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海と風の王国  作者: 梨香
第十三章 迫る影

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16  ヘルナンデス公子

 贅沢な緞子を張ったソファに横になって、ヘルナンデス公子はサラム王国のザイクロフト卿が早くマルタ公国へ来ないかと溜め息をついた。


「父上の取り巻き連中ときたら、本当に顔だけは見れるけど頭は空っぽでつまらない! 私が父上を引きずり下ろしたら、あんな連中は奴隷にでも売り飛ばしてやる。

 その点、ザイクロフト卿は顔だけでなく頭もキレる! 問題は、あんな貧乏なサラム王国の外交官だということだなぁ」


 できたら、常に側に置きたいので、ヘルナンデス公子は、貧乏なサラム王国を見限らせたいと考えていた。


「あのヘルツ国王の庶子だという噂は、何処まで信用性があるのか? どう見ても、東南諸島連合王国の血を感じるが……」


 ヘルナンデス公子が、こっそりと盗み見た父上の秘蔵のアスラン王の肖像画を思い浮かべている時、ショウは大使館でダイナム大使と話し合っていた。




「どうかされましたか? 航海でお疲れなら、先にお風呂を用意させますが……」


 ゾクゾクッと背中に悪寒が走ったショウ王太子に、ダイナム大使は部屋でお休みになりますかと気づかう。


「いや、長居はできないので、先に話し合いたい」


 父上に熱い視線を送っていたジャリース公や、よく似た趣味だと聞いているヘルナンデス公子がいるビザンには長居は無用だとショウは首を横に振る。


「それにしても、ブレイブス号に王太子の旗艦の印を揚げさせておられませんでしたが、やはり、ジャリース公を避ける為ですか?」


 いずれ知られるかもしれないが、積極的にはビザン滞在をジャリース公やヘルナンデス公子には教えたくないと、ワンダー艦長に王太子の旗を下ろさせたのだ。


 王太子の旗艦の艦長として誇りを持っているワンダーは、少し苦い顔をしたが、変態親子の噂は知っていたので、命令に従った。


「できたら、会わずにユングフラウに帰りたいが……」


 ダイナム大使は、王太子の旗を揚げてなくても、立派な大型軍艦のブレイブス号の主は誰かなんてすぐに知られますよと、肩を竦める。


「ヘルナンデス公子に、サラム王国のザイクロフト卿という外交官が親しくしているそうだが……」


 話を急ぐショウ王太子に、おもてなしの宴会どころでは無さそうだとダイナム大使は諦めて、仕事モードに切り換える。


「ええ、ヘルナンデス公子はザイクロフト卿がとてもお気に入りのようですね。

 ジャリース公は、海賊と奴隷貿易したり、人質の交換などの場所やねぐらを提供していましたが、ヘルナンデス公子は一線を踏み越えておられるようです。

 その背中を押したのは、ザイクロフト卿では無いでしょうか?」


 やはり、ダイナム大使はザイクロフト卿についてレイテに報告していたのだと、父上とバッカス外務大臣に内心で悪態をつく。


「ダイナム大使は、ザイクロフト卿が今何処にいるか知っていますか?」


 書斎の机から書類を持ってきて、ショウ王太子に差し出す。


「私はマルタ公国での足取りしかわかりませんが、この後の帰航先はスーラ王国のサリザンだと聞いています」


 ひょろっとした長身で、若くて頼りない第一印象のダイナム大使だが、問題の多いマルタ公国の大使に任命されただけはあるとショウは評価しなおす。


「ビザン港をこの日に出航したのなら、サリザンで出会ったのか? それとも、私が出航した後に……」


 スーラ王国のレーベン大使、カザリア王国のパシャム大使、そしてサラム王国のグローブ大使に、ザイクロフト卿の足取りを最優先に調査させるようにと、ショウは厳しい口調で命じた。


「スーラ王国やサラム王国の大使は既に調査しているでしょうが、ザイクロフト卿は次々と船を乗り換えるので、足取りが掴み難いのです」


 ショウ王太子の旗艦ブレイブス号のようにはいかないと、ダイナム大使は眉を顰める。


「商船に乗っているのか?」


 足の遅い商船での航海なら、捕まえる事もできるだろうとショウは考える。


「まぁ、商船ということになっている海賊船ですけどね。

 この前、ビザン港に寄港した時は、ローラン王国の難民の娘を売り飛ばしていました」


 ショウは、ザイクロフト卿もバルバロッサから風の魔力を受け継いでいるのか? と疑問を持ったが、王族の恥を新任の大使と話し合うのを避けた。レーベン大使に、ザイクロフト卿が乗った商船がサリザンに着いた航海日数を聞けば、判明することだからだ。


