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海と風の王国  作者: 梨香
第十三章 迫る影

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28  忙しいショウ王太子!

 ショウは変人達をサリーム兄上が持て余していると、ベスメル内務大臣から言われていたのを後回しにしたツケを支払う羽目になったと溜め息をつく。


「ビクター教授、その件は後でじっくりと話し合いましょう。今日は花嫁を連れて帰国したのです」


 意外な事に、ビクターは新婚なら仕方ないなと、あっさり引き上げてくれた。ショウは、イルバニア王国の恋愛至上主義があの変人にも影響を与えたのかと驚いたが、後ろでアスラン王が睨んでいたのだ。


「私の王宮にあのような無礼者を連れ込むな!」


 なぁんだ! と、ショウはビクターが新婚の自分に配慮してくれたのかと驚いて損をした気分になる。


「リヒテンシュタイン教授を連れ込んだりしていませんよ!」


「生意気な口をきくな! へっぽこ!」


 酷い! と抗議したが、さっさと立ち去られてしまう。


「ショウ王太子、離宮でお風呂に入って休憩して下さい。帰国されたばかりですのに……」


 見かねたバルディシュに勧められたが、離宮には留守番させた妻達も待っているのだ。休憩になるのだろうかと、溜め息をつきながら、離宮へと向かう。

 



 離宮でお風呂に浸かりながら、側仕え達から報告を受けていると、側近のピップスが雛竜達の様子を報せに来て呆れる。


「まぁ、私も報告に来たのですから、偉そうには言えませんが、お風呂ぐらいゆっくりなさっては如何ですか?」


 ショウはお風呂から出たら、娘達や妻達に会いに行かなくてはいけないのだと溜め息をつく。


「そうだ! エスメラルダは同じように旧帝国から逃げたピップスやユンナと話したがっていた。屋敷に訪ねても良いか、尋ねてくれ……妊娠中でしんどいなら断ってくれても良いのだから、無理をさせないように」


 自分も一緒だと気を使うかな? と首を傾げているショウ王太子に、尋ねておきますと返事をする。ピップスは、側仕え達にもあれこれ指示を出しているショウ王太子に呆れてしまったが、もしかして現実逃避ではと疑う。


「ショウ様、もしかして……」


 ショウは、自分の欠点である難問から逃避していたのを、ピップスに指摘されて、覚悟を決めて風呂から出る。


「ああ、誰から会うべきなのかなぁ」


 ピップスと側仕え達は、やれやれと肩を竦める。侍従達が、王太子のお世話は自分達の仕事ですと言わんばかりに、服を着せかけるのを見て離宮を後にした。それに、どの妃から会うべきか? なんて、恐ろしい質問に答えたく無かったのだ。


「そうだ! こんな時こそ、第一夫人のリリィに相談しよう!」


 アスランが聞いたら、ヘッポコ! と、怒鳴っただろうが、王太子の離宮に王は足を踏み入れたりはしない。リリィの忠告に耳を傾けて、妊娠中のロジーナに先に会いに行き、そして娘達とその母親達と共に食事をし、エスメラルダの部屋で過ごした。




 ショウは帰国一日目を第一夫人のお蔭で平穏無事に過ごせたと、満足しながら朝食をエスメラルダと食べていたが、にこやかに朝の挨拶をしに来たリリィに冷や汗をかかされる。


「エスメラルダ様の歓迎のお茶会を致します。できれば、ショウ様もご一緒に……」


 プッとお茶を吹き出しそうになったショウは、公務で忙しいのだと断る。


「レイテ大学の創立をサリーム兄上にお任せしているのだが、何人かの教授達は少し変わっていて、調整が必要なのだ」


 リリィは、レティシィアからユングフラウ大学の変人教授達の話を聞いていたので、真面目なサリーム王子では調教は無理だろうと苦笑する。


「レイテ大学は良いお考えですわ。ショウ様は女の子が大学で学んでも良いとお考えなのですか?」


 一緒に朝食の席についていたエスメラルダも興味を持って目を輝かせる。


「私は良いと思っているが、東南諸島の父親は未婚の娘を男達と一緒に勉強などさせないだろうな……あっ! 女子大はどうだろう? 女の子だけの大学なら、通わせやすいかも」


