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海と風の王国  作者: 梨香
第十二章 新たな問題

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5  真白とルード

 宴会の翌日は、雨期の終わりだと聞いていたが、狩りに相応しい晴天だった。


「私達には気持ち良い天気だけど、雨期が早く終わると拙いのかな?」


 暗いうちから簡単な朝食を食べながら、ショウはメルヴィル大使に質問をする。


「雨期は虫が発生して厄介ですが、此処で生活する人々には恵みの雨ですからね。乾期が長引くと、草は枯れていき、動物達も死んでゆきます」


 死ぬのは動物だけでは無いのだろうと、ショウは何か手を打てないのかと考えた。


「サバナ王国にも川はあるんだろ? 上流に雨期の水を溜めるダムを作って、乾期に流すとかはできないのかな」


 メルヴィル大使は、ダム? と首を傾げたが、そろそろ出発しないと遅刻しますと急かした。


 サンズで狩り場まで行けば、ひとっ飛びなのだが、竜がいると獲物も逃げてしまう。


『真白、狩りに行くよ』


 ショウは真白を肩に乗せる為の、肩当てを付けて馬に乗った。


『狩りは得意だ!』


 大使館の木の枝から、ピィと一声鳴いた真白がショウの肩に止まるのを、メルヴィル大使も感嘆して見つめる。


「見事な鷹ですなぁ! アンガス王は豹を愛しておられるが、鷹も何匹も飼っています。首長達の中にも、鷹を狩りに連れて来る人もいますが、真白ほど立派な鷹はいない!」


 そう言うメルヴィル大使も、大使館の鷹舎から一羽の鷹を護衛の肩に止まらせて連れていく。


「カザリア王国の大使が、招待されてなければ良いのですが……真白の雄姿をエドアルド国王に報告したら、未練を感じて文句を付けるかも」


 ショウは、エドアルド国王の鷹好きに振り回されたシェパード大使を思い出して苦笑する。


「ターシュが帰ったのだから、大丈夫でしょう」


「そうでしょうか? なら、良いのですが。でも、アンガス王は強い動物がお好きですから、真白が活躍すると機嫌が良いでしょうね」


 カザリア王国の大使が招待されているかどうかもわからないので、メルヴィル大使は心配しても仕方ないと馬を走らせる。



 横に広がった首都リアンをゴルチェ大陸の奥に向かって抜けると、広大な草原だ。


「王家の狩り場まで、急ぎましょう」


 ショウは馬を走らせながら、所々に点在する土でできた家と、家畜を木の柵で囲っているのを見た。


「サバナ王国は狩猟民族だと聞きましたが、家畜も飼っているのですね」


「そりゃあ、狩りだけでは食べていけませんからね。アンガス王も多くの家畜を持っていますよ。でも、これから狩るのは、野生の兎や鹿や水牛です」

 

 今は雨期の終わりなので、草も青々としているが、これが乾期になると枯れてしまうのかと、ショウは大自然の苛酷さを感じる。



 王家の狩り場には、大きな白いテントが何個も張ってあり、王族や首長達が豹や鷹を連れて集合していた。


「どうやら、カザリア王国の大使は招待されていないようです」


 メルヴィル大使は狩り場を見回すとホッとして、ショウ王太子をもてなす為の狩りですねと喜ぶ。


「アンガス王、おはようございます。招待、ありがとうございます」


 護衛に護られた一番大きなテントの中に入ると、アンガス王は折り畳みできる木の椅子に座っていた。


「ショウ王太子、ようこそ王家の狩り場に。私は昔気質なので、首都リアンの王宮にいるより、こうして草原のテントにいる方が気持ちが安らぐ」


 足元のルードも同感だと、尻尾をパタンと打ちつけた。テントの中には他の王子達や首長達もいるのかとショウは思っていたが、アンガス王とルードだけだった。


「他の方は?」


 戸惑うショウに、アンガス王は王宮では耳が多すぎると笑う。


「メルヴィル大使、悪いがショウ王太子と二人っきりにさせてくれ」 


 ショウは何事だろうかと、不審に感じたが、メルヴィル大使を下がらせた。


「そんなに緊張しないでも良い。ほら、真白が睨んでいる」


 椅子を勧められて、ショウは腰を下ろしながら、肩に止まっている真白に大丈夫だからと話しかける。


『本当に大丈夫か?』


 警戒している真白の羽根を撫でてやり、落ち着かせてから、アンガス王の目を見る。


「わざわざ王家の狩り場にまで招待して、何のお話でしょう」


 メルヴィル大使まで外に出した用件を、ショウはズバリと問い質す。


「ルードが、ショウ王太子が私の王子達のことを気にしていると言うものだからな」


 しまった! と、ショウは昨夜の宴会で、二派に別れている王子達の様子が気になって楽しむどころでは無かったのを、ルードに気づかれたのだと悟った。しかし、フラナガン宰相に鍛えられたショウは、にっこりと笑って答える。


