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海と風の王国  作者: 梨香
第十三章 迫る影

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8  何か怪しい!

 リリアナ妃のお茶会を終えたエスメラルダは、大使館に帰るとドレスを普段着に着替えてルカの元に向かう。


 大使館には何頭も休める立派な竜舎があるのだが、卵が孵るまで親竜のサンズは神経質になるので、大使館付きの竜騎士ホインズ大尉のダークとルカは寝る時以外は外で過ごしている。


『ルカ、ダークとは仲良くしている?』


 ルカもサンズよりは年上だが若い竜なので、ダークは甘やかしていた。


『ダークはとても優しいよ! でも、サンズみたいに卵を産みたいなぁ、後十日したら孵ると言ってたよ』


 ルカは子竜は可愛いだろうなと、溜め息をついた。


『ごめんね、そのうちルカにも子竜を持たせてあげるから』


 ルカは頷いたが、早く子竜を持ちたいとの欲求は日々高まっていた。普段なら、エスメラルダは騎竜の気持ちに敏感なのだが、今回は初めての外国訪問に気を取られて気づかなかった。



 


 ショウも新婚旅行中なので、大使館の外には出かけないが、食事の時間はエスメラルダと一緒に過ごしたし、夜もベッドを共にしていた。


 ショウが竜舎に籠っている間に、カミラ夫人はファッションの都ユングフラウの若手デザイナーを大使館に呼び寄せて、エスメラルダのドレスを何枚も作らせた。


 お茶会の次の土日には、エリカだけでなく、見習い竜騎士の試験に疲れたミミが大使館で過ごすことになっていたので、カミラ夫人はタブルブッキングにヒヤヒヤする。


「そうだね、ミミにエスメを紹介しないといけないね……」


 ショウはエスメラルダにミミとの経緯を簡単に説明する。


「本当なら、夏に私の後宮に入る筈なんだけど、リューデンハイムにエリカとテレーズ王女だけになるのはマズいから、ミミに1年寮に残って貰うんだ」


 エスメラルダは、この前のリリアナ妃のお茶会で、テレーズ王女が丈の長いワンピースを着ていた件で、二人が一触即発だったのを思い出して話す。


「でも、キャサリン様がテレーズ様を叱られて、後は仲良くされていたわ。

 エリカ様はテレーズ様を夏休みにレイテに招待されていたし」


 素直なエスメラルダは、喧嘩するほど仲の良い友達なのではとショウに微笑む。


 竜姫のエリカと我が儘天使のテレーズを知っているショウは、怪しいなとピンとくる。


「ねぇ、お茶会での話を詳しく教えてくれないか? あの二人が夏休みを一緒に過ごすだなんて、怪しすぎるよ!」


 エスメラルダは会話を思い出しながら話していたが、そう言えばリリアナ妃が急に庭のサクラを見ようと立ち上がった時に、少し微妙な雰囲気だったと告げる。


「確か、テレーズ様がサザーランド公爵の騎竜が卵を産んだ時の事を尋ねようとされた時に、リリアナ妃が突然……」


 エスメラルダも結婚の前に騎竜の交尾飛行で妊娠する可能性があることを母親に聞いていたが、どうも自分の身体には異常は見当たらないと少し気落ちしていたので、キャサリン様の失望を見かねてリリアナ妃がテレーズ様の質問を止めたのだと感じる。


