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海と風の王国  作者: 梨香
第十三章 迫る影
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24  これがレイテ!

『サンズ、ルカ、もうすぐレイテが見えてくるよ』


 雛竜達を連れての航海だったが、島伝いにレイテへ航行するコースを選択したので、常に新しい肉を与えることができた。


『ショウ、このくらいなら、普通のコースでも鶏か兎を多目に積んでおけば大丈夫だったね』


 サンズはエスメラルダをイズマル島に送っていく時に、ショウにフルールとお留守番するようにと言われたら大変だと先手を打つ。マルタ公国に一人で行かせたのを凄く後悔していたのだ。


『でも、フルールにとっては竜舎で……わかったよ!』


 サンズがすねて身をよじらせるのを見て、慌ててショウはご機嫌をとる。


『私が側に居ない時に、ショウが嵐に巻き込まれたらどうするんだよ! あんなに心細いとは思わなかったんだ! フルールはメリルにお守りをして貰っても良いし! 二度と離れないからね』


 置いてきぼりにはしないと誓わせて、サンズはホッとする。




「おお~い~! レイテが見えたぞ!」


 見張り台から大声がして、ブレイブス号の全員が懐かしいレイテに帰ったと歓声をあげる。


「ほら、あの丘の上の白い建物が王宮だよ」


 遠くからでも白亜の建物群が見え、エスメラルダは想像していたよりも大規模な王宮だと驚く。


「レイテの王宮は豪華だと父から聞いていましたが……こんなに大きいとは思ってもみませんでしたわ」


 ショウはエスメラルダの肩を抱き寄せて説明する。


「王宮には行政を執り行う表や、父上の後宮、そして私の住む離宮があるからね。離宮の裏手は海にも面しているから、ルカもピピンと海水浴できるよ」


 エスメラルダは、竜達の海水浴は楽しそうだと微笑んだが、ショウ様の離宮には妻達も住んでいるのだと覚悟を決める。


「荷物を纏めるのを手伝ってきますわ」


 ユングフラウに思いがけず長く滞在し、侍女に身の回りの世話をして貰うのに慣れてきたエスメラルダだが、ショウ様の子ども達や夫人達へのお土産を別にしなければと船室へ降りていく。


「ワンダー艦長、長い航海になったね」

 

 エスメラルダが居なくなったので、ショウはワンダー艦長に長い航海を労う。


「いえ、私はブレイブス号を愛していますから、長い航海だなんて少しも感じませんでした」


 船ラブのワンダー艦長の言葉にショウは笑った。


「それと、今後の予定だけど……エスメを夏至祭までにはメッシーナ村に送って行かなきゃいけない。でも、レイテでもキャベツ畑を作ると言ってたから、少し皆にも休暇をとらせてくれ」


 イズマル島まで航行できると目を輝かせるワンダー艦長に、少しは奧さん孝行するようにと忠告する。しかし、その言葉は自分にも当てはまると肩を竦めるショウだった。


「リリィにエスメを連れて帰ると知らせておいたから、部屋は用意してくれているだろうけど……妊娠中のロジーナや、ララやレティシィアは……」


 ショウは予定より長くなった不在への不満を感じているだろう妻達のフォローが大変だと溜め息をつく。





「まぁ! レイテの街は凄く賑わっているのですね」


 侍女と荷物を纏めて甲板に出てきたエスメラルダは、レイテの街の賑わいと、空気中に何処ともなく漂う香辛料の匂いに、初めての街に来たのだと興奮する。


「このレイテは商売の都だからね! この繁栄を支えているのは、実は第一夫人なんだよ。素敵な第一夫人がいっぱいいるから、エスメにも会わせてあげたいな」


 エスメラルダは第一夫人のシステムが理解しきれてはいなかったが、レイテの繁栄を影から支えている人達と会ってみたいと頷く。


 ショウがサンズに子ども達へのお土産を積めた箱をくくりつけていたら、シリンがピップスを乗せて舞い降りた。


「ショウ王太子、お帰りなさい!」


 ワンダー艦長やバージョン士官は、前に一緒に旅をしたピップスに、ショウ王太子の側近として出迎えに来たのだからと、この場では話しかけなかったが、後で飲みに行こうと目配せする。