 リリィは、それでもなかなか通わせる親はいないのではと思ったが、ショウはにっこりと微笑む。


「先ずは、大商人や重臣達の子女から入学させよう! いずれは、私の娘達も通わせたい!」


 リリィは頑固な父親達は、娘と男性の教授との接触も嫌がるのではと考え、ハッと良い考えを思いつく。


「女官の中には、もっと勉強させてやりたいと思う者もおります。その女官達を授業の見張りに付き添わせば、父親達も安心するでしょう」


 ショウはエスメラルダが難しい顔をしているのに気づいた。


「エスメは、大商人や重臣の娘達だけが勉強できるのが不満なんだね」


 エスメラルダは、父親のヘインズからショウ王太子の公務について、余計な口出しをしてはいけないと言われていたので、困って口ごもる。リリィは、王太子の妃が政治に口出しするのはご法度だと思っているが、これからの女の子の教育についてには色々な見方も大切だと考え、意見を促す。


「貧しい家に産まれた女の子にも教育の機会を与えてあげたいのです」


 ショウは、勿論! と笑う。


「リリィ、女子大が受け入れられるか? 奨学金を出せば、貧しい家の女の子も通えるか? レティシィアとエスメと考えてくれ。あっ、パロマ大学に留学しているメリッサにも聞いてみて欲しい」


 まぁ! と、リリィとエスメラルダは顔を見合わせて、そんな重要な事をと驚く。


「レイテ大学の件はサリーム兄上に任せたけど、女の子の教育は貴女達の方が真剣に考えていると思うんだ。本当は、レイテ大学に女の子も通わせたいけど、現状では無理だと思う。この件は任せるから、案を出してみてくれないか? それと、エスメは第一夫人の役割が知りたいので、教えてやって欲しいんだ」


 エスメラルダは他の夫人とのお茶会どころでは無い気持ちになった。


「リリィ様、色々とお教え下さい」


 ショウは、何か忘れている気持ちになり「あっ! キャベツ畑も作るんだったね」と笑う。リリィはキャベツ畑の呪いで赤ちゃんが産まれるのは知っていたが、ユングフラウで作ったと聞いていたので、怪訝な顔をする。


「エスメ、説明してあげて! 私は変人教授と話し合わなきゃ! サリーム兄上に迷惑をかけてはいけないからね」


 微妙なキャベツ畑の呪いについての話し合いには参加しないで、そそくさと席を立ったショウ王太子に、リリィは溜め息をつく。二人の王女しか産まれていないので、重臣達から娘を後宮へ嫁がせたいとのプレッシャーがキツくなっていたのだ。ロジーナが産むのが王子でありますようにと、リリィも望んでいたが、こればかりは海の女神様に祈っても仕方がない。


「国が違えば、2年開けなくても良いのですか! それは、是非試してみなければ……」


 リリィは深呼吸して、新妻のエスメラルダに言い出し難い話をする。


「エスメラルダ様、ショウ王太子には二人の王女しか産まれていません。東南諸島連合王国には優れた後継者が必要なのです」


 エスメラルダは、第一夫人のリリィが口にしなかったキャベツを他の夫人にも与えても良いか? という言葉を察して、少し躊躇ったが頷いた。


「ありがとうございます。後継者候補は多い方が良いのです」


 エスメラルダは、第六王子のショウが何故王太子に選ばれたのか? とリリィに質問する。


「後継者は王が選びます。誰もその決定に異論を唱えてはいけないのです。まして後宮では口に出すのも禁止されています」


 いつもはにこやかなリリィが、この件だけは守って下さいと厳しい顔で念押しする。エスメラルダは、他の王子達と会っていたので、ショウが選ばれたのは上手く付き合えるからかしら? と考えたが、リリィの忠告に従って口にはしなかった。


「それにしても、ショウ様は忙しそうですね」


 新妻の溜め息にリリィも同意したが、キャベツの苗を手配しなくてはと、こちらも忙しそうだ。エスメラルダは、のんびりしたメッシーナ村が少し懐かしく思えた。

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