「ジャリース公には他にも公子がいると聞いているが、ヘルナンデス公子よりまともなのはいるのか?」


 ひょろっとして頼りなさそうなダイナム大使の眼がキラリンと光る。すくっと立ち上がり机に向かうと、ずっしりとした調査書をショウ王太子に見せる。


「ヘルナンデス公子は第一公子なので後継ぎとされてますが、近頃の海賊との行き過ぎた癒着ぶりと、ジャリース公の大勢の取り巻き連中への非難めいた言動で親子間に暗雲が湧いてますね。

 ジャリース公は、ヘルナンデス公子の傲慢な態度を許す程、我慢強い方ではありませんから」


 浮き浮きと話すダイナム大使にショウは呆れる。やはり、東南諸島の大使は陰謀が三度の食事より好物らしいと、ショウは内心で溜め息をつきながら聞く。


「ジャリース公の公子は、父親に似て贅沢や綺麗な女や男が好きですが、一番まっとうそうなのは第四公子のギルバートです。

 しかし、第二、第三公子でも、ヘルナンデス公子よりはマシです」


 長々と八人もの公子の説明をしそうなのを制して、誰をヘルナンデス公子の後釜に据えるべきか質問する。


「まぁ、どの公子でも同じようなものですね。団栗の背比べですが、第二のルーパス公子、第四のギルバート公子はマシです」


「ギルバート公子の年齢は幾つだったかな?」


 できたら、ジャリース公には即刻引退して欲しいので、ギルバート公子が若すぎるのなら、第二公子が良いと考える。


「ギルバート公子は21歳です、ちなみに第二公子のルーパス公子は25歳です」


 どうだろう? とショウは悩む。


「どちらとも面識が無いから何とも言えないな……マルタ公国では長子相続が普通なのか?」


 東南諸島連合王国では、アスラン王もショウ王太子も、第四、第六王子なのに跡取りになったが、旧帝国の流れを汲む王国は基本は長子相続だ。


「マルタ公国も基本は長子相続ですが、旧帝国三国とは違い一夫多妻ですからね。

 寵妃の産んだ公子が跡取りになる場合もあります。勿論、邪魔な上の公子達は始末されますが……」


 ひょっとしたら、第四公子のギルバートを選んだ場合、第二、第三公子は事故に遭ったり、病気になったりするのかと、ショウは眉を顰める。


「お会いになってみますか?」


 長居は無用だとはいえ、会わずに決定もできないと頷く。


「でも、ジャリース公とヘルナンデス公子には会いたく無いのだが……」


 ついでに会ったら良いのにと、ダイナム大使は肩を竦めたが、変態親子が大切な王太子に何をしでかすかわからないので、さっさと裏で押す相手を決めて貰う事にする。


「早速、秘密に会う段取りをつけます。

 東南諸島のショウ王太子と密談したのがバレたら、ジャリース公に殺されちゃいますから、さっさとしなくては!」 


 まさか、父親が息子を殺したりしないだろうと、ショウは睨みつける。


「ジャリース公はヘルナンデス公子に疑惑の目を向けていますから、大っぴらにショウ王太子が面会されて、仲良しアピールすれば、策略などしなくても始末してくれそうですよ。

 それは他の公子でも一緒ですけどね」


 そんなに親子間の確執があるのかと、ショウは首を捻る。


「ヘルナンデス公子は、そろそろ親が鬱陶しくなる年頃ですからね」


「ザイクロフト卿がヘルナンデス公子を唆しているのか? ジャリース公に取り入れば簡単なのでは無いのか?」


 決して好きでは無いジャリース公だが、ビザンを管理する能力はあるのだから、ザイクロフト卿が容姿に優れているのなら簡単だろうと疑問を持つ。


「ジャリース公はアスラン王にぞっこんですから、偽者では……」


 アスラン王にそっくりのショウ王太子なら何でも言うことを聞かされますよとダイナム大使に暗に示唆されて、ショウは絶対に嫌だと叱りつける。


「まぁまぁ、冗談ですよ。さぁ、ルーパス公子を呼び出す前に、お風呂を用意させます」


 綺麗に磨き立ててあげなさいと侍従達に指示をしているのを聞いて、何故か風呂に入りたくない気分になったショウだった。

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