「エスメ、未だ新婚なのだから……」


 ショウも交尾飛行でララとロジーナが妊娠したので、もしかしたらと考えていたが、少しガッカリした様子のエスメラルダを抱き寄せる。


 そうなると新婚なので、いちゃいちゃしだすのは自然の成り行きで、ショウは妹のエリカとテレーズの言動が怪しいと感じていたのに、手を打つのが遅れてしまった。





「ショウ様! お久しぶりです」


 大使館に着くなり、ミミはショウに抱き付いた。


「ミミ、見習い竜の試験が大変そうだね」


 慣れた手つきでミミを引き剥がすと、呆気に取られているエスメラルダに紹介する。


「エスメラルダ、こちらがミミだよ。ミミ、私の妻のエスメラルダだ」


 ミミも子どもではないのだとショウ様にアピールしなきゃと考えて、嫉妬を抑え、にこやかにエスメラルダに挨拶する。


 ドキドキしながら柱の陰から様子を窺っていたカミラ夫人は、平和に週末を過ごせそうだとホッと胸を撫で下ろした。


「ねぇ、ショウ兄上! 私は竜の卵を見たことが無いの。

 サンズに卵を見せてくれないか、頼んで欲しいの」


 エリカもミミがエスメラルダと揉めるのではと心配して、少し様子を見ていたのだが、先週はリリアナ妃のお茶会へ行ったので卵を見せて貰えなかったとせがむ。


「私も竜の卵を見てみたいわ」ミミも負けずとエリカの反対側の手を引っ張ってせがむ。


 ヌートン大使やカミラ夫人は、何時もの騒動に慣れていたが、エスメラルダは驚いて目をパチクリする。


「ちょっと、ミミもエリカも待ってよ! サンズは卵が孵るまでは神経質になっているから、竜舎に入って良いか聞いてみなきゃ」


 二人は「そうなの? なら聞いてみて!」と、ショウの手を引っ張っるのはやめたが、卵を見たいと期待で目を輝かす。


 サンズはちょっとだけならと承知したので、ミミとエリカは本当に一瞬だけ青白い卵を見せて貰って満足する。


 カミラ夫人は「エスメラルダ様はよろしいのですか?」と大使館に残ったのを気づかった。


「私は父のモリーが卵を産んだ時に見せて貰いましたから」


 ミミやエリカに比べると押しが弱いエスメラルダが、王家の女その物のロジーナやメリッサに負けてしまうのではと、カミラ夫人は溜め息を圧し殺す。




「ねぇ、エリカ様? 先週のリリアナ妃のお茶会には、エスメラルダ様が招待されたのですよね」


 卵を産んだサンズが神経質になっているので、長居をしないでミミとエリカは素直に大使館へ戻る。


 エリカはミミがエスメラルダに嫉妬して、お茶会で何を話したのか情報を収集しようとしているのを察した。


「ミミ! 貴女は未だショウ王太子の許嫁にすぎないわ!

 エスメラルダは王太子の妃なのだから、足を引っ張ったりしたら承知しないわよ」


 竜姫振りを復活させたエリカに、ミミは慌てて弁解する。


「だって、嫉妬するなと言われても無理なのは、エリカ様もわかるでしょ。 

 それに、お茶会からエリカ様とテレーズ様の様子がおかしいんですもの、何か有ったのかと不審に感じても……」


 エリカにキッと睨みつけられて、おっかないと首を竦めたが、意外なことに相談を持ちかけられた。


「ねぇ、ミミはラルフの絆の竜騎士だから、私より交尾飛行に詳しいわよねぇ。

 テレーズ様は絆の竜騎士だけど、お子様だから、私と同じ程度しか知識が無いのよ」


 エリカはウィリアム王子なら一発で落ちる笑顔をミミに向けるが、そんなのに捲き込まれたくないと逃げをうつ。


「私も交尾飛行なんて詳しく無いわ! ラルフは私がショウ様と結婚するまでは交尾飛行をしないと言ってるもの! あっ、見習い竜騎士の試験勉強をしなくては……」


 逃げ出そうとするミミの手を掴まえて、エリカはラルフの元に連れていく。


「ヴェスタは騎竜では無いので、交尾飛行については聞けないの。

 ラルフに質問してみても良い?」


 サンズが卵を抱いているので、昼は他の竜達は大使館の庭でのんびりと日向ぼっこをしている。


 ラルフの側にはヴェスタやルカやダークもいて、エリカが騒いでいるので、金色の目を開ける。


『エリカ、君が結婚するまでは私は交尾飛行はしないけど、知識は持ってるよ』


 もう少しエリカが落ち着いてきたら絆を結ぼうと考えているヴェスタは、ミミの騎竜とはいえ自分を差し置いて仲良くして欲しくないと口を挟む。


『なら、ヴェスタで良いわ! ミミは見習い竜騎士の試験勉強で忙しいなら大使館へ帰っても結構よ』


 ミミも交尾飛行には興味があるので、自分が何か怪しい事に捲き込まれないのなら、聞きたいとその場に残る。


『ヴェスタ、テレーズ様の騎竜ランサーを呼び出して! あっ、勿論テレーズ様も一緒にね』


「何故?」ミミは仲が良いとは言えないテレーズを大使館に招く意味がわからないが、二人の関係が改善したのならショウ様の後宮に嫁げるとの期待が込み上げてきたので、黙って成り行きをみる。


 ルカは、ヴェスタやラルフとの話を黙って聞いていたが、むくむくと子竜が欲しい! との欲望が燃え上がっていた。


 絆の竜騎士とはいえ未婚のミミはルカの変化に気づかなかったし、ショウはサンズが前みたいに卵を割る力が雛竜に無かったらどうしようと不安を訴えるのを宥めるのに精一杯だった。


『ヴェスタ、何故キャサリン様のボリスまで呼び出したの?』


 この前のお茶会でキャサリン様の気持ちを傷つけてしまったのを、修復しようとエリカはテレーズと騎竜に質問したかったのに、騎竜のボリスが来たら話が筒抜けになってしまうとヴェスタを責める。


『私はボリスを呼んでないよ! ランサーを呼んだだけだよ』


 ランサーから降りたテレーズにエリカが何故ボリスを連れて来たの? と問い質している間に、ルカと首を絡め合っていた。


「ねぇ、ねぇ、揉めてる場合じゃ無いわよ! もしかして……」


 竜姫と我が儘天使が言い争っているのを、ミミが止めてボリスとルカが首を絡め合ってるのを教える。


『ルカ! まぁ、どうしましょう!』


 大使館からエスメラルダが騎竜の変化に気づいて駆けつけて、困惑して立ち尽くす。


 ショウもサンズに『大変な事になってるよ』と教えられて、竜舎から出てきて二頭が求愛行動をしているのを見つける。


「エスメラルダ、この竜は?」


 エスメラルダには答えようも無く、呆然と首を横に振る。


「あのう、ショウ王太子……この竜はキャサリン姉上の騎竜ボリスです。

 私がエリカ様に会いに来たので、付いてきてしまったの……どうしたら良いのかしら?」


 困ったテレーズ王女は天使のような可愛い微笑みを浮かべたが、ショウはそんな手管には引っ掛からない。


「何か怪しいと思っていたのだ! エリカ! ミミ! 説明しなさい!」


 優しいショウに怒られて、エリカとミミはビクンと飛び上がる。


 テレーズも今回は母上だけでなく、何時もは甘い父上にも厳しく叱られそうだと溜め息をついた。

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