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海と風の王国  作者: 梨香
第十章 結婚生活

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16  マリオ島にて……

 ショウはマリオ島の小さな小屋で、ララと二度目の新婚旅行を過ごしている。


 バナナの葉っぱが屋根に拭き直してあり、床もぴかぴかに磨いてあったので、ショウは途中の島で買ってきた酒をお礼に渡した。ショウの伯父は島主を引き継いでいたし、従兄弟達もいたが、整った顔立ちの王子と、頭の先から爪先まで磨き上げられたお姫様に緊張して、小さな小屋には近づかなかった。


 しかし、ショウとララは島の人達が近づかないことを気にしないで、新婚旅行を楽しんでいた。王宮育ちのショウと王族の姫君として育てられたララにとって、周りに召使いや女官がいない、二人きりの時間はとても貴重なのだ。


 ショウは島の男達と同じように海で魚や海老や貝を取り小屋の前で焼き、ララも島の女のように果物を切って皿に盛り付けるといった、のんびりとした生活を心の底から楽しんだ。簡単な食事だけど、二人きりで食べれるのが一番のご馳走だ。


「ララ! 魚が焼けたよ」


 串刺しにした魚をバナナの葉っぱの上に乗せて、ショウが家の中に持ってくる。


 ララは綺麗に切り揃えた果物を皿に飾る手を止めて、自分に葉っぱを渡すショウをうっとりと見つめた。祖父の家にあった伯父達の古着を着ていても、やはりショウは島の男には見えない品がある。


「さぁ、熱いうちに食べよう!」


 朝から海で魚を取ったショウ様は腹ぺこなんだわと、ララは手早く果物を並べて一緒に食事にする。


 二人でマリオ島に来て、そろそろ一週間になるので、レイテに帰らなくてはいけないのはララも察している。ララは忙しいショウが自分の為に新婚旅行をやり直してくれたのに感謝したし、来月にはロジーナが嫁いでくるのでしっかりしなくてはと、気持ちを強く持とうと考えた。


 簡単な食事は後片付けも楽で、果物を切ったナイフと皿を洗うだけだ。おままごとのような簡単な家事を済ませるララを愛しそうにショウは見つめていたが、いつまでもレイテを留守にはできない。


「ねぇ、ララ! お昼からサンズと泳ごうよ」


 ララは、ショウが最後にと付けなかったけど、今夜にはレイテに帰るのだと察した。


 魚を取って、果物を食べても生活はできるが、アスラン王の王太子であるショウには、そんなスローライフは許されていない。ララは王族に産まれなければ……と口に出しそうなのを堪えて、目一杯海水浴を楽しんだ。


「ララ……そろそろレイテに帰らなきゃね」


 お互いに濡れた身体で抱き合ってはキスしたが、潮だけではないしょっぱい味がした。


「お祖父様に、挨拶して帰りましょう!」


 ララは強くなるんだ! と自分に言い聞かせて、ショウの手を取って祖父の家に向かう。


 キラキラ煌めくエメラルドグリーンの海岸を二人で歩きながら、キスしたり、ふざけて海水をかけたりして、最後の瞬間を引き延ばしたが、小さな島なのですぐに着いてしまった。


「お祖父ちゃん! これからレイテに帰るよ」


 ララに湯浴みのお湯を沸かしてやりながら、ショウは祖父に母親のルビィや弟や妹の様子を話した。


「そうか……ルビィは幸せに暮らしているんだな。手紙にもそう書いてあったが、お前から聞くと安心したよ」


 ショウは、祖父に何故母上を父上に嫁がせたのか、この機会に尋ねておこうと思った。


「何故、お祖父ちゃんは母上を父上に嫁がせたの?」


 ケリンは少し遠くを眺めて、何故かなぁと首を横に振る。


「う~ん、アスラン王は見たことがないほど綺麗な顔をしていたからかなぁ。わしは男に見とれたのは初めてだったが、ゾクゾクッと身震いするほど綺麗だった。ルビィも島一番の別嬪だったし、お似合いだと思ったんだ」


 頭をガシガシ掻きながら、少し照れくさそうに話す祖父をショウは呆れて見つめる。


「もしかして、お祖父ちゃんって面食いなの?」


 マリオ島に住む伯父達も整った顔をしているので、祖母が美人だったのではと質問する。


「まぁなぁ~、お前のお祖母ちゃんは三島一番の美人だったわ。そういうお前も、美人の妻ばかりじゃないか!」


 ショウはそれとこれとは話が違うと思ったが、祖父が凄く単純な理由で母を父に嫁がせたのだと知って、笑いがこみ上げてきたので、抗議はしなかった。


 ララが湯浴みをしている間に、井戸水を頭からかぶり、東南諸島の王族の普段着に着替えたショウを、祖父は若い日のアスラン王にそっくりだと笑った。


「冗談でしょう! 父上みたいに、傲慢じゃあないよ」


 プンプン怒る孫に、ケリンは干し魚を山ほど持たせる。


「母上にも持っていくよ」


 祖父はルビィは干し魚は嫌いだったと笑ったが、島を出て十七年も経つのなら懐かしいかもしれないと言われて頷く。


 綺麗なお姫様を嫁に貰った孫が、又この島に来る機会があるかはわからなかったが、古着を着ても島の男達とは違うショウを見て、王太子なのだと胸に落ちたものがある。


「ショウは、もう来ないかもしれないな……」


 小さくなっていくサンズを見つめて、達者で暮らせよ~と手を振った。

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