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海と風の王国  作者: 梨香
第十三章 迫る影

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14  ユーリの同胞?

 ショウは、ザイクロフト卿がイルバニア王国で策略を巡らしたのは、エリカがウィリアム王子と婚約したからなのか、それとも小麦を輸出しているのを羨んだのか、判断に苦しんだ。


 しかし、そんな事で悩むのは止めて、ハッサン兄上のアドバイスに従い、東南諸島連合王国に害する者はとっとと始末するべきだと割りきる。


 サンズの卵が孵り、ルカが卵を産むまでの2週間は、やっと新婚旅行らしくなり、エスメラルダとユングフラウの街を散策したり、王宮に招かれたりして過ごす。




 馬車で、新しいドレスで着飾ったエスメラルダと国王夫妻の晩餐会に向かいながら、ショウは少し緊張しているのを感じて話しかける。

 

「キャベツ畑の呪いを真似したのは、ユーリ王妃にバレてるだろうけど、メッシーナ村にも伝わってたとシラをきったらいいんだよ」


 勝手に真似をしたのを咎められるのではと、エスメラルダは心配していたのだが、ショウは民間の伝説になっていたぐらいだから大丈夫だと肩を竦める。


「でも、この数年でキャベツ畑を作ったのは、ご存知だと思いますけど……」


 真面目なエスメラルダは、ユーリ王妃に真似した事を正直に告げて、色々とアドバイスして欲しいと願っていたのだ。


「まぁ、それは何とでもごまかせるよ。

 エスメが大人になるまで、キャベツ畑の呪いはできなかったとかさぁ……あれは子どもを産める状態の女性しか出来ない呪いみたいだし」


 ちょっと微妙な話なので、こちょこちょとエスメラルダの耳元で頬を染めて話すショウだったが、馬車に同行していたヌートン大使は聞き耳をたてる。


「なるほど! それで、ユーリ王妃はキャベツ畑の呪いをされなくなったのですね」


 これ! とカミラ夫人に扇子でパシャリと軽く叩かれて、失礼と謝ったが、ヌートン大使は若いエスメラルダ妃ならこれから何回もキャベツ畑の呪いができそうだとほくそえむ。


「ヌートン大使、レイテに余計な事を報告したのでは無いでしょうね」


 ヌートン大使は、余計な事などは報告していませんと、真顔で宣言するが、ショウは絶対に報告したなと溜め息をつく。


 エスメラルダは、なかなか王太子は大変なのだと少しずつ理解してきた。




 そうこうするうちに、馬車は王宮に着いた。


「まぁ、バラの香りが風にのって……それに、なんて綺麗なのかしら!」


 エスメラルダはリリアナ妃のお茶会に招待されて、一度王宮に来たことはあったが、夜の王宮はシャンデリアの灯りが華やかで、まるで御伽の国に来たみたいに感じる。


「カミラ夫人、おかしくはないですか?」


 夜のローブデコルテを着るのは初めてのエスメラルダは、胸や背中が開いているデザインが着こなせているのか不安でドギマギする。


「エスメ、とっても綺麗だよ! さぁ、私もついてるから大丈夫」


 茶色の豊かな髪を結い上げて、見事な南洋真珠の髪飾りを付けたエスメラルダは、帝国から逃げた人々とイズマル島の現地民との血が混ざりあったエキゾチックな魅力に満ちている。


 大使夫妻は、今夜はショウ王太子が一緒なので、エスメラルダ妃はより美しく見えると、初々しい花嫁が幸せそうなのを微笑ましく感じながら後に続く。





「そう言えば、今度のショウ王太子の花嫁は旧帝国から逃げた人々を祖先に持つのね」


 ユーリ王妃は旧帝国に反乱を起こしたフォン・フォレストの出ではあったが、さほどその件に関しては深く考えずにいた。


 何故なら、父親のウィリアム・フォン・フォレストと母親のロザリモンド・フォン・マウリッツは駆け落ちをして、田舎の農家の娘として育ったので、とっくの昔に滅びた旧帝国に反乱を起こした一族の事など全く知らずに育ったからだ。


「貴女の祖先と同胞なのかもしれないね」


 結婚して何十年もたってもラブラブなグレゴリウスは、綺麗に着飾ったユーリをソッと抱き締めて頬にキスをする。


「お祖母様が生きておられたら、何と仰ったかしら? いいえ、きっとお祖母様は、そんな昔の事はどうでもよいと思われるわね」


 グレゴリウスはモガーナ様が少し苦手ではあったが、愛しいユーリが慕うのは理解できたので、懐かしそうに涙ぐむのをギュッと抱き締める。


「昔の事はどうでも良いかもしれないが、エスメラルダ妃は緑の魔力持ちなんだ」


 ユーリは娘のキャサリンからとっくにキャベツ畑の呪いの件は聞いている。


「とても良かったと喜んでいるのよ! キャサリンだけでなく、リリアナも欲しいと願っているわ……でも、アリエナは無理でしょうね……イルバニア王国には未だ良くない感情を持つ人々もいるから……」


 敵対国だったローラン王国に嫁いだアリエナを心配するユーリを、グレゴリウスは慰める。


「フランツを大使に派遣したから、きっとアリエナの助けになるよ。

 少しずつ国民感情も良好になってくるさ!」


 そう言ったものの、グレゴリウスも一朝一夕に両国の関係が友好的になるとは考えていない。


「ねぇ、東南諸島はローラン王国とも友好的だったわよね!

 ショウ王太子はミーシャ姫と結婚されるのだし……」


 グレゴリウスは慌てて、外交音痴のユーリが余計な事を言わないように注意する。


「あのねぇ、ショウ王太子はエスメラルダ妃と新婚旅行でユングフラウに訪れておられるのだよ。

 ミーシャ姫の件はタブーだ!」


 そのくらいわかってる! と唇をつきだしたのにキスをしていたら、マウリッツ外務大臣が呼びに来て呆れる。


「仲がよろしいのは結構ですが、そろそろお着きですよ」


 女官や侍従がいちゃいちゃしている国王夫妻に声を掛けれないのを見かねて、外務大臣としてではなく、身内として呼びに来た。


「あっ、ユージーン! 何か貴方に尋ねたいことがあったのだけど……」


 ユーリは、ショウ王太子がフォン・フォレストの図書室からアレックス教授が勝手に持ち出した真名で書かれた書物を読んだ件を問いただそうとした。


 しかし、フィリップ皇太子夫妻と仲良く話ながら新婚のカップルが王宮のダイニングに到着したので、にこやかに出迎える。


「今夜は御招待下さり、ありがとうございます。

 こちらが、花嫁のエスメラルダです」


 初々しい花嫁が緊張しているのを察して、ユーリ王妃は優しく話しかけているうちに、ショウ王太子が何故真名を読めるのかという疑問は何処かにいってしまった。

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