「ピップス、わざわざ出迎えに来てくれなくても。エスメラルダは知っているよね! エスメも、ピップスは知っているだろ? 私の側近をしているんだ」


 エスメラルダとピップスがお互いに挨拶を済ませると、雛竜達の紹介に移る。


『わぁ、可愛いですね! フルールとピピン、シリンのパックと遊べますね』


 サンズとルカとシリンは子竜達と遊ばせたいと喜ぶ。大型艦のブレイブス号だが、竜が三頭もいると乗組員達も作業するのが邪魔になるだろうと、ショウは王宮へと向かうことにする。


「フルールとピピンは私とエスメが抱いて行くよ。ピップスはワンダー艦長と侍女を乗せて行ってくれ」


 未だ飛べない雛竜を抱えて、ショウ達は王宮の庭に着いた。


「エスメ、ピピンを受けとるよ」


 ショウは身軽にフルールを抱いたままサンズから飛び降りたが、エスメラルダは東南諸島風の服を着ているので慣れない貴婦人乗りだからと手を差し出す。


「おう! 二頭も雛竜が増えたのか! エスメラルダ、よくレイテまで来てくれたな」


 相変わらず竜が先だとショウは苦笑するが、エスメラルダはアスラン王にはメッシーナ村で何回も会っていたので、にこやかに挨拶をする。


「アスラン王、宜しくお願い致します」


 アスランはエスメラルダの挨拶を、機嫌良く受けると、ピップスに雛竜達を竜舎へと連れて行かせる。


「ショウ、色々と聞きたい事があるが、その前にエスメラルダを離宮に案内しろ」


 ショウも父上とは話し合わなくてはいけない事が山積みだ。しかし、その前にエスメラルダをリリィに引き合わせて、面倒をみて貰わないといけない。


「さぁ、エスメ! 私の第一夫人のリリィに紹介するよ。竜達の面倒はピップスがちゃんとみてくれるけど、心配なら後で見に行こう」


 アスランは新しい妻が増えた時の居心地の悪さを思い出して少しショウに同情しかけた。しかし、ショウにはしっかりした第一夫人が自ら望んで嫁いだのだと腹が立ってきた。


「エスメラルダはゆっくりと長旅の疲れを癒すが良い。ショウ、お前はさっさと執務室に報告に来い! いちゃいちゃするのは夜に取っておけ」


 ショウが、昼間からいちゃいちゃなんかしません! と抗議するのを、ちゃいちゃいと面倒くさそうに手で制して、アスランはワンダー艦長から報告を受ける為に執務室に向かう。


「父上! 貴方は……」


 ザイクロフト卿の存在を知っていたのか? ジェナス王子がマルタ公国やサラム王国と何か陰謀を企む能力が有るのかと疑問を抱いていた自分を、素知らぬ顔でこの航海に出させたのか? 父王の背中に怒鳴り付けたい衝動にかられたが、心配そうに見つめるエスメラルダの瞳に負けた。


「ショウ様……」


「エスメ、さぁ、離宮まで案内するよ。リリィはとても優しいから心配しなくても大丈夫だよ」


 ショウは、後で父上とキッチリと話し合わなくてはいけないが、先ずはエスメラルダを離宮でリリィに引き合わせなくてはと気持ちを切り替える。


 エスメラルダは、噴水があちこちにある庭や、華麗なレリーフが施された回廊の天井などに圧倒されながらも、やはりアスラン王の太陽のような印象の方が心に残った。そして、いつも優しく穏やかな顔しか見せなかったショウが、怒りを抑えた時、アスラン王にそっくりだと驚いたのだ。


……これがレイテ! 私はショウ様の妻なんだわ……


 何時もの穏やかな横顔を眺めながらも、激しいアスラン王の血を引いているのだと気づいたエスメラルダは、東南諸島連合王国の王太子の妻になったのだと実感した。


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