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海と風の王国  作者: 梨香
第十三章 迫る影
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27  忘れてた!

 ショウがドーソン軍務大臣と防衛ラインを検討していた頃、昔の王族の屋敷を改造したにわか造りのレイテ大学準備施設では、サリーム王子がショウは何でこんな変人達を招聘したのだろうと頭を抱えていた。


「建物はこれで十分だが、実験道具が足りないなぁ! ユングフラウ大学からかなり持っては来たが、これから研究所を造るには少なすぎる」


 熊のようなビクターに怒鳴り付けられて、サリームは道理を説く。


「リヒテンシュタイン教授、レイテ大学はまだ開校していません。これから準備をするのです。研究所に必要な道具などは、この書類に記入して提出して下さい」


「そんなの、初耳だ!」吠えるビクターに、前にも説明したと、溜め息しかでない。ビクターは、「書類なんか書けるか!」と、シュバイツアー助手に放り投げ、くんくんと鼻をならす。


「うん? ショウ王太子が帰国したな! 彼奴は何か新しい事を考えているみたいだ! 外国に出て行く前に取っ捕まえなきゃな! シュバイツアー、手伝え!」


「こんな事をしている場合じゃない!」と熊のような体型なのに助手を引き連れて、素早く部屋から出ていく。サリームは匂いでわかるのか? と呆れたが、咆哮する熊が居なくなったので、やっと落ち着いてレイテ大学の準備に取り掛かれると、書類を開く。


「サリーム王子、私の実験に参加して下さる人員を確保して下さると言われましたが……」


 熊が居なくなったと思ったら、まるで吸血鬼のように血を集めたがるザビエル教授が現れる。その後ろには、わらわらと変人教授達がついてきている。


「ショウ! 私はまともな教授しか相手にできないぞ!」


 温厚なサリームだが、ショウが各国を訪問している間に、変人達のお守りをさせられて、キレてしまった。


「私はレイテ大学の開校準備で忙がしいのです。貴方達を招聘したのは、ショウ王太子なのだから、文句や注文は彼方にして下さい」


 パロマ大学、ユングフラウ大学、ケイロン大学から自分が招聘した教授や講師達の面倒は見るし、必要な書籍や文献も集めるが、ショウが集めた変人達にはうんざりしたサリームは、王太子の公務が忙しいのは承知の上で押しつける。


 ザビエル教授は、これはサリーム王子にいくら言っても無理だと悟り、本能のまま部屋を飛び出したビクターを追いかけることにする。他の変人教授達も、我先に王宮へと向かいだしたので、やっとサリームは落ち着いて大学開校の準備に取り掛かった。




 王宮の王太子の執務室では、ショウがイズマル島への防衛ラインの強化をドーソン軍務大臣と話し合っていた。


「では、ドーソン軍務大臣、サンズ島とウォンビン島には常に軍艦を配備して下さい」


 ドーソン軍務大臣は、常駐させる為には軍艦の造船を急がせる事と、人員の確保が必要だと書類を取り出して指摘する。


「軍艦はチェンナイで造船が始まっています。いずれはイズマル島でも造船したいですが、今は開発に人員が必要です」


「軍艦も必要ですが、乗組員の確保も重要です。我が国の船乗り達は、商船にかなり取られていますから」


 ショウは海軍の乗組員達もお金を貯めたら、護衛船の船長になろうと考えている自国の事情に溜め息をつく。


「海賊船に乗るぐらいなら、我が国の軍艦の乗組員になって欲しいものだけど……うん? 良いかも!」


 メーリングに屯していたローラン王国の難民達が、いずれは食い潰して海賊船に乗り込むようになるよりは、乗組員を募集してはどうか? とショウは考える。


「そんな! 得体の知れない連中を軍艦に乗せられません!」


 とんでもない! と拒否反応を示すドーソン軍務大臣に、それもそうだと相槌を打つ。


「確かに、軍艦はまずい! でも、商船になら? 商船で農地を買うお金を貯めたら、イズマル島で自立農民になれると宣伝すれば……上手くいけば、乗組員と開拓農民が増やせる。それに、次世代は我が国の若者だから、軍艦に乗せても大丈夫だな」


 イズマル島の開発に人手が欲しいのはやまやまなのだが、ローラン王国の難民を表立って大量に移住させるのは、植民地化しそうなので避けている。今の所は商人達が、プランテーションの労働者として受け入れ、その賃金をある程度貯めたら農地を買うというシステムになっているのだ。その時に、東南諸島連合王国から自立農民として暮らせるまでの減税期間や、低利息の貸出し金なども考えてある。


 ユングフラウの滞在中も、グレゴリウス国王に世間話に寄せて、イルバニア王国の農民が多数イズマル島に移住するのは困るとチクリと苦情を言われたのだ。今のうちは、農家の次男や三男などで、問題にはなってはいないが、馬鹿な領主を見限って新天地を目指す者が出ないとも言えない。


「この件は、ベスメル内務大臣と話し合わなくてはいけないな……うん? 何やら騒がしいが……」


 王太子の執務室の前で騒ぐとは! ドーソン軍務大臣は怒りを露にして立ち上がる。規律の厳しい軍部では、このような事はあり得ないので、自分が重要な話をしているのを邪魔されるのには慣れていないのだ。ショウも警備の厳しい王宮で何事だと不審に感じて外に出る。


「おお! やっぱり居たじゃないか!」


 止める側近のバルディシュを押し退けて、ビクターはショウ王太子の肩を馴れ馴れしく組む。


「なぁ、火力のある鉱物で何をするつもりなんだ?」


 ドーソン軍務大臣は、自国の王太子に無礼な! と腹を立て、腰の半月刀に手をかけるが、ショウ王太子に目で制される。


「ああ、忘れてた!」


「俺は忘れて無いぜ! 火力のある鉱物は未だ見つかって無いが、それより何を造ろうって考えてるんだよ!」


 熊に耳元で怒鳴られて、うんざりする。帰国したばかりなのにと、トホホなショウだった。 



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