ王太子に、ワンダー艦長は苦笑する。


「ショウ王太子、バージョンは士官の剣術大会で優勝したのですよ」


 ワンダー艦長の言葉で、ショウはガックリする。


「そう言えば、バージョンは士官候補生の時も優勝していたなぁ」


 士官候補生のひょっ子達は、鬼みたいに強い筈だと肩を竦める。


「いえいえ、士官の剣術大会には中尉までしかでませんから。もっと強い方もいらっしゃいます」


 ショウは、はぁ~と溜め息しか出ない。


「なら、航海中は練習に付き合って貰おう! 何故か、私の周りは剣の達人ばかりだ」


 ワンダーは、王太子なのだから護衛をつけたら良いのでは? と言いかけて、目の真剣さを見て止めたが、ザイクロフト卿とやらは渡すつもりは無かった。


「ショウ王太子、私も剣の稽古に付き合いましょう!」


 どひゃあ~! と士官候補生から悲鳴があがる。偶にワンダー艦長が士官達をしごいているのを見ていたのだ。


「ワンダーが強いのは知っているよ」


 カリン兄上と同じ強さのワンダー艦長に、ショウは勝てる気がしない。


「なら、ザイクロフト卿は私にお譲り下さい」


 ワンダーの意図を知り、ショウはこればかりは譲れないと、キツい目で睨む。冷たい空気が夏の海上に流れたが、ショウが「負けないからね! 私が勝ったら100マーク貰うぞ!」と叫んで、ワンダーも賭けにのる。士官や士官候補生や乗り組み員達も、それぞれ勝つと思う方に賭ける。


「チェッ! ブレイブス号は私の旗艦なのに、ワンダー艦長の方が優勢だなぁ」


 ぶつぶつ愚痴るショウ王太子に、バージョンは仕方ないですよと肩を竦める。


「ブレイブス号では、ワンダー艦長は神様ですから」


 まぁ、軍艦で艦長の命令は神の声だから仕方ないなと、ショウも諦めるが、バージョンに特訓の相手になってもらう。

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