「ええ、立派な王子達がいらっしゃるので、お近づきになりたいと思ってました。私と同じ世代の王子達と話してみたいと考えたのです」


 アンガス王はアスラン王の王子だけあって、若いがそうそう尻尾は出さないなと笑う。


「交易に長けた東南諸島連合王国の王太子らしい言葉だな。しかし、王子達と何を話すつもりかな?」


 サバナ王国を、ゴルチェ大陸の東海岸の大国にしたアンガス王の、後継者問題に口出しは無用だと言わんばかりの凄みのある目線に、ショウはゾクッとする。


 ショウは、後継者問題に口出しする気は無いけど、もっと考えるべき事もあるのではないかと、アンガス王に微笑む。アンガス王が睨んでも、父上に比べたら優しいものだ。


「そうですね、我が国は交易で立国してますから、相手国の繁栄に興味があるのです」


 自分の圧力を跳ね返して、しゃあしゃあと言い返したショウ王太子を、アンガス王は興味深いと考えた。


『ショウは、ユングとマウイを殺したく無いと考えている』


 ツッと立ち上がったルードが、アンガス王の膝に頭をすり寄せて話しかける。


『アスラン王の王子にしては、甘いな。だが、悪くない』


 ルードの喉元を撫でてやりながら、各国の大使達が後継者問題で策略を練っているのが癇に障っていたが、ショウは関わって無さそうだと感じる。スーラ王国のゼリア王女の許婚だから、何か後継者問題に口を出すのかと考えたが、違うようだ。


 ルードに狩りをしたいと急かされて、アンガス王はにっこりと笑うと、詰まらない話で時間を無駄にさせたと謝罪する。


「ショウ王太子、こんな良い天気なのに狩りをしないのは、勿体ない」


 ショウはどうやらアンガス王の誤解は解けたようなので、そうですねと同意する。



 メルヴィル大使はテントの外で、何事だろうかと、心配していたが、にこやかな二人が出てきたのでホッとした。


「さぁ、皆の者! 狩りの始まりだ」


 ルード以外の豹は首輪に鎖を付けていたが、ルードが走り出すと、解き放されて草原へ狩りに行く。


『真白! お前も狩りにいけ!』


 肩に止まっている真白を、手にうつすと、空中に投げ放つ。青い空に、真っ白な鷹が舞う姿を、アンガス王は見上げる。


 アンガス王は、サバナ王国の領土を広げたが、国は豊かになったのだろうか? 他の首長達が治めていた国の民は、サバナ王国の支配を受け入れているのか? などと暫し考えた。


 狩猟民族のサバナ王国は武力は勝っているが、地理的な要因で、雨期と乾期に別れた天候まかせの生活だ。支配者として周辺の農耕民族から、小麦やトウモロコシなどの穀類を献上させているので、サバナ王国の国民が乾期に飢えて死ぬことはなくなった。


 そして、増えた国民はより多くの家畜を飼うようになったが、乾期にはその多くが死んでしまうか、弱って骨と皮になる。乾期には家畜に与える少ない水場を争って、亡くなる者も多い。


 アンガス王は、青い空を見上げて、魔術師の雨乞いが、きくと良いのだがと祈る。


 晴れ渡った青空は、狩りには相応しいが、雨期の終わりを告げていた。長い乾期は、サバナ王国の本体である地域の家畜も人間も弱らせる。そして、その周辺の併合した首長達の畑から、収穫物を取り上げて飢えを凌ぐのだ。


 アンガス王は自分の力で、首長達は抑えられるが、ユング王子やマウイ王子では無理だと感じていた。


 丸々と太った野ウサギを狩ってきた真白を、褒めているショウを見て、アスラン王は後継者に恵まれたと溜め息をついた。

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