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海と風の王国  作者: 梨香
第十三章 迫る影
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15  若いダイナム大使

 ルカが卵を産むと、エスメラルダは竜舎に籠りっきりになった。


 カミラ夫人は、新婚旅行中なのに理解できないと首を横に振ったが、ショウ王太子が花嫁を置き去りにしてマルタ公国へ行くと聞いて呆れ果てる。


「ブレイブス号はアルジエ海のラグーン港に回らせてますから、其処まではサンズに乗せて貰います。でも、サンズはまだ孵って間もないフルールの側にいたいでしょうから帰します」


 ヌートン大使は、マルタ公国でザイクロフト卿と組んで海賊と癒着しているヘルナンデス公子を追い落とす策略を巡らすのかと、羨ましくて仕方がなかった。


「ホインズ大尉に、ラグーン迄送らせます。サンズも連れて帰りますから、ご心配は無用です」


 策略は羨ましいが、ショウ王太子がザイクロフト卿を自ら成敗しようと考えているのには危惧を感じていたので、レイテからの通達が無いのが不安だ。


 ヌートン大使は、遠ざかる二頭の竜と真白を見送りながら、アスラン王の考えは理解できないと溜め息をついた。





『本当に付いて行かなくて良いの?』


 ラグーン港のブレイブス号の甲板に降りたサンズは、ショウがザイクロフトをやっつけるつもりなのに気づいていたので、心配して尋ねる。


『今回はマルタ公国のヘルナンデス公子についての調査がメインだから、サンズが心配するようなことは無いよ。

 フルールは未だ幼いし、ルカは卵を抱いているから神経質になってるし、サンズは側にいて欲しいんだ』


 真白はサンズとショウの会話を聞いていたが、雛竜についててやる方が良いと、ピィと一声鳴いた。


『ショウの面倒は私がみるよ!』


 ショウと真白にそう言われると、本音は雛竜フルールの側にいたいと感じているサンズは、無茶な真似はしないでね! と約束させて、ダークと一緒にユングフラウに帰った。


「さぁ! マルタ公国へ急ごう!」


 騎竜との別れが済んだので、ワンダー艦長へ出航してくれと指示を出す。


「できたら、ルカの卵が孵る前にユングフラウに帰りたいんだ」


 ワンダー艦長は、士官達に帆を全開にさせる。


「一石二鳥じゃないけど、イルバニア王国の沿岸を航行して欲しいな。新婚旅行中だから、ややこしい話は遠慮して下さっていたけど、ウィリアム王子はずっとパトロールばかりだとエリカに愚痴られたんだ」


 テレーズ王女とエリカは、それぞれ余計な事に口を出した件で叱られたが、結果オーライで週末の謹慎だけで許された。


 謹慎明けにフルールを見にきたエリカに、ちっともウィリアム王子とデートできないと愚痴られた挙げ句、新婚旅行で良いわねと拗ねられたショウは、このままでは竜姫が復活しそうだと感じたのだ。


 やっと、テレーズ王女とまともな関係になりつつある時期に、エリカが竜姫になったら大変だと、ショウはどうせマルタ公国に行くなら、沿岸をパトロールしながらでも良いと思った。


 ワンダー艦長はパトロールも苦にしないので、アルジエ海のイルバニア王国沿岸を航海させる。


「サンズがいないと、変な気分だなぁ」


 いつも、甲板でサンズに寄りかかって帆に風を送り込んでいたので、何となく寂しく感じるショウだったが、真白が肩に止まって相手になってくれる。





 東南諸島連合王国のショウ王太子の旗艦の目の前で海賊行為をする馬鹿者はいなくて、マルタ公国には順調に着いた。


「ビザンはいつ見ても綺麗な街なんだけどねぇ」


 白い壁にオレンジ色の屋根、それに南国の植物が植えられたビザンの街は綺麗に整えてあり、ジャリース公が海賊を匿ってる点は頂けないが、そこそこまともな統治をしているのだと、渋々ショウは認める。


 ワンダー艦長も街並みの美しさは認めたが、海賊船のねぐらになっていると、眉を顰める。


 何時もはサンズで大使館にひとっ飛びのショウだが、ボートでビザン港に向かう。ワンダー艦長も護衛がてら同行する。


「ねぇ、ダイナム大使に会ったことある?」


 岸で出迎えているダイナム大使は、今までショウが会った大使達より明らかに若い。


「いえ、私も初めてお目にかかりますね」


 ショウ王太子の旗艦の艦長になってから初めてマルタ公国へ寄航したのだと言い、ひょっとした長身の若い大使に大丈夫だろうかと、厳しい視線を向ける。


「まぁ、あのバッカス外務大臣の後任を任されたのだから、若くても遣り手なのだろう」


 ワンダー艦長は苦手なバッカス外務大臣を思い出して眉を顰めたが、能力は一流だと認めていたので、今度の若い大使も大丈夫なのだろうと頷く。


「ショウ王太子! こんなに急にどうされたのですか?」


 桟橋に飛び上がるショウ王太子に手を差し出しながら、ダイナム大使は予定にはなかった訪問の理由を問い質す。


「ダイナム大使、こちらは私の旗艦のワンダー艦長だ」


 馴れた様子で桟橋に飛び上がったワンダーを紹介して、話は後だと大使館へ向かう。


 馬車の中で、20代後半で大使に就任したダイナム大使が、今まで会った大使とは凄く若く感じたショウは、ハッと問題のサラム王国のグローブ大使も新任だったと思い出す。


……偶然なのか? それとも、サラム王国とマルタ公国の大使が若いのは意図的なのか?……


 バッカスが外務大臣になったのは、父上が選んだわけではないのは承知している。


 しかし、サラム王国のグローブ大使も若い新任大使なのは偶然だとは考えられないショウは、やはりザイクロフト卿を始末するのを、自分に任せるつもりなのだと拳を握りしめた。


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