21 ヘッジ王国に何が起こっているのか?
新婚のショウとララは、小さな島でラブラブの日々を過ごしていた。
ショウは海で魚や海老を取り、屋敷の下女に料理させる。簡単に焼いただけの魚や海老を、ララと二人で食べさせあっていると、サンズがメリルに挨拶をする声がする。
『メリルが来たのか?』
メリルだけで来る訳もなく、父上の登場に、新婚旅行はお終いだとショウは溜め息をつく。ララも義父になったアスランに丁寧に挨拶したが、がっかりしているのは隠せない。
「ショウ、のんびりしている場合では無い。直ぐに王宮へ帰って、ヘッジ王国について話し合わなければならないのだ」
新婚の二人から恨みの籠もった目で見られたが、傲慢な態度で退ける。
ララが下女に手伝わせて簡単な荷物を纏めている間に、ショウは本当に緊急な用事なのでしょうねと父上に抗議する。
「あのケチなルートス国王が、レイテで新造の大型商船を三隻も買ったのだぞ! その内の一隻で、奴はヘッジ王国に帰ったのだ。こんなに怪しい事があるか」
ショウも確かに怪しいと感じる。
「まさか海賊を始めるつもりでは……」
アスランは鼻をフンと鳴らした。
「馬鹿を言うな! ルートスはジャリースやヘルツとは違うぞ。海賊をしてローラン王国とイルバニア王国と戦争になどなって、賠償金を分捕られると考えただけで、悶絶するだろう」
ショウは海賊でなければ、交易を本格的に開始するのだろうかと首を傾げた。
「交易なら古い大型商船で十分でしょうし、第一隠す必要も無い。パフューム大使を、王宮から遠ざけたり、何かがあったんだ」
アスランはショウが結論にたどり着くまで放置しておこうと、先に帰るぞとメリルに騎乗する。
「父上、何が起こっているのですか?」
ヘッジ王国に何が起こっているのか、ショウには考えてもわからなかったので、モヤモヤして尋ねた。
「考えれば、お前にもわかる筈だ。新婚ぼけしている場合では無いぞ」
そう言い捨ててアスランは、メリルと飛び去ってしまった。
父上が帰ったのだから、少しはゆっくりしても良いのだが、ショウは自分にもわかると宣言されたのが気になって、ラブラブモードが吹き飛んだ。
「ララ、ごめん。王宮に帰って、フラナガン宰相と話し合ってみなきゃ。何か引っかかっているのに、わからなくて気持ちが悪いんだ」
王太子としての顔になったショウに、ララは溜め息をついて、仕方が無いと諦める。
「少しの間だったけど、とても幸せだったから許してあげるわ。さぁ、王宮に帰りましょう」
ショウはララを抱きしめてキスをしたが、海岸でノンビリしているサンズを呼び寄せて、鞍を付けたり、荷物を括り付けると二人で小さな島から飛び立った。
ララは小さくなっていく屋敷を眺めて、感傷的な気持ちになり一粒涙を零したが、ショウにギュッと抱き締められて安心感が込み上げた。
「ショウ様と結婚したのだわ……」
こうしてショウに抱き締められていると安心できるが、王太子としての職務や、考えたくないが他の夫人と過ごす時間を独りで乗り越える覚悟をララは固めた。
ショウは離宮に帰り、ララが部屋に落ち着くのを見てから、王宮にフラナガン宰相を探しに行く。
「ああ、ショウ王太子、お帰りなさい。全く、アスラン王は新婚旅行の邪魔をするなんて、何を考えておられるのやら」
フラナガン宰相は、ショウを王宮に呼び戻して、また何処かへ雲隠れするつもりではと疑っている。
「ヘッジ王国の件で父上は呼び戻されたのですが、何が起こっているのかは教えて下さらなかったのです」
ショウを新婚旅行から連れ帰る餌としたのかとフラナガン宰相は眉を顰めたが、ルートス国王の動きが怪しい事も事実だ。
「アスラン王はご存知なのでしょうか?」
