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海と風の王国  作者: 梨香
第十二章 新たな問題

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2  サバナ王国のアンガス豹王

『ショウ! もうすぐ着くのか?』


 ブレイブス号の帆桁に止まった真白が、ピィと高い声で鳴いた。


 ショウは、サンズに寄りかかって帆に風を送っていたが、真白の声で立ち上がると前方に広がるゴルチェ大陸を眺めた。


『スーラ王国より南に下りるから、まだかな?』


 立ち上がったショウの肩に、真白は上手に飛び下りた。


『鶏には飽きたから、少し陸で狩りをしてくる』


 ショウは、ワンダー艦長にそろそろスーラ王国を抜けたかと尋ねた。


「ええ、ジャングルは抜けたので、サバナ王国の領地ですよ。首都のリアンに、明日は着くでしょう」


 真白に大型肉食獣もいるから気をつけるようにと注意したら、フン! と返事をして飛び立った。


「真白は見事な鷹に成長しましたね」


 ワンダー艦長も両羽根を力強く羽ばたかせる真白に感嘆の声をあげる。


「ターシュの子鷹だからね」


 フン! と言う言い方も似ていると、ショウは苦笑する。


「ねぇ、ワンダー艦長は、リアンには行ったことがあるの?」


 初めて訪問するリアンについて、ショウはバッカス外務大臣から諸注意を受けていたが、ワンダーからも印象を聞きたいと思った。


「リアンはゴルチェ大陸で、サリザンと一、二を争う都市ですよ。でも、三角州にある緑と水に溢れたサリザンと違い、横に広がっている感じですね。確か、乾期と雨季があったと思います。乾期の方が私達には過ごしやすいですが、雨季がないと奥地は干上がってしまうのでしょうね」

 

 今は雨季の終わりだと聞いて、過ごしやすかったら良いなとショウは考える。


 ジャングル地域を抜けて、草原や畑が見えてくるとサバナ王国の町が所々に点在している。


「そろそろ、リアンですよ」


 海岸線が少し西にカーブした奥に、リアンの港が見えてきた。


「リアンは本当に横に広がっているんだね」


 バッカス外務大臣から、元々は狩猟民族なので簡単な家しか造らないとは聞いていたが、ショウは首都にしてはまとまりがないように思えた。


 その中で一番大きな建物が王宮だとワンダー艦長から聞いて、ショウは頷く。


「東南諸島連合王国の大使館は、少し小高い丘のあの建物です」


 遠目でも東南諸島様式の建物は目立っていた。白い大理石を何処からか運ばせて建築してある。あとは旧帝国三国と思われる大使館と、隣のスーラ王国らしい大使館とが王宮と共に大きな建物だった。


「雨季は湿気るからかな? 港の近くの建物は高床式だね……」


 ワンダー艦長は、雨季の初めは港の近くでは、あちこちで小川ができると眉を顰めた。


「治水工事とかはしてないのか?」


「さぁ、乾期には川は干上がるし、雨季の初めだけですからね。畑を開墾するには治水工事も必要でしょうが、サバナ王国では牧畜が盛んですから」


 此処まで南下する途中でも、畑より草原の方が多かったとショウは頷く。そうこう話しているうちに、大使館付きの竜騎士がメルヴィル大使を乗せてブレイブス号に迎えに来た。


「ショウ王太子、ようこそリアンにいらっしゃいました。私は駐在大使のメルヴィルです」


 東南諸島の大使としては日に焼けた背の高いメルヴィルは、にこやかにショウに挨拶をした。


「メルヴィル大使、出迎えご苦労だった」


 子どもの頃から知っている大使ではないので、ショウは王太子として応える。


「長旅でお疲れのところですが、アンガス王がお待ちかねですので、これから王宮に到着の挨拶をしにいきませんと」


 ショウは慌ただしいなと困惑したが、ざっと着替えて王宮へと向かった。 


 サンズの後を真白がついて来ていたが、アンガス王の豹と喧嘩しないようにと注意した。ショウの立太子式にレイテへアンガス王が訪れた時は、大事にしている豹は子育て中なので同行していなかった。


