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海と風の王国  作者: 梨香
第十三章 迫る影

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29  レイテ大学!

「ショウ! やっと来てくれたか!」


 レイテ大学の準備をしている昔の王族の屋敷に来た途端、サリーム兄上に熱血歓迎されて、これはかなり変人教授を持てあましているなぁと溜め息をつきたくなる。


「サリーム兄上には迷惑をおかけして申し訳ありません。リヒテンシュタイン教授達には、私からキチンと言っておきます。それで、どの程度進んでいますか?」


 サリームはレイテ大学創立の準備の進捗状況を説明する。


「建物は、この屋敷と離れで始めようと思う。どの程度の生徒が集まるかわからないからな。徐々に設備を整えている最中なのだが……私には、お前が連れてきた教授達は制御不能だ!」


 温厚な兄上が声を荒げたのにショウは驚き、厳しく言い聞かせなくてはと、ビクター達、変人がいる離れに向かった。




「おう! やっと来たな!」


 熊に吠えられたが、ショウもアスラン王の息子だ。熊ごときに負けてはいない。


「リヒテンシュタイン教授! サリーム学長に逆らうのなら、ユングフラウに帰って下さい! 他の教授もです!」


 ビシッと叱りつけた所までは、格好が良かったのだが、口々に苦情を言われて、ショウはタジタジになる。


「実験に必要な物は、ちゃんと申告すれば購入される筈です! 説明もしていると思いますが……」


 厳しい顔で睨まれて、昨日のアスラン王を思い出し、ビクターは首を竦める。


「私の研究の為には、大勢の人達から血液を収集しなくてはいけないのだが、サリーム様は理解して下さらない」


 ユングフラウ大学に居た時から、血を! 血を! と騒ぐザビエル教授は、不気味に思われていた。しかし、変人とはいえ国王の伯父であるロシフォール侯爵の助手だったので、未だ協力してくれる者もあった。しかし、見知らぬ国では、皆、吸血鬼だと恐れて、側にも寄らない。


「ザビエル教授、血の研究は、王宮の治療主任に協力するように伝えます。彼は治療の技に優れていますが、治療師が少ない問題を解決したいと考えています。きっと、詳しく説明すれば理解してくれます」


「それはありがたいですが、治療主任は手術についてはどう考えているのでしょう? 麻酔の研究もしたいのです」


 海賊との戦闘が多い東南諸島では、手術の必要性も高い。


「きっと、手術についても説明すれば、協力してくれます。それと、手術の麻酔の件ですが、私の側近のピップスの出身村の治療師は、とても薬草に詳しいのです。ゴルチェ大陸は遠いですが、調査しに行ってみては?」


 他の教授達からも色々と苦情を言われたが、どうにか問題を解決して、ホッとする。


 しかし、しつこい熊につかまった。ビクターは必要な品物はシュバイツアーに書類で申告させることに決めた。そして、忙しく世界を飛び回っているショウを確保できる機会を逃すつもりはなかったのだ。




 ビクターが自分の実験室だと勝手に決めている部屋に連れていかれる。ショウも、色々な物を造って貰いたいと考えて、図面を用意していた。

 

「火力を上げる鉱石は見つかっていません。これからも捜させます」


 魔法や竜が存在する世界は、前世とは少し違うのかもしれない。ショウは、石炭や石油を探すのは続けるが、他の物を利用したいと考える。


「ところで、ビクター教授は、魔力と薪や炭以外のエネルギーについて考えたことはありますか?」


 ビクターは錬金術で金属を化合する時に、熱が生じることを知っていた。


「エネルギー? 高い火力や熱源なら、薪や炭のほうがよいだろう?」


 熊の疑問を無視して、発電について説明する。


「川を塞き止めて水を溜めるダムと言うものを造ります。その溜めた水を放出する力で発電機を回せば、電気を作ることができるのです」


 ショウは、いつか役に立つかなと、書き留めていた前世の記憶の中から、戦争で大量殺戮に直接関係しない物を選んで持って来た。勿論、翔は技術者では無かったので、概念しか伝えられなかったが、おおよその発電の仕組みを書いてみたのだ。