ショウは父上も推測の域を出ないから、ハッキリと口に出さないのでは無いかと考えていた。
「考えれば、私にもわかると言われたのですが……海賊でも無いし、交易でも無いのに、新造の大型船を三隻も購入するだなんて……」
ショウは其処に答えが有るのに手が届かないもどかしさに、父上にもう一度聞こうかと思った。
「船を航海に出す目的は、それだけですかな?」
フラナガン宰相は、ショウの言葉で何か閃いた。
「ええ? 交易とか海賊以外に……そうだ! 新航路の発見を私はしたのに忘れていた。サンズ島の上の北半球は、まだ地図も白紙のままなんだ」
ショウは普通の見慣れた地図ではなく、北の大陸が右と左の端に分断されて記入されている海路図を執務室から持って来させる。フラナガン宰相も確かに北半球には北大陸の両端にヘッジ王国とサラム王国があるだけで、後は全く探索がされていないのに改めて驚いた。
「この空白の海域は私も気になっていたのに、外交や埋め立て埠頭で忙しくて後回しにしていた。パフューム大使を王宮から遠ざけたり、新造の大型船を購入したのは、何か島か大陸があると考える漂流物か、難破して帰還した船でも有ったのかも……」
ショウは地図を眺めて、ヘッジ王国からサラム王国への航路は航行可能かどうか真剣に考える。
「少し難しい距離ですねぇ。途中でせめて水だけでも補給できる島がなければ……あっ、ペナン島やサンズ島を基地にして北半球を探索する方法なら、どうにか出来るかもしれない」
文官のフラナガン宰相も東南諸島連合の男なので、ある程度の航海の知識は持っていたが、これはドーソン軍務大臣と話し合う事案だと考えた。フラナガン宰相がドーソン軍務大臣を呼び出そうとしていたら、アスラン王が現れてショウがやっと気づいたのかと頭を小突く。
「新婚ぼけしてる場合では無いぞ。ルートス国王が先に見つけたら、どうなると思うのだ」
その言葉でショウは考え込む。
「ルートス国王なら発見した島は自分の領土にすると思います。父上、もしその島に住民がいたらどうなるのでしょう?」
考えが甘いショウに、自分はどうするのだと質問仕返す。
「サンズ島は、無人島でしたから問題は無かった。でも、あのケチなルートス国王が探索隊を出そうと計画したのは、何かしらの物証が有ったからだと思います。と言うことは、その島には住民がいる可能性が出てきますよね……」
アスランは、相変わらず甘いと舌打ちをする。
「その島に住民が居たからと、ルートスが占領するのを一瞬でも躊躇するものか。だから、三隻も大型船を購入したのだ。武力で自国の領土を増やすつもりなのだ。それでお前はどうするのだ? 新しい島を発見するだけで満足なのか?」
東南諸島連合王国の王太子としての覚悟を問われて、ショウは自分の気持ちを掘り下げて考える。
「私はその住民達が国家を形成しているなら、交易相手として協定を結びたいです。そして、国家を作る以前の状態なら、連合王国の一島として加入するように説得したいです。勿論、貿易拠点にするために、生産力を高めたりしなくてはいけません」
ルートス国王とは微妙に考え方が違うと、アスラン王とフラナガン宰相は、甘い理想主義的なショウの考えを聞いた。
「では、ヘッジ王国がその島を占領しようとしたら、どうするのだ?」
ショウは未だ発見されても無い島の事を、仮定で質問されてもと言葉を濁す。
「お前は王太子として、国に尽くすと誓約したのを忘れるなよ。その島の規模にもよるが、ヘッジ王国に渡したくないと決意したなら、ルートス国王と一戦交える覚悟もいる。まぁ、確かにどのような島なのかもわからないが、あらゆる場合を想定して準備をしなければならない」
ショウはグッと拳を握り締めた。




