4 宴会の夜
豹王アンガス王の宴会は、東南諸島とよく似ていたが、違うのは肉がメインなのと、夫人達も出席していることだ。
ショウは第一夫人が産んだユング王子と、若い寵妃が産んだマウイ王子を見極めたいと宴会にのぞんだが、アンガス王の横に座らされていたので、挨拶程度しか話せなかった。
二十代後半のユング王子は背が高くて、如何にも狩猟民族の王子といった感じだ。
ショウは、のんびりと牛を飼うというより、牛を狩る方が得意そうに見えた。武術は得意そうだけど、大きくなったサバナ王国を治めることができるのか疑問だ。
ショウより年下のマウイ王子は、まだ成長途中なのか、長身が多いサバナ王国の割には背が低かった。しかし、ジェナス王子と裏で取引をしていると噂されている程、馬鹿にはショウは思えなかった。
ショウは、マウイ王子が本当にジェナス王子と繋がっているのか、確かめなくてはいけないと考える。
宴会に出席している夫人達は、男達とは別の場所に固まって座っていた。あまりアンガス王の夫人達をじろじろ眺めるのも良くない気がして、しっかりとは見てないが、第一夫人が上座に悠々と座り、他の夫人達は隅の方へ押しやられているようだ。
ショウはアンガス王や他の部族の首長達と話していたので、王子達とは離れた場所に座っていたが、それでも二手に別れているのに気づいた。
年長のユング王子には、子どももいるだろう。万が一、廃嫡されることになったらどうなるのか心配だ。
延々と続く宴会の間、ショウは後継者争いに気を取られて楽しめなかった。
アンガス王の足元に寝そべっていたルードは、チラリと金色の瞳をあげてショウの方を見た。
アンガス王と一言交わすと、ルードは目を瞑ったが、ショウは何を話したのだろうと不審に感じた。
「ショウ王太子は立派な鷹を連れておいでだ。サバナ王国は元々は狩猟民族なので、狩りは生活の基礎となっている。明日は狩りを催そうと考えているので、ショウ王太子にも鷹を連れて参加して頂きたい」
ショウはメルヴィル大使から、アンガス王から狩りに誘われるのは名誉なことだと聞かされていたので、喜んでと返事をした。
ショウは苦手な宴会がやっと終わって、ホッとしたが、大使館でユングとマウイの二派に別れている王子達の詳しい事情などの説明を受ける。
「ユング王子についている王子達は、元々サバナ王国の部族長から嫁いだ夫人達が産んだ王子なのです。第一夫人も、同じように部族長の娘でしたから、それに従うのも慣れているのでしょう」
ショウはユングには夫人や子供がいるのか? と質問する。
「当たり前です、夫人は何人もいますし、王子も四人います」
ちらりと、まだ王子がいないのを非難される。ショウはレイテの王宮でも、王子の件に事寄せて娘や孫娘を夫人にとの声にうんざりしていたので、メルヴィル大使の当て擦りぐらいは無視する。
「今夜はアンガス王や周辺の併合された首長達としか話せなかったから、ユング王子とマウイ王子の性格や能力はわからない。しかし、マウイ王子はジェナス王子の誘いに乗るほど、愚かだとも思えなかったが……」
メルヴィル大使は、目を煌めかせて説明しだす。
「マウイ王子の母親は、アンガス王のお気に入りですが、元々はスーラ王国の近くを治めていた首長の娘です。あの地方は農耕民族ですし、スーラ王国との繋がりもあったのです」
マウイの取り巻きは、後からサバナ王国に併合された首長の娘が産んだ王子達だと説明されて、後継者争いの根は深いとショウは逃げ出したくなった。
サバナ王国の狩りの作法などを、大使館の武官に説明して貰いながら、ショウは狩猟民族のサバナ王国が周辺の農耕民族を併合していった問題を考えていた。
「豹達の狩りは、見事ですよ。アンガス王のルードは、一発で鹿を仕留めます。王子達や首長達も豹を飼っていますが、ルードほどは飼い慣らせていませんね」
「それは、そうだろう。ルードは話せる豹だからね」
メルヴィル大使は、ショウの言葉に驚いた。
「本当にルードは話せるのですね! 噂では聞いてましたが、魔術師の戯言だと思ってました」
ショウは、今夜の宴会には魔術師の姿が見えなかったが、アレクセイ皇太子の結婚式でスーラ王国と魔術大戦になったのだと思い出した。
「サバナ王国で魔術師はどのような地位なのでしょう? スーラ王国では神官として、高い地位を得ているようですが……」
東南諸島の男らしいメルヴィル大使は、風まかせで大海原に船で漕ぎ出すので、海の女神や風の神に祈りを捧げるし、理屈では無い現象にも理解がある。
「サバナ王国の魔術師の得意技は、雨を降らせることです。乾期になると、雨は一滴も降りませんからね。この首都リアン近辺でも、井戸が枯れることもあります」
なのに、宴会には出席しなかったのかと、ショウは首を傾げる。
「雨期が早めに終わりそうなので、祈祷でもしてるのでしょう」
魔術師の魔力は尊重するが、メルヴィル大使は魔術師には興味がない。
「この大使館は丘の上にあるけど、乾期に井戸は枯れないのか?」
メルヴィル大使は水の確保は最重要課題ですと、どれほど深い井戸を掘ってあるかと説明する。
「他の井戸も、深く掘れば問題ないのでは?」
「とんでもない! この丘の下には水脈が流れているのです。だから、此処に大使館を建てたのです」
航海で水の確保の重大さを知っている東南諸島の大使らしいと、ショウはこの点は大丈夫だろうと頷く。
「メルヴィル大使、サバナ王国の問題点は、後継者争いだけではない。マウイ王子の周辺に、ジェナス王子が接触をどの程度しているのか、詳しく調査し直してくれ。それと、ユング王子の能力が知りたい。狩りでは話しても、治世能力は計れないので、ゆっくりと話し合う場を設けて欲しい」
メルヴィル大使は、それもしますが……と、物欲しそうな目をしてショウを眺める。
「私はこれ以上は妻を増やしたくないのです! これだけは、肝に銘じておいて下さい」
ビシッと叱られて、一応は了承したが、レイテにお伺いをたてようとメルヴィル大使はほくそ笑む。