「アレクセイ皇太子とアリエナ妃の結婚式で、駐在大使の豹がスーラ王国の大使のヘビを殺して、魔法大戦争になったんだよな」


 王宮で飼われている豹なのだから、人を襲ったりしないだろうが、真白に危害を加えたりしたら困る。


『真白、私の肩に止まっているんだよ』


 王宮の前でサンズから降りたショウは、空を舞う真白に声を掛けた。


 豹になんか捕まえられたりしないとの真白の返事が返ったが、言うことを聞けないならグレイブス号で待っていろと叱ると、フン! と言いつつも肩に止まった。


『サンズ、待っててね! アンガス王に到着の挨拶をしたら、食事をさせてあげるから』


『そこまで空腹じゃないから、慌てなくても良いよ』


 サンズは庭で寛いでいるのを見て、メルヴィル大使の案内で王宮の入り口に向かった。


 背の高い護衛が黒い服を着て威圧的に槍を交差させていたが、中から文官が出迎えに来たのでスッと上にあげる。


「ようこそ、ショウ王太子、メルヴィル大使」


 文官に案内されて王宮の中に入ると、外の無骨な赤茶けた石造りからは想像できない、繊細なモザイク模様で飾られていた。


 アーチ型の大きな窓から風が吹き抜けるので、外の暑とは違って、ひんやりと気持ちがよい。王宮の中庭には木々が植えてあり、ショウは少しホッとする。


 回廊を巡って本殿に着くと、王座にアンガス王が豹を足元に寝そべらして待っていた。護衛と同じ黒い服装だが、素材も違うし、首からは何個かの宝石を金属の板にはめ込んだ金鎖を下げている。


「アンガス王、ご招待に応じて参らせていただきました」


 アンガス王からは何度か訪問を促す招待状が届いていたが、本当にこの数年のショウは忙しかったのだ。


「ショウ王太子、ようこそサバナ王国へ。さぁ、こちらにお座り下さい」


 アンガス王の横に低い座椅子が置いてあり、ショウとメルヴィル大使は座った。黒い服装が正装のサバナ王国で、ショウ王太子とメルヴィル大使の白い東南諸島の服装が目立つ。


 アンガス王の足元にいた豹が、黒い艶やかな身体をしなやかに動かして、金色の瞳をショウ達に向けた。


『これこれ、ルード、ショウ王太子の肩に止まっている鷹はお前のおやつではないぞ』


 よしよしと黒豹を愛しそうに撫でるアンガス王に、よく躾けてあるようだと安心する。


「その鷹は、エドアルド国王の愛鷹ターシュの子か?」


 黒い瞳を煌めかして真白を眺める。

 

「ええ、真白といいます」


「良い鷹だが、ショウ王太子から離れそうにないな。ルードが私から離れないのと同じだろう」


 ルードはアンガス王が興味を示したのが気に入らないと、ショウの方へとしなやかに歩いて来た。


『ショウ! あの豹は機嫌を損ねている』


 ピィ! と警告の声を発した真白だが、ショウは大丈夫だと宥める。


『やぁ、ルード、初めまして。私はショウ、そしてこの鷹は真白だ』


 パタンと尻尾を床に叩きつけて『ルードだ』とだけ応えると、アンガス王の足元に寝そべった。


「おや、ルードが話すなんて珍しい。私にも滅多に話してくれないのだ。もしかして、その真白も話せるのか?」


 ショウはアンガス王は豹の言葉は聞こえるが、真白の言葉は聞こえないのだと気がついた。


「ええ、少しだけですが」


『少しだけじゃない!』肩の上の真白が、ピィ! と抗議の声をあげる。


 アンガス王はプライドの高い豹を愛しているので、鷹のプライドを傷つけない方が良いと笑った。 



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