「デンキ? ハツデンキ? なんじゃ、それは!」


 あっ! そこから説明するのかと、溜め息をつく。


「電気とは……雷も電気ですね。それと、乾燥した冬に服を脱ぎ着する時に、パチパチッてするのも電気です」


「雷かぁ! それを利用しようにも、何処で、いつ起こるのかわからないぞ……」


 どうもピンときていない様子に、ショウはどう説明しようかと、首を捻る。


「あっ、電池と豆電球があれば説明しやすいけど……無いよねぇ。そうだ! 銅板と亜鉛板はありますか? 後は銅線と、レモンで実験できます」


 夏休みの自由研究で、レモン発電をしたのを思い出しながら、ショウは簡単な実験をする。豆電球が無かったので、金属板を二枚重ねて震わせる。


「やっぱり、電球が有ると便利だよなぁ。学生達に教えやすいし、第一、蝋燭やランプより明るいものねぇ」


 エジソンの伝記を思い出しながら、電球の作り方を説明する。図に書くが、理解できるかな? とショウも不安になるほど、ぐだぐただ。電球なんて、有るのが当たり前の物だった。自由研究でも店で買って来たので、簡単な仕組みしか知らない。


「レモン発電を電球につなげると、明かりを灯せます。電球の仕組みはこんな感じなんだけど……ビクター! 痛い」


 ガシッと肩をつかまれて、ショウは馬鹿力なんだからと振りほどく。


「お前、何処でこんな物を知ったんだ!」


 ショウは、さぁね! と肩を竦める。前世の記憶だと言っても、信じないだろうなと苦笑する。


「こんなレモン発電では、小さな電球しか灯せない。レイテの街を照らすのに必要なほどの電気を作るには、ダムと発電所が必要なんだ」


 社会見学の発電所で、もっと真面目に説明を聞いておけば良かったと後悔しながら、発電の仕組みを書いてきた図面を見せながらビクターに話す。


「あっ、そうだ! 風力発電の方が施設は簡単かも……馬鹿だなぁ、思いつかなかった」


 風が通り抜けるフェミニーナ島なら、風力発電も有効だろうと考え、その場でザッとした図面を書く。ビクターは、驚きを通りこして、呆れてショウを眺めていたが「こんないい加減な説明では造れない!」と怒鳴りだす。


「だからこそ、レイテ大学で研究して欲しいのです」


 ビシッと言われて、ビクターは一瞬怯んだが、そこは熊だ。


「だぁ! 勝手な事ばかり言うなよ!」


 ぐだぐた文句を言い出したビクターに、ショウは平然と言い返す。


「無理なら、パロマ大学かケイロン大学で、引き受けてくれる教授を探します」


「がぉ~!」という咆哮に、他の教授達が何事かと駆けつけ、心配になったサリームも離れに来た。


「俺様が造る! 他の馬鹿どもには、造らせねえ!」


 王太子に対しての無作法な物言いに、呆れるサリームだ。ショウは苦笑しながら、ビクターが必要だと申告した物は、優先的に購入してやって下さいと頼む。


「こんな教授に任せて、大丈夫なのか?」


 また、ショウが何か思いついたのだと、サリームは察したが、他にもっと真っ当な教授がいるのではと不審そうに眺める。何故なら、ぐるぐると歩き回りながら、ぶつぶつと呟いているビクターは、鬼気迫っていたのだ。


「彼は天才ですよ! きっとレイテ大学の名誉教授になります」


 ショウのことは、信用しているサリームだが、ビクターの件は間違っているのではと不安を抱く。


 しかし、十数年後、偉大な発明王としてビクター・フォン・リヒテンシュタインの名前は世界中で知られることになるのだ。それと共に、レイテ大学の名前は新しい社会を開いた大学として燦然と輝く。


 しかし、進歩的なレイテ大学の初代学長として名前を歴史に刻むサリームは、ビクターがそんな名誉教授になるとは信じられず、旧王族の屋敷の離れで髪を掻きむしる熊に困惑していた。


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